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そして伝説へ

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日本軍、謎の空中支援作戦により全戦線に渡り息を吹き返す。
イギリス第14軍司令部に衝撃が走った。
しかも、弱体化した筈の敵陸軍航空隊に、あの忌まわしきゼロが居るだと…?
それどころか局地的にではあるが制空権を奪われ、陸軍の襲撃機と共同し我が軍先鋒を、攻撃していると…。
「ぐぬう。やはり、全ては周到な罠であったか。」
敵将牟田口恐るべし。
日本陸軍恐るべし。
「閣下、こうなりますと、二の矢があるかもしれませんぞ。」
参謀が進言する。
うむ…

そして実を言うと、このインパール方面に関しては、英軍も補給に関して完全に潤沢というわけではない。
地形的に陸路は限定的、大半を空輸に頼っていたのだ。
もし敵基地が前進し、ただでさえ足の長いゼロに制空権を握られたら…。
いや、落ち着け。

まだあらゆる要素で我々は勝っている。
要請すれば空軍も増派してもらえる。
最終的にインパールに迫られても、半ば要塞化したそこで、圧倒的火力で敵第15軍を葬ればよい。
だが…。
翌日、凶報が舞い込む。
「我が本土…ロンドンに大空襲!?」
「はっ、一週間前からドイツ空軍の動きが活発化、航空機製造工場空爆に集中しておりましたが本日遂に…。
こちらも米軍のPー51Cの増派も加わり、相応の損害を与えてはいますが、ロンドン市民の死傷者は過去最悪で…。」

もはや第二次バトルオブブリテンだな…。
東部戦線にかなり余裕が出てきた故に…。

そして、数時間後、方面軍司令官のマウントバッテン大将より命令書が届く。
「陸空とも現有兵力でインパール方面を固守すべし。
空輸による補給は引き続き確約す。」
しかし、この数日でさらに、情勢は急展開する。
日本軍の一転攻勢の噂に尾鰭がついて広まり、それに便乗した武断派のインド独立家チャンドラ・ボースが、インド国内に向けラジオ演説を行ったのである。
まるで日本軍を神がかりの解放軍のように…。
そして牟田口廉也将軍がその尖兵となる英雄のように…。

これに呼応し、インド数百箇所で暴動が起こり、一時宗主国たる現地イギリス軍が機能不全に陥った。
これも噂となりこの前線のイギリス将兵の耳に入り…。
とどめを刺したのは、ドイツアフリカ軍団が急進撃し、米英軍最後の防衛線、スエズ運河に猛攻をかけ、いつ陥落してもおかしくないと言う報であった。
(これらの虚実織り交ぜた流言は、連合国側である近傍の中国国民党軍に紛れた、日本陸軍「第33部隊」がバラ撒いていた。)

つまり、自分達は母国に帰ることもままならず、遠くインドの東方で朽ち果ててしまうかもしれない…。

その思いが、イギリス将兵達の戦意を挫きつつあった。
作戦発動21日後、要衝のひとつ、コヒマが陥落。
数日前から日本側が制空権を握りつつあったことに加え、これが英軍の軍事的、内部統制的な面での防波堤を崩す決定打となった。

作戦発動時は牟田口ですらそんな都合の良い予想はしなかったであろう。
翌日英軍はインパールを放棄、空路陸路で散り散りになり、インド方面英軍の臨時集結地ニューデリーに引き揚げざるを得なかった。

そして、独立運動指導者チャンドラ・ボースと共に、第15軍司令官の牟田口廉也のインド東部都市ナクナウへの入城。
ここに、イギリスのインド植民地支配の有名無実化が決定的なものとなる。

インパール作戦。ここに、お釣りが来るほどの、世界に衝撃を与えるレベルでの大成功を収める。
ボースは勿論、地元民達に彼と互角かそれ以上の熱狂的歓迎を受けたのは牟田口であった。

「ありがとうムタグチ!」
「英雄ムタグチ!」
「歴史上最高の名将ムタグチ!」

本人は泣き笑いのような表情でそれに応える。


…以上が「なぜか日本を含めた各国の戦史家が、後年なかなか書きたがらない。」
インパール作戦の顛末である。

なお、「救世主牟田口」の名は現在に至るも神々にも匹敵するものとして現地の人々の心に刻まれ、今でも各地で銅像や巨大肖像画を見ることができる。











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