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戦略無尽
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1942年4月10日
ハワイ、オアフ島、アメリカ太平洋艦隊仮設司令部。
「取り急ぎ、最低限の港湾設備、重油タンクの30%、航空基地までは復旧しております。」
「乗る艦のない艦隊司令長官」と自嘲しつつ、着任して4ヶ月。
「よくぞ、この短期間でそこまで復旧してくれた、ご苦労様。」
キンメルの後釜として、壊滅した太平洋艦隊司令長官となったニミッツは、そう言ってスタッフ達をねぎらう。
「後は潜水艦隊の本格的な拠点としての機能回復を急ぎたい。
大統領とも意見は一致している。」
潜水艦による日本の補給線妨害、遮断。
12月7日の悪夢があれ程迄に執拗に徹底したものでなければ、ここを主要拠点としてそれが大規模に行えた筈なのだ。
それはこちらの主戦力が回復強化されるまでの有効な時間稼ぎ、いわばボディブローになり得た筈なのだが…。
現状は南方から日本が重油その他の戦略物資を、本土に搬入していくのを指を咥えて眺めている有り様だ。
(オーストラリア等を経由して、全く活動出来てない訳ではないのだが…。)
日本軍は既に、西はインド国境線手前まで、南はニューギニアの北端から3分の2まで…。
そして中部太平洋も、ミッドウェイ、ハワイがいつ抜かれてもおかしくはない情勢…。
「日本軍が今にも西海岸に上がり込んで来る。」
と、民心もそう穏やかではない…。
「はっ、閣下。潜水艦運用体制も2週間後には…。」
「そうか、それならば何とか…。ご苦労様です。」
後はやはり、南雲の空母機動部隊の脅威。
そして何より、ハルゼーの精鋭を返り討ちにした、謎の戦闘機ゼロ。
まああの最大戦力が、敵上層部の意思不統一で、一貫した戦略の元で動けていない。
それが不幸中の幸いであるが…。
とにかく。
来月には体制を立て直し、大西洋からも増派される我が空母艦隊をもって、反撃の一撃を如何にして叩き込むかだ!
同時に新鋭の正規空母、そして戦闘機の一日も早い実戦配備を本国に要請し続けねば。
我が合衆国のポテンシャルが、最大限発揮されれば…。断じて日本なぞに遅れはとらぬ。
今はただ時間を稼ぐ…。
一方、日本 帝都東京首相官邸。
「閣下、例の久保とやら言う賢しらな男の件ですが。中佐風情に権限を与えすぎではありませんか?」
例の四方憲兵中佐が、露骨な悪意を隠しもせず、東條英機首相に詰め寄る。
「あくまで海軍内の、それも佐官級の人事に、こちらが口を挟むことは出来ん。」
「いや、あの男は山本長官の子飼いであるのを良い事に、陸海軍の作戦指導に容喙して、軍を陰で操るつもりですぞ。
現に私の部下が、我が陸軍の情報将校と個人的に会っておるのを目撃しております。」
眉を動かす東條。腕組みをする。
「いささか勇み足だが…まあ、一応当該のこちらの将校から軽く聴取すれば良かろう。」
東條個人は、あの近衛内閣時代の検討会の時の、柔らかな物腰、自分と陛下への敬意を全面に出した久保に対し、けして悪い印象は持っていない。
だが、四方の顔も立ててやらねば…。
そう考えてしまうのがこの男の弱さかもしれなかった。
「だがまぁ、貴官の憂慮にも一理ある。
そこまで言うなら、引き続き久保中佐の監視体制を強化すれば良かろう。
だが、私に無断で事を起こすな。
何か有れば逐一報告するように。」
四方はどうにか納得した態で、敬礼して退出する。
一方、大和艦内の久保は、そんなやり取りを知る由も無く…。
一つの朗報に、内心歓喜していた。
次期零戦に搭載されるべき発動機。
ハー112Ⅱ
のちの通称「金星」が月末にも制式採用の目処がついたとのことであった。
