新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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情報、そして避け得ぬ運命。

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帝都、昭和16年2月。

「久々の来客が誰かと思えば…」
久保拓也の下宿先…実は藤村さんが片手間に経営しているアパートなのであるが。
休日の午後、久保を訪ねてきた男。
「陸軍 第33部隊 」所属の、中村敦大尉であった。
「よっ、久保海軍技術どの。」
自分の家のように、あぐらをかく中村。
「しけた休日だねえ、こんな本やら雑誌の山に囲まれた部屋で、色々と軍人らしくないな、お前さんは。」
「お前に言われたくないんだよなぁ。」
確かに中村の格好は、白いワイシャツの上のボタンを開け、髪も伸ばしっぱなし。
当時の軍人の印象とは程遠い。
むろん久保も、中村の「出身校」及び現在の部隊のそもそもの意義、方針を重々知っている。
なので現状の中村に疑問を感じたりしない。
早速、本題に入る久保。
「ところで…どうかな?」
「ああ、明らかに、『奴ら』は本気だな。」
「まずこちらの中国戦線が泥沼化。それを打開する為に陸軍が行った…フランス領インドシナ、石油資源地帯。あそこを分取ったのが致命的だったと?」
中村は頷く。
陸軍中枢あいつら は目先しか見えてない。特に富永ってバカは…。
陛下から無理押しはせぬよう釘を刺されていたにも関わらずな…。
これでアメリカさんは石油禁輸どころか、最悪日本を武力で牽制する口実も得た訳だ…。」
「やはり、いずれは避けられないか、対米開戦は。」
「うむ。まあ9割がた、新たな戦争になるな。
こちらの分析でも、アメリカは和解の条件として、最低限満州も含めた中国大陸の放棄は言ってくる。
下手すれば明治維新時点での領土に戻せとか、言いかねない。
それじゃあ陛下のご意志が平和的解決にあろうとも、陸海軍は勿論、国民が納得しない。
なにしろ新聞ラジオでは、大陸を総ナメにしようかという勢いで、軍の戦果を報じて、戦意を煽っているからなぁ。
もし今言ったことを受け入れたら、暴動になりかねない。」
「そうか、やはりそうなるかー。」
「しかし今更だが、一技術佐官がなんでやたら、こういう事を知りたがる。
知ったところでお前や俺に、どうこうできる訳でもねえのに。」
「そうだな…趣味程度に中学の頃から歴史本読んで…なんとなく似ていると思ったんだ。
満州を取ってからの日本と、衰亡、滅亡に向かっていった過去の国々がな…。
俺は皇国の、曲がりなりにも軍人として、それだけは阻止しないとならない。
そう思ったからこそ、『あの』零戦を造ったんだ…。」

その後、気晴らしにたまには綺麗どころのいる店で飲もうと、誘われるままに夜の街に旧友と繰り出す久保であった…。
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