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桜花、刹那の散華
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「海軍!応答願う!」
陸軍疾風隊の黒江大尉が予め決めていたチャンネルで呼びかけてくる。
「あー大感謝っす。
こちらは臨時指揮の渡久地海軍少尉。
F6F群のケツに火をつけてもらえば」
「承知!」
ニヤリと笑い、後上方から編隊ごと敵の群れに猛射を浴びせる疾風隊。
「き、聞いてないぞ!?」
「どっから湧いてきた!?」
「ダイヴして逃げろ!」
「馬鹿者、護衛任務を忘れるな!」
一瞬の虚を突きさえすれば、精強な大群も烏合の衆となる。
宇垣の旦那はよく陸軍を説き伏せてくれたモノだぜ…。機密の桜花の構想も教えたんだろう。多分。
渡久地は一定の手ごたえを感じつつ、7機目を屠る。
「親分!いまだ!敵艦隊に突っ走れ!」
「おうよ!」
神雷部隊の一式陸攻は一斉に敵大艦隊の輪形陣中央を目指す。
「舐めやがってヤラセはせんぞ!」
混沌の中からF6F数十機が追い縋る。
「くそっやべえ!」
一式陸攻4機が瞬時に火だるまとなる。
その時…。
「旗艦 CICよりエコー1から6へ!
敵別働隊のカミカゼが侵入!!
迎撃の手が足りない!
沖縄攻撃隊が発進を終えるまで凌いでくれ!」
「は!?どういう事だ!?」
ベティの群れが囮!?
いや、そうじゃない。
九州と沖縄の基地からの同時攻撃。
しかも向こうは150機以上!
そしてベティを狙う味方の群れにもゼロやフランクが…。
くっ…またも不覚を。
ミッチャーは歯軋りした。
カミカゼの部隊は九州方面からだけと何故思い込んでしまったのだろう。
こちらの侵攻作戦が遅れた分、乏しいながらも当初の分析より日本軍が沖縄の航空戦力を増強していてもおかしくないのに。
おそらく情報部も、日本本土からさえ小出しにしか出来ない日本の航空戦力の燃料事情で、簡単に大規模攻撃はできないと高をくくっていた面もある。
そしてアメリカ側のレーダーも完璧ではない。
CIC=戦闘中央情報管制室の処理能力も。
故に敵陸軍機のベティへの支援攻撃に、空戦の混乱の中気づけなかった。
さらには前衛ピケットライン駆逐艦を増やしたは良いが、いきなりの実戦での高度な連携の不十分さ…。
…否、やめよう、スプルーアンス提督共々、この俺も世界最強の艦隊で上陸支援攻撃をまもなく行う。
その事実の熱量に浮かされて、わずかな隙があったのだ。慢心、油断…。
とにかく!
いまはカミカゼの群れを全力で排除せねば。
既に各艦艇の対空砲火はレーダーの統制のもと狂ったように火を吹き、濃密な弾幕を。
どうにかF6Fの群れを振り切った一式陸攻。
計22機。周囲で対空砲弾が炸裂し、その密度はどんどん増す。
数機が炎上、高度がどんどん下がる。
桜花を早めに発進させるものもいた。
まだ高度は4000弱。
敵駆逐艦ピケットラインを突破してなお、まだ中枢までは50キロか…。
しかし、野中機の周囲の砲弾炸裂。
その密度が増してきた。
「親分!」
「しゃあない、できる限り降下速度を利用して加速して切り離すぞ!
兄さん!頑張れるか!?」
「いけます!」
澄み切った瞳で桜花隊員はそう返す。
「切り離した直後、意識が飛ばないように大声だせ。訓練でも言われただろうがな。
あとは引き起こしつつ、とにかくデカいやつに!」
「はい!ありがとうございます。」
武運を祈るなどとは言わない。
「…兄さんの名前をちゃんとは聞いていなかったな?」
「鈴木翔太郎少尉であります。
本当にありがとうございました!
お先に!」
桜花のキャノピーが閉まる。
「鈴木少尉に敬礼!