ハワイ、オアフ島、アメリカ太平洋艦隊仮設司令部。
「取り急ぎ、最低限の港湾設備、重油タンクの30%、航空基地までは復旧しております。」
「乗る艦のない艦隊司令長官」と自嘲しつつ、着任して4ヶ月。
「よくぞ、この短期間でそこまで復旧してくれた、ご苦労様。」
キンメルの後釜として、壊滅した太平洋艦隊司令長官となったニミッツは、そう言ってスタッフ達をねぎらう。
「後は潜水艦隊の本格的な拠点としての機能回復を急ぎたい。
大統領とも意見は一致している。」
潜水艦による日本の補給線妨害、遮断。
12月7日の悪夢があれ程迄に執拗に徹底したものでなければ、ここを主要拠点としてそれが大規模に行えた筈なのだ。
それはこちらの主戦力が回復強化されるまでの有効な時間稼ぎ、いわばボディブローになり得た筈なのだが…。
現状は南方から日本が重油その他の戦略物資を、本土に搬入していくのを指を咥えて眺めている有り様だ。
(オーストラリア等を経由して、全く活動出来てない訳ではないのだが…。)
日本軍は既に、西はインド国境線手前まで、南はニューギニアの北端から3分の2まで…。
そして中部太平洋も、ミッドウェイ、ハワイがいつ抜かれてもおかしくはない情勢…。
「日本軍が今にも西海岸に上がり込んで来る。」
と、民心もそう穏やかではない…。
「はっ、閣下。潜水艦運用体制も2週間後には…。」
「そうか、それならば何とか…。ご苦労様です。」
後はやはり、南雲の空母機動部隊の脅威。
そして何より、ハルゼーの精鋭を返り討ちにした、謎の戦闘機ゼロ。
まああの最大戦力が、敵上層部の意思不統一で、一貫した戦略の元で動けていない。
それが不幸中の幸いであるが…。
とにかく。
来月には体制を立て直し、大西洋からも増派される我が空母艦隊をもって、反撃の一撃を如何にして叩き込むかだ!
同時に新鋭の正規空母、そして戦闘機の一日も早い実戦配備を本国に要請し続けねば。
我が合衆国のポテンシャルが、最大限発揮されれば…。断じて日本なぞに遅れはとらぬ。
今はただ時間を稼ぐ…。
一方、日本 帝都東京首相官邸。
「閣下、例の久保とやら言う賢しらな男の件ですが。中佐風情に権限を与えすぎではありませんか?」
例の四方憲兵中佐が、露骨な悪意を隠しもせず、東條英機首相に詰め寄る。
「あくまで海軍内の、それも佐官級の人事に、こちらが口を挟むことは出来ん。」
「いや、あの男は山本長官の子飼いであるのを良い事に、陸海軍の作戦指導に容喙して、軍を陰で操るつもりですぞ。
現に私の部下が、我が陸軍の情報将校と個人的に会っておるのを目撃しております。」
眉を動かす東條。腕組みをする。
「いささか勇み足だが…まあ、一応当該のこちらの将校から軽く聴取すれば良かろう。」
東條個人は、あの近衛内閣時代の検討会の時の、柔らかな物腰、自分と陛下への敬意を全面に出した久保に対し、けして悪い印象は持っていない。
だが、四方の顔も立ててやらねば…。
そう考えてしまうのがこの男の弱さかもしれなかった。
「だがまぁ、貴官の憂慮にも一理ある。
そこまで言うなら、引き続き久保中佐の監視体制を強化すれば良かろう。
だが、私に無断で事を起こすな。
何か有れば逐一報告するように。」
四方はどうにか納得した態で、敬礼して退出する。
一方、大和艦内の久保は、そんなやり取りを知る由も無く…。
一つの朗報に、内心歓喜していた。
次期零戦に搭載されるべき発動機。
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のちの通称「金星」が月末にも制式採用の目処がついたとのことであった。
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