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拡がる、戦火
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呉軍港 連合艦隊旗艦
「一号艦」大和
「はぇ~おっきい。」
思わず短艇に乗りつつ声に出してしまう久保。
『巨大戦艦を無用の長物呼ばわりもよいが、既存のものは、航空主兵の文脈の中でも有効活用すべし。』
他ならぬ久保本人がその論法で、真珠湾への止めの砲撃(まぁ、余計な随伴給油艦を増やさせたり、本来機密にしておきたい新鋭戦艦のぶっつけ投入など、大戦果を挙げたからいいようなものの、軍令部の方と随分作戦前は揉めたようだが。)を進言したのだが…。
いざ、その超弩級戦艦の実物を目の当たりにすると…。
確かにこいつは、海軍軍人のロマンチズムを刺激して止まない、美しく妖しい怪物だ。
いわゆる大艦巨砲主義、艦隊決戦思想を、未だ日本海軍という組織がなかなか捨てられないのも理解できる…。
そして、大和艦内長官室。
あの時近衛内閣の検討会に加わった時より緊張してしまう。
「失礼致します。」
「おお、来たか。」
実際の体格より、大きく見える。
やはり、相応の人物なのだ。
将棋を打っていたようだが、相手はあの黒島主席参謀か?
「お初にお目にかかります。山本閣下。
技術少佐の久保拓也であります。」
「はははっ。お初にだが、そんな感じがしないなあ。なにか、我々の作戦を添削されとるようだったぞ。」
「は、御意…。いや恐れ入ります…。」
久保が何か言葉を継ごうとした時、横合いからカーデローゼが割り込む。
「お久しぶりです。長官♡」
事もあろうに山本長官に抱きつき、さらには頬に接吻…キスをする。
えぇ…
「おおー、カリン、逢いたかったぞー。
前線に出ているときは心配で心配でー。」
「あははお上手ー。
ご心配には及びませんよ。私はブリュンヒルデの生まれ変わりですから。」
「そうかそうか、今度一緒に寿司でも食いに行こう。」
「嬉しいー♪」
その後、彼女は仏頂面の源田に促され、大和艦内を見学すると言って出て行った。
「ふふ、彼女があくまで女航空兵として戦うと決めてからは、大本営もニュース映画に出そうと乗り乗りでな。
その、あれだ。プロパガンダというやつか。」
「…は、はい。」
「ま、取り敢えず掛けなさい。
手短に、本題に入ろう。」
従兵が珈琲を運んでくる。
「お前さんから率直に見て、現在の日本帝国軍全体の戦略をどう思う?」
「…バラバラですね。」
黙って座っていた黒島の眉がぴくりと動く。
「陸海軍とも、更には海軍の中も…。
ハワイを抜いて長官の仰る短期決戦を図るのか、ニューギニア方面でオーストラリアに圧力をかけるのか、インド洋進出して周辺各国を解放と称し制圧していくのか…。
なにがしたいのか、ろくに意思統一されないまま、しかも気紛れな作戦発動の度に貴重な南雲提督の機動部隊が使いまわされ疲弊する…。
現在は全戦線で戦術的には圧勝しているからいいようなものの…。」
「補給線も限界まで伸びきっている。」
黒島が口を挟み、久保と山本は深々と頷いた。
「…そんなお前さんの考えも、軍令部、そしてその更に上には届かない。
俺が色々都合するにも限界がある。
そこで、それなりに俺も手を尽くしてみた…。
お前さんの立場をだな…。」
開戦から4ヶ月後、アメリカ合衆国はホワイトハウスの手を尽くした世論工作の末、どうにかドイツ、イタリアへの宣戦布告に踏み切るに至る。
本格的な、「第二次世界大戦」の始まりであった。
「一号艦」大和
「はぇ~おっきい。」
思わず短艇に乗りつつ声に出してしまう久保。
『巨大戦艦を無用の長物呼ばわりもよいが、既存のものは、航空主兵の文脈の中でも有効活用すべし。』
他ならぬ久保本人がその論法で、真珠湾への止めの砲撃(まぁ、余計な随伴給油艦を増やさせたり、本来機密にしておきたい新鋭戦艦のぶっつけ投入など、大戦果を挙げたからいいようなものの、軍令部の方と随分作戦前は揉めたようだが。)を進言したのだが…。
いざ、その超弩級戦艦の実物を目の当たりにすると…。
確かにこいつは、海軍軍人のロマンチズムを刺激して止まない、美しく妖しい怪物だ。
いわゆる大艦巨砲主義、艦隊決戦思想を、未だ日本海軍という組織がなかなか捨てられないのも理解できる…。
そして、大和艦内長官室。
あの時近衛内閣の検討会に加わった時より緊張してしまう。
「失礼致します。」
「おお、来たか。」
実際の体格より、大きく見える。
やはり、相応の人物なのだ。
将棋を打っていたようだが、相手はあの黒島主席参謀か?
「お初にお目にかかります。山本閣下。
技術少佐の久保拓也であります。」
「はははっ。お初にだが、そんな感じがしないなあ。なにか、我々の作戦を添削されとるようだったぞ。」
「は、御意…。いや恐れ入ります…。」
久保が何か言葉を継ごうとした時、横合いからカーデローゼが割り込む。
「お久しぶりです。長官♡」
事もあろうに山本長官に抱きつき、さらには頬に接吻…キスをする。
えぇ…
「おおー、カリン、逢いたかったぞー。
前線に出ているときは心配で心配でー。」
「あははお上手ー。
ご心配には及びませんよ。私はブリュンヒルデの生まれ変わりですから。」
「そうかそうか、今度一緒に寿司でも食いに行こう。」
「嬉しいー♪」
その後、彼女は仏頂面の源田に促され、大和艦内を見学すると言って出て行った。
「ふふ、彼女があくまで女航空兵として戦うと決めてからは、大本営もニュース映画に出そうと乗り乗りでな。
その、あれだ。プロパガンダというやつか。」
「…は、はい。」
「ま、取り敢えず掛けなさい。
手短に、本題に入ろう。」
従兵が珈琲を運んでくる。
「お前さんから率直に見て、現在の日本帝国軍全体の戦略をどう思う?」
「…バラバラですね。」
黙って座っていた黒島の眉がぴくりと動く。
「陸海軍とも、更には海軍の中も…。
ハワイを抜いて長官の仰る短期決戦を図るのか、ニューギニア方面でオーストラリアに圧力をかけるのか、インド洋進出して周辺各国を解放と称し制圧していくのか…。
なにがしたいのか、ろくに意思統一されないまま、しかも気紛れな作戦発動の度に貴重な南雲提督の機動部隊が使いまわされ疲弊する…。
現在は全戦線で戦術的には圧勝しているからいいようなものの…。」
「補給線も限界まで伸びきっている。」
黒島が口を挟み、久保と山本は深々と頷いた。
「…そんなお前さんの考えも、軍令部、そしてその更に上には届かない。
俺が色々都合するにも限界がある。
そこで、それなりに俺も手を尽くしてみた…。
お前さんの立場をだな…。」
開戦から4ヶ月後、アメリカ合衆国はホワイトハウスの手を尽くした世論工作の末、どうにかドイツ、イタリアへの宣戦布告に踏み切るに至る。
本格的な、「第二次世界大戦」の始まりであった。
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