では!しばしの別れだ!」
投下ーッッ!!!
一瞬だけ瞑目すると、野中は視線の隅に真一文字に飛ぶ桜花を見遣りつつ、意識を切り替える。
「全力で離脱するぞ!
高度を上げつつ、敵の手薄な所を突っ切る!」
「合点!」
身は軽くなった。最高速の430キロ超で突っ走る。
2機ほど付いてきた僚機は墜とされた。
くっ、と声を上げながらも、野中は敵攻撃圏内からの脱出を諦めない。
今日、散っていった桜花の若きパイロットに、いずれ自分達も続くだろう。
だが今日ではない。
今後も鉄火場で命は張り続ける。
だが自分から捨てる事はしない。
アメ公を一人でも多く討ちまくる。
本当に刀折れ矢尽きるまで!
それが、今まで、これからも散っていく若者達への意気と言うもんだぜ。
が…。
「後上方から敵戦闘機!被ってくる。」
「撃ちまくれ!ここさえ抜ければだぜ!」
「うおおお!」
野中も双発爆撃機にあるまじき一式陸攻の運動性を最大限に活かし敵の射線を外しに外すが…。
一機に食いつかれる。
いかん!喰われ…
そう後部機銃手が思った時、そのF6Fがぐらりと傾く。
!!
「味方の零戦だ!」誰かが叫んだ。
浅尾、平良が駆る2機であった。
さらに1機の敵が尾翼を砕かれる。
「方位145なら、帰りの友軍機もいます!」
無線電話から浅尾の声。
「すまねえな!恩に切る!」
野中機はほぼ奇跡的に死地を脱した。
「これが、ロケット機のスピードか…」
桜花搭乗の、鈴木翔太郎少尉。
加速がうまくかかり、時速900キロのスピード。
もはや、死の恐怖も、闘志や殺意もない。
ただただ、不可思議な爽やかさ…。
父さん、母さん、いつまでもお元気で。
妹よ、しあわせにな。
「大日本帝国、万歳!」
目の前には巨大な敵空母…。
そして全てが光に包まれた。
陸軍疾風隊の黒江大尉が予め決めていたチャンネルで呼びかけてくる。
「あー大感謝っす。
こちらは臨時指揮の渡久地海軍少尉。
F6F群のケツに火をつけてもらえば」
「承知!」
ニヤリと笑い、後上方から編隊ごと敵の群れに猛射を浴びせる疾風隊。
「き、聞いてないぞ!?」
「どっから湧いてきた!?」
「ダイヴして逃げろ!」
「馬鹿者、護衛任務を忘れるな!」
一瞬の虚を突きさえすれば、精強な大群も烏合の衆となる。
宇垣の旦那はよく陸軍を説き伏せてくれたモノだぜ…。機密の桜花の構想も教えたんだろう。多分。
渡久地は一定の手ごたえを感じつつ、7機目を屠る。
「親分!いまだ!敵艦隊に突っ走れ!」
「おうよ!」
神雷部隊の一式陸攻は一斉に敵大艦隊の輪形陣中央を目指す。
「舐めやがってヤラセはせんぞ!」
混沌の中からF6F数十機が追い縋る。
「くそっやべえ!」
一式陸攻4機が瞬時に火だるまとなる。
その時…。
「旗艦 CICよりエコー1から6へ!
敵別働隊のカミカゼが侵入!!
迎撃の手が足りない!
沖縄攻撃隊が発進を終えるまで凌いでくれ!」
「は!?どういう事だ!?」
ベティの群れが囮!?
いや、そうじゃない。
九州と沖縄の基地からの同時攻撃。
しかも向こうは150機以上!
