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名将の閃き
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余韻。
また抱きたいと言う切なる思い。
それが、あの晩から上回っていた。
31歳が19歳をという罪悪感よりも。
ここは連合艦隊の拠点のひとつ、ウルシー泊地。
現在、久保拓也は、戦艦大和の私室に居た。
最早ある意味実家である。
そして久保は前線からの戦況報告…ではなく、カリンからの私信に目を通していた。
憎まれ口混じりに、でも逢いたい旨を繰り返す文に愛おしさを感じる。
極めつけは、何故かドイツ空軍の制服を着て、その胸を恥じらいと共にはだけている写真…
嗚呼…
ギイッ
「おう、久保、居るか?」
「ちょっと源田さん!!ノックぐらいしてくださいよ!!何考えてるんすか!!」
「あ、えぇっ、お、おう。」
あの源田実がたじろぐ剣幕。
勿論一通りのアレは音速で引き出しにしまい込んだ。
改めて向き合う両名。
「すまなかったな。」
「あ、いえ、こちらこそ失礼致しました。」
「…で実は、今度軍令部第一部に異動となった。
少将に昇進のおまけ付きだ。」
「おおっ、栄転ですか。おめでとう御座います!」
「まあ、作戦関連の部署とはいえ、どうしても俺は航空機開発関連の会議にも出る事になる。
そこで、貴様にいくつかのヴィジョンについて訊いておきたくてな。」
「判りました。それでしたら…。」
一通りのやりとりを30分かけ終えた後、源田は冷めた番茶を啜る。
「話は飛ぶが…陸さんの件でな…」
「は…」
「新たな大作戦を発動するらしい。」
「はは…まさかインドの一角にでも進出しようかと言う訳でもないでしょう。」
「………。」
「…え!?」
マジなのか…。
「二十一号作戦(仮称)とか言ったな。
新たに第15軍司令官に任じられた奴が以前から強硬に推して、それでなんやかや通ってしまったようだが…。
その男と言うのが…。」
「我が第15軍司令官 牟田口廉也中将である。」
陸軍南方総軍司令部。
「遂に二十一号作戦が9月29日を以って発動の運びとなった。
そして一連の全作戦における権限は現時刻を以って、本官に一任される事となった。
武人として名誉の極みである。」
幕僚達は最敬礼し、後に拍手の嵐。
「目標は要衝インパール、ここを抑え、イギリス軍の急所を掴み、その快挙を以ってインド人民の独立運動を加速させ、同国を解放する。
まさに本官の叡智なくば誰も思いつかぬ壮挙である!」
またも拍手の嵐。
1人を除いて。
参謀長の小畑大佐であった。
「失礼ながら牟田口閣下。
インパールを攻略するのは良いとして、その前に幾重にも重なった峻険な山岳地帯、密林、湿地帯を抜けねばなりません。
当然輜重…補給の問題が枷となります。
もっとも根本的な食糧一つ取っても、手元の資料では5万トンとなっておりますが、全軍9万強を作戦終了まで保たせるとなりますと、どう考えてもこの十倍は…。」
「よく資料を見たまえ。」
は?
物資運搬用 ビルマ牛3万頭。
まさか…。
「そう、もし敵から奪えぬ場合、その牛を随時兵の糧食とすれば良いのだ。
古今東西の名将の中でも、このような斬新な発想をした英傑は本官以外に存在したであろうか!?」
閣下だけであります!
と1人の幕僚が絶叫し、皆が唱和する中、小畑参謀長は資料と参謀飾緒を放り出し、独り退出していった。
また抱きたいと言う切なる思い。
それが、あの晩から上回っていた。
31歳が19歳をという罪悪感よりも。
ここは連合艦隊の拠点のひとつ、ウルシー泊地。
現在、久保拓也は、戦艦大和の私室に居た。
最早ある意味実家である。
そして久保は前線からの戦況報告…ではなく、カリンからの私信に目を通していた。
憎まれ口混じりに、でも逢いたい旨を繰り返す文に愛おしさを感じる。
極めつけは、何故かドイツ空軍の制服を着て、その胸を恥じらいと共にはだけている写真…
嗚呼…
ギイッ
「おう、久保、居るか?」
「ちょっと源田さん!!ノックぐらいしてくださいよ!!何考えてるんすか!!」
「あ、えぇっ、お、おう。」
あの源田実がたじろぐ剣幕。
勿論一通りのアレは音速で引き出しにしまい込んだ。
改めて向き合う両名。
「すまなかったな。」
「あ、いえ、こちらこそ失礼致しました。」
「…で実は、今度軍令部第一部に異動となった。
少将に昇進のおまけ付きだ。」
「おおっ、栄転ですか。おめでとう御座います!」
「まあ、作戦関連の部署とはいえ、どうしても俺は航空機開発関連の会議にも出る事になる。
そこで、貴様にいくつかのヴィジョンについて訊いておきたくてな。」
「判りました。それでしたら…。」
一通りのやりとりを30分かけ終えた後、源田は冷めた番茶を啜る。
「話は飛ぶが…陸さんの件でな…」
「は…」
「新たな大作戦を発動するらしい。」
「はは…まさかインドの一角にでも進出しようかと言う訳でもないでしょう。」
「………。」
「…え!?」
マジなのか…。
「二十一号作戦(仮称)とか言ったな。
新たに第15軍司令官に任じられた奴が以前から強硬に推して、それでなんやかや通ってしまったようだが…。
その男と言うのが…。」
「我が第15軍司令官 牟田口廉也中将である。」
陸軍南方総軍司令部。
「遂に二十一号作戦が9月29日を以って発動の運びとなった。
そして一連の全作戦における権限は現時刻を以って、本官に一任される事となった。
武人として名誉の極みである。」
幕僚達は最敬礼し、後に拍手の嵐。
「目標は要衝インパール、ここを抑え、イギリス軍の急所を掴み、その快挙を以ってインド人民の独立運動を加速させ、同国を解放する。
まさに本官の叡智なくば誰も思いつかぬ壮挙である!」
またも拍手の嵐。
1人を除いて。
参謀長の小畑大佐であった。
「失礼ながら牟田口閣下。
インパールを攻略するのは良いとして、その前に幾重にも重なった峻険な山岳地帯、密林、湿地帯を抜けねばなりません。
当然輜重…補給の問題が枷となります。
もっとも根本的な食糧一つ取っても、手元の資料では5万トンとなっておりますが、全軍9万強を作戦終了まで保たせるとなりますと、どう考えてもこの十倍は…。」
「よく資料を見たまえ。」
は?
物資運搬用 ビルマ牛3万頭。
まさか…。
「そう、もし敵から奪えぬ場合、その牛を随時兵の糧食とすれば良いのだ。
古今東西の名将の中でも、このような斬新な発想をした英傑は本官以外に存在したであろうか!?」
閣下だけであります!
と1人の幕僚が絶叫し、皆が唱和する中、小畑参謀長は資料と参謀飾緒を放り出し、独り退出していった。
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