17 / 166
屈辱演説
しおりを挟む
現地時刻が12月8日に変わった頃。
ワシントン ホワイトハウス大統領執務室
アメリカ合衆国大統領
フランクリン・D・ルーズベルト
彼の目の前には主要新聞社の号外、および夜が明けたら配られる予定の朝刊が並んでいた。
「ハワイ真珠湾、日本軍に強襲さる。海軍主力に甚大な損害。」
「すでに2時間前にはなされていた宣戦布告。」
「間に合わなかった迎撃態勢、政府、軍の怠慢か!?」
「フィリピンでも航空戦力壊滅。」
な ん だ こ れ は
まさにそう言う目線を、ルーズベルトは高官達に向ける。
皆、俯くしかない。
後世色々言われる程緻密な陰謀が、ホワイトハウスにあった訳ではないにせよ、日本を追い詰め向こうから暴発させ、それを理由にヨーロッパ戦線に参戦しようと言う思惑は確かにあった。
だが、第一ラウンドのファーストコンタクトでこれだけのダメージを受けるとは。
予想の最悪をも突き抜けている。
「…で、海軍長官、改めて具体的損害と今後の展望を。」
ルーズベルトの問いに、ノックス海軍長官は声を絞り出す。
「はっ、在泊していた8隻の主力戦艦群は、現状の報告では浮揚修復は不可能…つまり完全喪失と…。
空襲に加え、夕刻の艦砲射撃が致命的でありました。
さらには、整備修復用のドッグ、重油タンクの完全破壊…。
基地能力が下手すれば1年は回復しないかと…。
それに加えて、艦艇乗組員の死亡率が90%近い事。
我が方の工業力が完全戦時体制となり、戦力が回復したとして…。
それを乗りこなす人員の育成が…。」
「つまりは、少なくとも1年は、海軍は大規模作戦が不可能であると…!?」
「御意。
ただ光明もあります。」
「空母戦力だな。」
「はっ。エンタープライズ、レキシントン…。
いずれも健在です。
彼らの機動力を活かし、敵艦隊や、各方面に進出する日本軍をヒットアンドアウェイで叩いては引き、ゲリラ戦術で態勢を立て直す時間を稼ぐ戦略で…。」
「うむ、それしかあるまいな…。
それとハワイ基地機能回復、いま1年と言ったが…半年でやり給え!」
「ぎょ、御意!」
「そして後は…国民の士気をどう鼓舞するか、だ。」
「まさにそれこそが問題。」
国務長官、コーデル・ハルが発言した。
「如何に我が国民の、まあ日本への憎悪を煽ってと言ってはなんですが、戦意を高揚させるかです。」
「うむ…今のままでは軍と政府の不手際、と言う方向にヘイトが向きかねない。」
軍事的に如何に、そもそも敵目標が真珠湾であること、空母からのあのタイミング、距離での発進が予測困難かをメディアを通して説明しても、納得どころか誰も聞く耳を持つまい。
とにかくー。
ハルを中心に大統領も加わり繰り返し推敲した原稿を、現地時間朝8時にルーズベルトは演説することとなる!
「許し難きことに、今回勇敢な兵士7000名の命と共に、68名の民間人の方が亡くなられました!
やはり日本軍は、ナチスドイツを思想を共有する邪悪な軍団であると証明されました!
リメンバー・パールハーバー!!
私は皆様同様平和を愛するものでありますが、自由と民主主義を守る為、この危機に国民の皆様の団結を…。」
が、この演説も結局、合衆国全国民を奮い立たせるものにはなり得なかった。
戦争になるのは仕方ないとして、ホワイトハウスと軍の中枢がこれではどうしようもないではないか。
この指導者の元、若者が命を張る価値はあるのか!?
