9 / 21
桜は散るか
しおりを挟む
「死ぬしかあるめえ。
それで上層部にこの作戦の無意味さを少しでも思い知ってもらう。
ま、湊川だよ。」
野中は盃の中身を一気に飲み干す。
「それでいいの?あんたは?」
「ああん?」
「あんた程の男が死んでも、正直何も響かないぜ?軍上層部には。
本当は分かってんだろ?」
どよめく周囲。
「特攻全てがそうだ。とりあえず一撃講和って望みにすがって、若い衆を騙して鉄砲玉につかう。
仮に命中率5から10%でも、なんかの拍子にまとまった損害が与えられて、アメリカがびびって自分達の身分が保証されるレベルで講和できればいい。
てめえが死刑になってもいいから天皇や庶民を護ろうなんて肚でやってる奴はいても一握り。
クソなんだよ要するに。」
野中一家の皆は諫めるのも忘れ呆然としていた。
「わあってらあ…わかってるんだよ…。
じゃあ、どうしたがいい!?」
激昂二歩手前の調子で、野中は返した。
「俺たちが護衛につく。
だがそれでも100%は護り切れないがな。
それでも、桜花隊のうち半分強は、敵艦隊輪形陣中心の30キロ手前まではなんとかする。」
野中の目に光が差す。
桜花は一撃必殺を期して1200Kg徹甲弾を搭載しているのが仇となり、カタログ上母機からの切り離し高度にもよるが37kmの航続距離しかない…だので母機の一式陸攻としては、鉄壁の敵防御網を過荷重状態で突破しなければならない。そうしないと折角の「必殺の槍」が届かないのだから。
そこまで護り、送り届けてくれると言うのか…。
「多分米軍も予定が狂って、また九州近くに来る頃には4月第2週頭だろう。
そいつはもう、沖縄狙った上陸作戦の一環としてだ。まあ本番ってことだな。
その頃には神雷部隊の陸攻や桜花の数も最初よりは増える。
…特攻自体は宇垣の旦那でも止められねえ。
あと、桜花乗りをわざわざ志望する奴らは、他の特攻組に輪をかけて覚悟が違う。
俺の価値観からは遠いけどな…。
だったらば、そいつらを犬死にさせないのが奴らへの手向けだ。そうだろ?」
「ああ、その通りだ。」
「どうしてもやらざるを得ない戦いなら、絶対に勝つ。
戦争で勝つと言うことはより多くの敵を殺すと言う事だ。
だから桜花の連中とは違う意味で鬼にならなきゃいけねえ。俺たちは…。
だからアンタは、アンタ達は死んじゃいけねえ。
もしかしたら連中に付き合って突っ込むつもりだったのかもしれないが、それじゃ殺せないだろう。
繰り返し出撃して殺しまくらなければ、勝ちは掴めないし、結局特攻で死ぬ奴らも浮かばれねえ。
いずれアンタが言うように特攻を潰して、上に居るクズ達に落とし前つけさせなきゃならねえが。それもアンタ自身が死んだら何にもならねえ。」
「そうか…そう考えているのか、よく分かったぜ、兄ちゃん。」
野中は渡久地の両肩を掴む。
「合点承知、頼んだぜ!」
「ああ、ところでタバコある?」
月末月初は小康状態。
陸上攻撃機銀河によるウルシー特攻。
アメリカ側からはサイパンからのB29の行き掛けの駄賃的な攻撃。
(ただアメリカ陸軍第20爆撃団は、海軍からの要請に消極的であり、日本側は空中退避や林の中で偽装する等でやり過ごしてしまった。)
等々は散発的にあったが、互いにスケールは違えど戦力人員の補充強化に基本的には専念していた。
そして、4月6日、アメリカ第5艦隊は、沖縄攻略の空海からの支援に全力投球すべく、「アイスバーグ作戦」発動に呼応する事となる。
ウルシーを進発した敵の一大艦隊。
これに対し日本帝国大本営は、「天号作戦」を発起。
間もなく敵の目指す所は沖縄と諸情報で確定され、「天一号作戦」として正式に発動される。
アメリカ第5艦隊は空母だけでも18隻、大小艦船数4桁におよぶ空前の大艦隊。
陸軍兵力は18万。
地上軍司令官バックナーは…
「一ヶ月で陥せる」
と豪語していた。
(来たか。いいぜ、どんどん寄せてこい。
取り立ての時間だ。
全財産スッても知らねえぞ。)
鹿屋基地の滑走路隅で、タバコをくゆらす渡久地。
視線の先では一式陸攻35機に増派された神雷部隊が翼を休めていた。
それで上層部にこの作戦の無意味さを少しでも思い知ってもらう。
ま、湊川だよ。」
野中は盃の中身を一気に飲み干す。
「それでいいの?あんたは?」
「ああん?」
「あんた程の男が死んでも、正直何も響かないぜ?軍上層部には。
本当は分かってんだろ?」
どよめく周囲。
「特攻全てがそうだ。とりあえず一撃講和って望みにすがって、若い衆を騙して鉄砲玉につかう。
仮に命中率5から10%でも、なんかの拍子にまとまった損害が与えられて、アメリカがびびって自分達の身分が保証されるレベルで講和できればいい。
てめえが死刑になってもいいから天皇や庶民を護ろうなんて肚でやってる奴はいても一握り。
クソなんだよ要するに。」
野中一家の皆は諫めるのも忘れ呆然としていた。
