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初陣

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「なんなんですか、コレは!」
中国戦線 日本海軍 第二連合航空隊基地。
大木芳男・ニ等飛曹は、空技廠の高山技術大尉に半ば食ってかかる。
(だから、俺が作った訳ではないんだよなあ…)
内心でぼやきつつも、高山はなだめる。
「まぁ、引き込み脚の機体というだけで造る側も、乗りこなす側も未知の領域。
まして96艦戦と比べ80ノット近く高速化しているから、今は違和感しか感じないだろうし、巴戦における旋回性能も落ちていると感じるだろうが…。
ここの猛者達なら、暴れ馬もいざ実戦となれば乗りこなせると我々も見込んでいる。だからなるべく慣熟訓練で…。(久保の野郎面倒な役回りを…何が『向こうではヨロシクゥ!』だ!)」
そこへ、当面の新鋭機部隊指揮官を務める進藤三郎大尉が現れる。
「大木よ、そうこう言っているうちに、空戦があるかも知れんぞ。」
「え!?
いや、自分もやりたいのは山々ですが…。」

敵である中国空軍戦闘機隊は、日本爆撃機隊の護衛として、今までならばあり得ない奥地・重慶まで侵攻してくる謎の戦闘機に恐れをなし、あさっての方向に空中退避してしまうのだ。
それだけならまだしも、日本攻撃隊が去った後、重慶上空を飛び回り、自分達が追い払ってやったのだとばかりにデモンストレーションをしていると聞く…。
「だので、それを狙う。」
進藤はニヤリと笑う。
「そうか、こいつの航続力なら、いけますね!」

かくて…

9月13日

「日本人の新型だ!」
「馬鹿な、ここは重慶、我々の戻りを待ってまたUターンしてきただと?」
「どれだけ航続力が!?」

いや、それどころではない。
すでに高度の優位を取られ…。

こちらは進藤率いる零戦隊13機。
増加燃料タンクを一斉に落とす。
各機2個づつ。


そう、久保技術大尉は機内搭載燃料搭載を減らし、なおかつ要求された航続力を実現する為に、「両翼に」落下タンクを装着させたのである。
急降下性能を支える為強度を上げた主翼だからこそ実現したアクロバット的設計…!

そして猛禽となり襲いかかる日の丸の翼。
まず向かって右側のIー16 2機が火だるまとなる。
「俺も負けてられん。」
大木の機体も加速する。
敵の指揮官は混乱しつつも、編隊を立て直し後退しようとするが…。
「逃がすか!」
大木機の放った20ミリ機関砲弾1発命中。
ただそれだけでIー16が翼に大穴を開けられる。
聞きしに勝る威力だ…。
どうせ撃っても低初速では当たらないと、不評の一因ともなっていた、20ミリ砲だが、なかなかどうして。
そして逃げる敵を追い回すとなると…。
やはり、このスピードは頼もしい!
敵編隊に立て直しや退避の暇を与えず、次々と撃ち落とす、大木と戦友達。
こいつは暴れ馬だが、乗りこなせば相当な駿馬だ…。

かくて、零式艦上戦闘機11型のデビュー戦は、我の損失無し、敵機31機撃墜という鮮烈なものとなったのである。



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