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未知の翼

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そして、5月10日。
名古屋市内某所、三菱重工保有の試験飛行場…
既に新鋭の栄12型を装備した十二試艦戦が暖気運転を行っていた。
これが、堀越二郎技師のチームが作った、
「本筋である試作4号機」である。
今後、泥沼化している中国大陸での戦争がどのように推移しようと、また全く未知の運命がこの国ー大日本帝国を襲おうとも、今後当面の海軍主力戦闘機…として採用されるはずの機体である。

そしてその20メートル横には
『もう一つの十二試艦戦』がエンジン起動に入ろうとしていた。
何かが違う。
本筋のそれと…いかにも日本的な曲線美の優美さ。
そして新規軸の引き込み脚。
それらは共通している。
だが何か違和が…。
堀越は内心首を傾げた。
一体何を「創った」のだ?あの青年技術士官は?
「あなたが気に病むことは無い。」
後ろから歩みよって来たのは、今をときめく空母艦隊…第一航空艦隊参謀、源田実少佐であった。
「今後は海の戦いも航空機がリードする。」との信念と鋭利な頭脳に加え、自らも搭乗員…パイロットとしての卓絶した技量を持ち、その、日本各地で衆目に披露した華麗な曲芸飛行は「源田サーカス」の異名を取っていた。
今や、階級を超えた、日本海軍のカリスマの一人と言っても良い。
「は、はぁ…。」
「それにしてもあの技術大尉も、先日の機体選定会議が紛糾したからといって、自らにとって無謀な条件を突きつけて来たものだ。
『互いに模擬空戦を行い、勝った方を正規の次期戦闘機として制式採用する…』
そこまでは良いとして、こちらのパイロットが俺と知ってなお、自分が乗って戦う と言い張るとはな。
奴も操縦士の資格あり、とは言え所詮民間のそれだ。
はっ!俺も舐められたものだ。
まあ堀越さんも大船に乗った気で…
制式採用されるのはあなたの設計した機体だ。」
堀越は「はぁ…」と返すほかない。
源田も久保も、飛行服姿で操縦席に乗り込む。

一体、どうなってしまうのだ…?
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