新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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Z飛行機構想

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話は再び日本。
そして昭和16年11月、日米開戦直前に遡る…。
当時は三菱出向の海軍技術将校であった頃の久保拓也。
例によってまた、連合艦隊航空参謀源田実から、唐突な呼び出し…。
陸海軍合同研究会?

何の?
「行ってみればわかる」と何故かいたずらっぽい笑みで言われ、向かった先は軍需省であった。
そして、その研究会の席上。
「先日、内閣で行われました研究会にて、仮に対米戦となった場合の、総力戦研究所の方々の分析想定に、『敵長距離爆撃機による本土空襲』と言うのがありました。
今回御提案したいのは、我が帝国のそれに対する強力な対抗策であります。」
熱弁を振るうは、軍用機メーカーとして三菱重工と双璧を成すとも言える中島飛行機の総帥、中島知久平であった。

「すなわち、敵爆撃機を遥かに上回る規模の、日本本土から発進し、アメリカ本土まで往復可能な、空中戦艦とも言うべき超長距離爆撃機の開発であります!」
陸海軍高官達のどよめきは、その想定スペックを聞かされ更に増す。

全長:46.00 m
全幅:63.00 m
全高:8.80 m
主翼面積:330.00 m2
発動機:中島ハ54空冷式4列星型36気筒(ハ219複列星型18気筒を2台串型置) 6,000馬力6発

プロペラ直径:4.5 - 4.8 m
自重:42 t
全備重量:122 t
最大速度:780 km/h(高度:10,000 m)
実用上昇限度:15,000 m 以上
航続距離:19,400 km 以上


武装は

20 mm 機関砲 4門
最大20 t までの爆弾
航空魚雷20本(雷撃仕様機)

因みにこの計画に関しては、東條閣下にも了承を頂いております。
と中島は付け加えることを忘れなかった。

「実現すれば素晴らしいな!」
「流石に無理がないか?」
「これがあれば百万の味方にも勝る!」
「米国を焦土に出来る!」

そんな中、黙って腕組みをしている男…。
当然、久保拓也である。
「おおそうだ、三菱に出向中の久保拓也技術少佐殿、あの零戦設計を主導された貴方様のご高察を是非!」
中島の言葉に、久保は一礼し立ち上がる。
陸海軍のお歴々の視線も、当然、こちらに集中する。
開口一番、久保はシンプルに言い放った。
「無理です。」
先刻とは異質などよめき。

中島の顔がひきつる。
「どこがどう、無理なのですかな?」

いや、逆になんで出来ると思ったんだと返したいのを抑え、なるべく穏やかに、久保は語り始める。
「まずエンジン一つとりましても…。6000馬力の超出力を得る代物となりますと…諸元のご説明にあったように空冷星形エンジンを2つか3つ、串型に重ねる必要があります。
まず、そこでどうやってそんな無茶な構造のエンジンを冷却するか?
ここでまず行き詰まります。」
中島も軍人達も、黙り込んでしまう。
さらに久保は続ける。
「この、仮にZ飛行機と呼びますが、エンジンを6基備えると仰いましたよね?
一方現在の我が国では、現在前線で使える四発重爆ですら、まともに造ることができていない。
それを一足飛びに…と言う発想自体が、破綻の危険性を孕んでいます。」
「で、では貴方は、この計画自体、絵に描いた餅だと…?」
「そこまでは申しておりません。
直ぐに我が国の水準で手の届く、手堅い技術体系を積み重ねれば、『米国まで往復し、3から4トンの爆弾を彼らの急所に落として帰還できる』機体を作ることは可能です。」
「つまり、現実的な性能諸元まで落として、と言う話なのだな。」
源田実と並ぶ航空畑の柴田武雄中佐の言葉に、久保は深々と頷く。
「そこの黒板をお借りします。」
久保は例によって、30分余り自説を披歴することとなる。











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