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怪鳥襲来
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「向こうまで、あとざっくり8時間かぁ。」
発進2時間後、野中機隊員の1人がそう呟く。
「(長時間飛行)腹減んないっすか?」
「腹減ったなー。」
「悪いが飯は4時間後だ。」
「マジですか親分…。」
「文句言うない、冷蔵庫やらサイダーやら、ご丁寧に便所まであるのに感謝しろい。」
「確かに…。」
搭乗員たちにとって、この富嶽機内は未知の空間であった。
一度二式大艇の中を覗いて驚いたこともあるが、悪いがそれとも桁が違う。
まあ、この富嶽自体、中島に川西、三菱が共同で開発に参画したものであるから、多少の既視感らしきものはあるかもしれない。
(特に川西の機体設計、防弾のノウハウは貢献するところ大であったと聞く。)
あとは…。
野中は翼で唸るエンジン群に目を向ける
あと17時間以上、果たして保ってくれるか。
冷却の問題はシリンダー配置等の工夫で解決したと言うが…。
未知の領域の大きいエンジンの為、工場のラインで無く、中島、三菱の技術者達が手作りしたとの事。
故に、まだ量産化には至らない。
と言うより、現状の日本の国力では無理かも知れない。
同時刻、ロスアラモス「サイトY研究施設」
「皆が忙しい中、済まないが、グローブス准将に会い、大統領に通す報告をせねばならんのでな。」
研究施設所長にて、物理学博士、ロバート・オッペンハイマーは、鏡に向けネクタイを整える。
「まあ、今日のところは大丈夫ですよ。
お気をつけて。」
ハイスクールの生徒の1人(まだコンピューターが確固たる技術となっていなかった為に、計算術に長けた者は誰でも動員していた)
はそう返す。
「うむ。宜しく頼むよ。」
そう言い残し、オッペンハイマーは手配された車に乗る。
後席に揺られつつ、提出資料をチェックしつつ。彼はふっと思う。
もしかしたら、我々は後戻り出来ない所に来ているのかもしれない。
完成、実験が遅くとも10ヶ月以内となり、現実味を増す度にそう言う思いが増す。
だが、我々が作らずとも、いずれこの反応兵器はどこかの国が作る。
そして1番可能性が高く最悪のシナリオであるのが、あのナチスドイツが完成させてしまうということだ。
だからこそ、自由主義陣営の我々がそれに先んじなければならない。
…多かれ少なかれ、「マンハッタン計画」に関わる科学者達の大半が、この論法で自身の良心を抑えていた…。
一方、富嶽野中隊である。
高度7000。
「見えてきた!あれがカルフォルニアの沿岸部。」
「おうっ、てぇことは、そろそろだな。」
案の定、直ぐに報告。中央銃座からだ。
「敵戦闘機隊!6時方向上方からかぶってきた!
30機超!Pー38と思われ!」
「よし、全機密集して弾幕を張れえ!」
富嶽は菱形陣形を組む。
当然性能向上型であろうな。
北のサンディエゴ軍港方面では防空体制が強力と見て、この進路を取ったが、当然こちらも甘くはない。
富嶽側とPー38、発砲が同時であった。
だが機体上部と尾部だけで合計4基の20ミリ機関砲という、富嶽の防御火力は向こうの予測を上回って強力であった。
しかもベースは零戦54型と同じ発射速度。
たちまち数機が機体を砕かれ墜ちていく。
が、それでも肉薄し、機関砲弾を叩き込んで来るが…。
機体のほぼ全周にわたり、二式大艇のノウハウも流用し、防御鋼板を張り巡らせた本機は、最終的にあのBー17を遥かに上回る防御力を手に入れていた。
耳障りな着弾音が機内に響くが、ただそれだけである。
「カスが効かねえんだよ!」
誰かが叫んだ。
「よし、そろそろ振り切っちゃるぞ」
「合点!」
4機の富嶽は一気に加速する。
徐々に遠ざかる機影。
なんと、この機体はPー38の最速を遥かに上回る、730キロの優速を誇る!