新聞はそんな論調である。
しかし、それでも若者達の中には国家の危機に使命感を抱き、募兵所に駆け込むのも少なくなかった。
しかし、軍がここまで醜態を晒さなければ、その数はより増えて数倍になっていたであろう…。
ワシントン ホワイトハウス大統領執務室
アメリカ合衆国大統領
フランクリン・D・ルーズベルト
彼の目の前には主要新聞社の号外、および夜が明けたら配られる予定の朝刊が並んでいた。
「ハワイ真珠湾、日本軍に強襲さる。海軍主力に甚大な損害。」
「すでに2時間前にはなされていた宣戦布告。」
「間に合わなかった迎撃態勢、政府、軍の怠慢か!?」
「フィリピンでも航空戦力壊滅。」
な ん だ こ れ は
まさにそう言う目線を、ルーズベルトは高官達に向ける。
皆、俯くしかない。
後世色々言われる程緻密な陰謀が、ホワイトハウスにあった訳ではないにせよ、日本を追い詰め向こうから暴発させ、それを理由にヨーロッパ戦線に参戦しようと言う思惑は確かにあった。
だが、第一ラウンドのファーストコンタクトでこれだけのダメージを受けるとは。
予想の最悪をも突き抜けている。
「…で、海軍長官、改めて具体的損害と今後の展望を。」
ルーズベルトの問いに、ノックス海軍長官は声を絞り出す。
「はっ、在泊していた8隻の主力戦艦群は、現状の報告では浮揚修復は不可能…つまり完全喪失と…。
空襲に加え、夕刻の艦砲射撃が致命的でありました。
さらには、整備修復用のドッグ、重油タンクの完全破壊…。
基地能力が下手すれば1年は回復しないかと…。
それに加えて、艦艇乗組員の死亡率が90%近い事。
我が方の工業力が完全戦時体制となり、戦力が回復したとして…。
それを乗りこなす人員の育成が…。」
「つまりは、少なくとも1年は、海軍は大規模作戦が不可能であると…!?」
「御意。
ただ光明もあります。」
「空母戦力だな。」
「はっ。エンタープライズ、レキシントン…。
いずれも健在です。
彼らの機動力を活かし、敵艦隊や、各方面に進出する日本軍をヒットアンドアウェイで叩いては引き、ゲリラ戦術で態勢を立て直す時間を稼ぐ戦略で…。」
「うむ、それしかあるまいな…。
それとハワイ基地機能回復、いま1年と言ったが…半年でやり給え!」
「ぎょ、御意!」
「そして後は…国民の士気をどう鼓舞するか、だ。」
「まさにそれこそが問題。」
国務長官、コーデル・ハルが発言した。
「如何に我が国民の、まあ日本への憎悪を煽ってと言ってはなんですが、戦意を高揚させるかです。」
「うむ…今のままでは軍と政府の不手際、と言う方向にヘイトが向きかねない。」
軍事的に如何に、そもそも敵目標が真珠湾であること、空母からのあのタイミング、距離での発進が予測困難かをメディアを通して説明しても、納得どころか誰も聞く耳を持つまい。
とにかくー。
ハルを中心に大統領も加わり繰り返し推敲した原稿を、現地時間朝8時にルーズベルトは演説することとなる!
「許し難きことに、今回勇敢な兵士7000名の命と共に、68名の民間人の方が亡くなられました!
やはり日本軍は、ナチスドイツを思想を共有する邪悪な軍団であると証明されました!
リメンバー・パールハーバー!!
私は皆様同様平和を愛するものでありますが、自由と民主主義を守る為、この危機に国民の皆様の団結を…。」
が、この演説も結局、合衆国全国民を奮い立たせるものにはなり得なかった。
戦争になるのは仕方ないとして、ホワイトハウスと軍の中枢がこれではどうしようもないではないか。
この指導者の元、若者が命を張る価値はあるのか!?
新聞はそんな論調である。
しかし、それでも若者達の中には国家の危機に使命感を抱き、募兵所に駆け込むのも少なくなかった。
しかし、軍がここまで醜態を晒さなければ、その数はより増えて数倍になっていたであろう…。
20
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
蒼雷の艦隊
和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。
よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。
一九四二年、三月二日。
スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。
雷艦長、その名は「工藤俊作」。
身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。
これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。
これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
幕府海軍戦艦大和
みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。
ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。
「大和に迎撃させよ!」と命令した。
戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる