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一手違い

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「肝心なのは、奴らがいつ、艦載機を発進させるかだ。」
キンメルの言葉に、参謀達が頷く。
「日本の艦載機の性能によりますが…まぁ究極は攻撃隊を護衛する戦闘機の作戦行動半径によりますな。」
航空参謀の1人が発言し、みな同調した。
「まぁ、奴らのそもそもの航空技術レベルでは、航続距離もそれ以外の性能も知れているだろうがな。」
「いや、けしてナメてはいけない。
戦闘機に関しては既に新型を導入しているとの情報…。
ただ中国戦線で戦っている筈のそのデータが不足しておるのが問題だ…。」
「ふん、では百歩譲ってわがF4Fワイルドキャットと同じ1400マイルとしよう。」
「そうなりますと、諸要素勘案しまして、最速で2時間後には発艦という事になりますな。」
「その発艦のタイミングを見落とさぬよう、潜水艦では追いきれぬかも知れんから哨戒機の態勢を強化せねば。」
「うむ。陸軍航空隊とも連携し、迎撃態勢を整えれば…。
戦闘機350機超体制で返り討ちに出来る。」
「キンメル閣下、この基本方針で宜しいでしょうか?。」
太平洋アメリカ全艦隊の指揮官は頷く。
元々の哨戒機の数が足りず、敵艦隊の全貌が掴みかねるのが不安であるが。
防空態勢を、レーダー群も時間外(普段は午前7時に閉めてしまう)稼働させつつ固めれば、少なくとも航空攻撃で不覚を取ることはない!
これで奴らの奇襲を返り討ちにすれば、私も太平洋艦隊司令長官としての不動の武勲を…。


午前7時50分頃、
「各島陸軍航空基地より入電!全機滑走路に駐機し、順次暖機運転に入ります。」
通信士官の報告に、キンメルは頷く。
まだ敵空襲予想時間まで、1時間半の余裕。
偵察のカタリナ飛行艇群からの具体的報告が無いのが依然気になるが…
「よし、本日受け入れ予定のBー17はもう到着するな。」
「はっ、時間通りに、レーダーにも機影、隊長機からも連絡ついております。」
陸軍基地司令とも相談し、敵機到達前に先に収容してしまう手筈になっていた。
空中退避は論外、燃料的に余裕は無いし、日本機迎撃中に何が起こるかも分からない。
まぁ、着陸スペースは充分取れておるし、Bー17収容後、迎撃戦闘機隊を発進させても悠々間に合う…。

その、米国陸軍航空隊のBー17重爆撃機の群れ…。
その先頭機の操縦席。
「隊長、ハワイアンが聴こえて来ましたぜ。」
「おいおいバウアー、任務中に浮かれすぎ…って俺にもイヤフォン貸せ笑。」
そんな彼らの目に、雲霞の如き鉄の翼の群れ。
「なんだ?『奴ら』が来るのはまだ先だろ?
どこの基地の戦闘機隊か知らんが1時間かそこら張ってるつもりか?」
「まー、多分用心のためでしょ。
しかしジャップもかわいそうに、やっとハワイくんだりまで忍びよって奇襲と思いきや、鴨撃ちに…。」
「…ちょっと待て。」
2人の表情が凍る。
「機体が違う、しかも半数以上が爆装か雷装してやがる…!」
!!!
決定打は翼に書かれたヒノマル。
「基地司令部、いや全島に伝えろ!!」

…雲が切れ、眼前にオアフ島真珠湾の全景が広がる。
周囲に敵迎撃戦闘機も居ない。
対空砲火も沈黙。
つまり、ワレ奇襲に成功セリー
日本海軍空中総指揮官、淵田美津雄中佐は、高らかに宣言した。

「トラ・トラ・トラや!」
ある意味では世界を駆け巡る、衝撃のメッセージであった。
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