このまま、ロスアラモスまで!
発進2時間後、野中機隊員の1人がそう呟く。
「(長時間飛行)腹減んないっすか?」
「腹減ったなー。」
「悪いが飯は4時間後だ。」
「マジですか親分…。」
「文句言うない、冷蔵庫やらサイダーやら、ご丁寧に便所まであるのに感謝しろい。」
「確かに…。」
搭乗員たちにとって、この富嶽機内は未知の空間であった。
一度二式大艇の中を覗いて驚いたこともあるが、悪いがそれとも桁が違う。
まあ、この富嶽自体、中島に川西、三菱が共同で開発に参画したものであるから、多少の既視感らしきものはあるかもしれない。
(特に川西の機体設計、防弾のノウハウは貢献するところ大であったと聞く。)
あとは…。
野中は翼で唸るエンジン群に目を向ける
あと17時間以上、果たして保ってくれるか。
冷却の問題はシリンダー配置等の工夫で解決したと言うが…。
未知の領域の大きいエンジンの為、工場のラインで無く、中島、三菱の技術者達が手作りしたとの事。
故に、まだ量産化には至らない。
と言うより、現状の日本の国力では無理かも知れない。
同時刻、ロスアラモス「サイトY研究施設」
「皆が忙しい中、済まないが、グローブス准将に会い、大統領に通す報告をせねばならんのでな。」
研究施設所長にて、物理学博士、ロバート・オッペンハイマーは、鏡に向けネクタイを整える。
「まあ、今日のところは大丈夫ですよ。
お気をつけて。」
ハイスクールの生徒の1人(まだコンピューターが確固たる技術となっていなかった為に、計算術に長けた者は誰でも動員していた)
はそう返す。
「うむ。宜しく頼むよ。」
そう言い残し、オッペンハイマーは手配された車に乗る。
後席に揺られつつ、提出資料をチェックしつつ。彼はふっと思う。
もしかしたら、我々は後戻り出来ない所に来ているのかもしれない。
完成、実験が遅くとも10ヶ月以内となり、現実味を増す度にそう言う思いが増す。
だが、我々が作らずとも、いずれこの反応兵器はどこかの国が作る。
そして1番可能性が高く最悪のシナリオであるのが、あのナチスドイツが完成させてしまうということだ。
だからこそ、自由主義陣営の我々がそれに先んじなければならない。
…多かれ少なかれ、「マンハッタン計画」に関わる科学者達の大半が、この論法で自身の良心を抑えていた…。
一方、富嶽野中隊である。
高度7000。
「見えてきた!あれがカルフォルニアの沿岸部。」
「おうっ、てぇことは、そろそろだな。」
案の定、直ぐに報告。中央銃座からだ。
「敵戦闘機隊!6時方向上方からかぶってきた!
30機超!Pー38と思われ!」
「よし、全機密集して弾幕を張れえ!」
富嶽は菱形陣形を組む。
当然性能向上型であろうな。
北のサンディエゴ軍港方面では防空体制が強力と見て、この進路を取ったが、当然こちらも甘くはない。
富嶽側とPー38、発砲が同時であった。
だが機体上部と尾部だけで合計4基の20ミリ機関砲という、富嶽の防御火力は向こうの予測を上回って強力であった。
しかもベースは零戦54型と同じ発射速度。
たちまち数機が機体を砕かれ墜ちていく。
が、それでも肉薄し、機関砲弾を叩き込んで来るが…。
機体のほぼ全周にわたり、二式大艇のノウハウも流用し、防御鋼板を張り巡らせた本機は、最終的にあのBー17を遥かに上回る防御力を手に入れていた。
耳障りな着弾音が機内に響くが、ただそれだけである。
「カスが効かねえんだよ!」
誰かが叫んだ。
「よし、そろそろ振り切っちゃるぞ」
「合点!」
4機の富嶽は一気に加速する。
徐々に遠ざかる機影。
なんと、この機体はPー38の最速を遥かに上回る、730キロの優速を誇る!
このまま、ロスアラモスまで!
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