そしてベティを狙う味方の群れにもゼロやフランクが…。
くっ…またも不覚を。
ミッチャーは歯軋りした。
カミカゼの部隊は九州方面からだけと何故思い込んでしまったのだろう。
こちらの侵攻作戦が遅れた分、乏しいながらも当初の分析より日本軍が沖縄の航空戦力を増強していてもおかしくないのに。
おそらく情報部も、日本本土からさえ小出しにしか出来ない日本の航空戦力の燃料事情で、簡単に大規模攻撃はできないと高をくくっていた面もある。
そしてアメリカ側のレーダーも完璧ではない。
CIC=戦闘中央情報管制室の処理能力も。
故に敵陸軍機のベティへの支援攻撃に、空戦の混乱の中気づけなかった。
さらには前衛ピケットライン駆逐艦を増やしたは良いが、いきなりの実戦での高度な連携の不十分さ…。
…否、やめよう、スプルーアンス提督共々、この俺も世界最強の艦隊で上陸支援攻撃をまもなく行う。
その事実の熱量に浮かされて、わずかな隙があったのだ。慢心、油断…。
とにかく!
いまはカミカゼの群れを全力で排除せねば。
既に各艦艇の対空砲火はレーダーの統制のもと狂ったように火を吹き、濃密な弾幕を。
どうにかF6Fの群れを振り切った一式陸攻。
計22機。周囲で対空砲弾が炸裂し、その密度はどんどん増す。
数機が炎上、高度がどんどん下がる。
桜花を早めに発進させるものもいた。
まだ高度は4000弱。
敵駆逐艦ピケットラインを突破してなお、まだ中枢までは50キロか…。
しかし、野中機の周囲の砲弾炸裂。
その密度が増してきた。
「親分!」
「しゃあない、できる限り降下速度を利用して加速して切り離すぞ!
兄さん!頑張れるか!?」
「いけます!」
澄み切った瞳で桜花隊員はそう返す。
「切り離した直後、意識が飛ばないように大声だせ。訓練でも言われただろうがな。
あとは引き起こしつつ、とにかくデカいやつに!」
「はい!ありがとうございます。」
武運を祈るなどとは言わない。
「…兄さんの名前をちゃんとは聞いていなかったな?」
「鈴木翔太郎少尉であります。
本当にありがとうございました!
お先に!」
桜花のキャノピーが閉まる。
「鈴木少尉に敬礼!
では!しばしの別れだ!」
投下ーッッ!!!
一瞬だけ瞑目すると、野中は視線の隅に真一文字に飛ぶ桜花を見遣りつつ、意識を切り替える。
「全力で離脱するぞ!
高度を上げつつ、敵の手薄な所を突っ切る!」
「合点!」
身は軽くなった。最高速の430キロ超で突っ走る。
2機ほど付いてきた僚機は墜とされた。
くっ、と声を上げながらも、野中は敵攻撃圏内からの脱出を諦めない。
今日、散っていった桜花の若きパイロットに、いずれ自分達も続くだろう。
だが今日ではない。
今後も鉄火場で命は張り続ける。
だが自分から捨てる事はしない。
アメ公を一人でも多く討ちまくる。
本当に刀折れ矢尽きるまで!
それが、今まで、これからも散っていく若者達への意気と言うもんだぜ。
が…。
「後上方から敵戦闘機!被ってくる。」
「撃ちまくれ!ここさえ抜ければだぜ!」
「うおおお!」
野中も双発爆撃機にあるまじき一式陸攻の運動性を最大限に活かし敵の射線を外しに外すが…。
一機に食いつかれる。
いかん!喰われ…
そう後部機銃手が思った時、そのF6Fがぐらりと傾く。
!!
「味方の零戦だ!」誰かが叫んだ。
浅尾、平良が駆る2機であった。
さらに1機の敵が尾翼を砕かれる。
「方位145なら、帰りの友軍機もいます!」
無線電話から浅尾の声。
「すまねえな!恩に切る!」
野中機はほぼ奇跡的に死地を脱した。
「これが、ロケット機のスピードか…」
桜花搭乗の、鈴木翔太郎少尉。
加速がうまくかかり、時速900キロのスピード。
もはや、死の恐怖も、闘志や殺意もない。
ただただ、不可思議な爽やかさ…。
父さん、母さん、いつまでもお元気で。
妹よ、しあわせにな。
「大日本帝国、万歳!」
目の前には巨大な敵空母…。
そして全てが光に包まれた。
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