上 下
20 / 166

拡がる、戦火

しおりを挟む
呉軍港 連合艦隊旗艦

「一号艦」大和

「はぇ~おっきい。」
思わず短艇に乗りつつ声に出してしまう久保。
『巨大戦艦を無用の長物呼ばわりもよいが、既存のものは、航空主兵の文脈の中でも有効活用すべし。』
他ならぬ久保本人がその論法で、真珠湾への止めの砲撃(まぁ、余計な随伴給油艦を増やさせたり、本来機密にしておきたい新鋭戦艦のぶっつけ投入など、大戦果を挙げたからいいようなものの、軍令部の方と随分作戦前は揉めたようだが。)を進言したのだが…。

いざ、その超弩級戦艦の実物を目の当たりにすると…。
確かにこいつは、海軍軍人のロマンチズムを刺激して止まない、美しく妖しい怪物だ。
いわゆる大艦巨砲主義、艦隊決戦思想を、未だ日本海軍という組織がなかなか捨てられないのも理解できる…。

そして、大和艦内長官室。
あの時近衛内閣の検討会に加わった時より緊張してしまう。
「失礼致します。」
「おお、来たか。」
実際の体格より、大きく見える。
やはり、相応の人物なのだ。
将棋を打っていたようだが、相手はあの黒島主席参謀か?
「お初にお目にかかります。山本閣下。
技術少佐の久保拓也であります。」
「はははっ。お初にだが、そんな感じがしないなあ。なにか、我々の作戦を添削されとるようだったぞ。」
「は、御意…。いや恐れ入ります…。」
久保が何か言葉を継ごうとした時、横合いからカーデローゼが割り込む。
「お久しぶりです。長官♡」
事もあろうに山本長官に抱きつき、さらには頬に接吻…キスをする。
えぇ…
「おおー、カリン、逢いたかったぞー。
前線に出ているときは心配で心配でー。」
「あははお上手ー。
ご心配には及びませんよ。私はブリュンヒルデの生まれ変わりですから。」
「そうかそうか、今度一緒に寿司でも食いに行こう。」
「嬉しいー♪」
その後、彼女は仏頂面の源田に促され、大和艦内を見学すると言って出て行った。
「ふふ、彼女があくまで女航空兵として戦うと決めてからは、大本営もニュース映画に出そうと乗り乗りでな。
その、あれだ。プロパガンダというやつか。」
「…は、はい。」
「ま、取り敢えず掛けなさい。
手短に、本題に入ろう。」
従兵が珈琲を運んでくる。
「お前さんから率直に見て、現在の日本帝国軍全体の戦略をどう思う?」
「…バラバラですね。」
黙って座っていた黒島の眉がぴくりと動く。
「陸海軍とも、更には海軍の中も…。
ハワイを抜いて長官の仰る短期決戦を図るのか、ニューギニア方面でオーストラリアに圧力をかけるのか、インド洋進出して周辺各国を解放と称し制圧していくのか…。
なにがしたいのか、ろくに意思統一されないまま、しかも気紛れな作戦発動の度に貴重な南雲提督の機動部隊が使いまわされ疲弊する…。
現在は全戦線で戦術的には圧勝しているからいいようなものの…。」
「補給線も限界まで伸びきっている。」
黒島が口を挟み、久保と山本は深々と頷いた。
「…そんなお前さんの考えも、軍令部、そしてその更に上には届かない。
俺が色々都合するにも限界がある。
そこで、それなりに俺も手を尽くしてみた…。
お前さんの立場をだな…。」

開戦から4ヶ月後、アメリカ合衆国はホワイトハウスの手を尽くした世論工作の末、どうにかドイツ、イタリアへの宣戦布告に踏み切るに至る。
本格的な、「第二次世界大戦」の始まりであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...