新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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鉄拳

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現地時間18時過ぎ。
ハワイ真珠湾の地獄のかがり火はまだ消えていない。
(いずれにせよ、『事後処理』にはベストを尽くさねば…)
キンメル米太平洋司令長官は、気丈に司令部にとどまり、周辺一帯の救援、復旧作業の指揮をとっていた。
民間人にも、少なからぬ被害が出ているらしい。
とは言えアリゾナをはじめとする大型艦の大爆発の破片によるものや、軍関連施設で働いている者が大半…。
民間人居住エリアを攻撃する程日本人もバカではない。
そして、日没ぎりぎりまで哨戒機を飛ばしていたが、日本艦隊は発見できず。(ただ哨戒機自体も6機しか残っていなかったのだが)
やはり、一度限りのヒットアンドアウェイか。
奴らにとっても大きなギャンブル…しかし、みすみす勝ち逃げを許してしまった…。
私の今後はともかく、戦訓の精査を含めてやるべきことはやり切らねば…。
…軽く、めまいを覚える。
「閣下、お休みになられては…。」
「うむ。」
確かに、やるべき事は山積してはいるのだが、頭が回らない…。
ここは参謀長の言葉通り…。
!!!??
地鳴り!?
直後に耳障りな金属音。

まさか…?
「伏せろ!」
誰かが叫んだ。
まさに轟き…。
湾内の大破した戦艦2隻が、さらにダメ押しを喰らう。
これは…間違いなく…。
艦砲射撃だ!!
日本の別働隊…何故気づかなかった…。
いや、誰も責められん。
早朝以降の混乱、レーダーサイトも破壊。
哨戒機の体制も不完全。
それにしても、この地獄に、まだ底があったとは。
「敵艦隊の…編成は?」
キンメルは辛うじて声を絞り出す。
まだ目視では、水平線の少し手前にようやく近づいている程度。
「戦艦1、重巡2を基幹とした…。」
が、次の轟音。
なんだ、この爆風は…!?
「16インチ砲台群の方角です!!」
戦艦群も寄せ付けない筈の、ハワイ防衛の切り札が…。
まさか、それ以上の破壊力と射程を持った砲か?
士官の一名が叫ぶ。
「戦艦1隻ではありません!合計3隻!!
ただ、そのうちの1隻が、途轍も無く…」
でかい!
排水量5万トン…いやそれ以上。
キンメル以下幕僚達は息を呑む。
日本人は、戦闘機のみならず、戦艦までも…。

「ははは!まさかこいつの試験航海が、そのまま初陣になるとはな!」
山本五十六連合艦隊司令長官は、双眼鏡を覗きつつ呵々大笑。
隣では参謀長宇垣纏が複雑な表情。
その何とか言う例の男には会ったことはないが、なぜそうも重用する必要があるのか。

この巨大なる「一号艦」の両脇には南雲空母艦隊から分派した、霧島、比叡、そして空母飛龍が、護衛として侍っていた。
戦闘機隊が護衛する中、弾着観測機をフォローする為、97式艦攻が照明弾を次々と投下する。

もはやアメリカサイドから、反撃する術は無かった。
「来たからには徹底的に叩くべし!
真珠湾内の残存艦艇、整備ドック、そして重油タンクだ!撃ち漏らすな!」
内心はどうあれ、宇垣はそう全艦艇に叱咤する。


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