「わあってらあ…わかってるんだよ…。
じゃあ、どうしたがいい!?」
激昂二歩手前の調子で、野中は返した。
「俺たちが護衛につく。
だがそれでも100%は護り切れないがな。
それでも、桜花隊のうち半分強は、敵艦隊輪形陣中心の30キロ手前まではなんとかする。」
野中の目に光が差す。
桜花は一撃必殺を期して1200Kg徹甲弾を搭載しているのが仇となり、カタログ上母機からの切り離し高度にもよるが37kmの航続距離しかない…だので母機の一式陸攻としては、鉄壁の敵防御網を過荷重状態で突破しなければならない。そうしないと折角の「必殺の槍」が届かないのだから。
そこまで護り、送り届けてくれると言うのか…。
「多分米軍も予定が狂って、また九州近くに来る頃には4月第2週頭だろう。
そいつはもう、沖縄狙った上陸作戦の一環としてだ。まあ本番ってことだな。
その頃には神雷部隊の陸攻や桜花の数も最初よりは増える。
…特攻自体は宇垣の旦那でも止められねえ。
あと、桜花乗りをわざわざ志望する奴らは、他の特攻組に輪をかけて覚悟が違う。
俺の価値観からは遠いけどな…。
だったらば、そいつらを犬死にさせないのが奴らへの手向けだ。そうだろ?」
「ああ、その通りだ。」
「どうしてもやらざるを得ない戦いなら、絶対に勝つ。
戦争で勝つと言うことはより多くの敵を殺すと言う事だ。
だから桜花の連中とは違う意味で鬼にならなきゃいけねえ。俺たちは…。
だからアンタは、アンタ達は死んじゃいけねえ。
もしかしたら連中に付き合って突っ込むつもりだったのかもしれないが、それじゃ殺せないだろう。
繰り返し出撃して殺しまくらなければ、勝ちは掴めないし、結局特攻で死ぬ奴らも浮かばれねえ。
いずれアンタが言うように特攻を潰して、上に居るクズ達に落とし前つけさせなきゃならねえが。それもアンタ自身が死んだら何にもならねえ。」
「そうか…そう考えているのか、よく分かったぜ、兄ちゃん。」
野中は渡久地の両肩を掴む。
「合点承知、頼んだぜ!」
「ああ、ところでタバコある?」
月末月初は小康状態。
陸上攻撃機銀河によるウルシー特攻。
アメリカ側からはサイパンからのB29の行き掛けの駄賃的な攻撃。
(ただアメリカ陸軍第20爆撃団は、海軍からの要請に消極的であり、日本側は空中退避や林の中で偽装する等でやり過ごしてしまった。)
等々は散発的にあったが、互いにスケールは違えど戦力人員の補充強化に基本的には専念していた。
そして、4月6日、アメリカ第5艦隊は、沖縄攻略の空海からの支援に全力投球すべく、「アイスバーグ作戦」発動に呼応する事となる。
ウルシーを進発した敵の一大艦隊。
これに対し日本帝国大本営は、「天号作戦」を発起。
間もなく敵の目指す所は沖縄と諸情報で確定され、「天一号作戦」として正式に発動される。
アメリカ第5艦隊は空母だけでも18隻、大小艦船数4桁におよぶ空前の大艦隊。
陸軍兵力は18万。
地上軍司令官バックナーは…
「一ヶ月で陥せる」
と豪語していた。
(来たか。いいぜ、どんどん寄せてこい。
取り立ての時間だ。
全財産スッても知らねえぞ。)
鹿屋基地の滑走路隅で、タバコをくゆらす渡久地。
視線の先では一式陸攻35機に増派された神雷部隊が翼を休めていた。
12
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
日本国転生
北乃大空
SF
女神ガイアは神族と呼ばれる宇宙管理者であり、地球を含む太陽系を管理して人類の歴史を見守ってきた。
或る日、ガイアは地球上の人類未来についてのシミュレーションを実施し、その結果は22世紀まで確実に人類が滅亡するシナリオで、何度実施しても滅亡する確率は99.999%であった。
ガイアは人類滅亡シミュレーション結果を中央管理局に提出、事態を重くみた中央管理局はガイアに人類滅亡の回避指令を出した。
その指令内容は地球人類の歴史改変で、現代地球とは別のパラレルワールド上に存在するもう一つの地球に干渉して歴史改変するものであった。
ガイアが取った歴史改変方法は、国家丸ごと転移するもので転移する国家は何と現代日本であり、その転移先は太平洋戦争開戦1年前の日本で、そこに国土ごと上書きするというものであった。
その転移先で日本が世界各国と開戦し、そこで起こる様々な出来事を超人的な能力を持つ女神と天使達の手助けで日本が覇権国家になり、人類滅亡を回避させて行くのであった。
出撃!特殊戦略潜水艦隊
ノデミチ
歴史・時代
海の狩人、潜水艦。
大国アメリカと短期決戦を挑む為に、連合艦隊司令山本五十六の肝入りで創設された秘匿潜水艦。
戦略潜水戦艦 伊号第500型潜水艦〜2隻。
潜水空母 伊号第400型潜水艦〜4隻。
広大な太平洋を舞台に大暴れする連合艦隊の秘密兵器。
一度書いてみたかったIF戦記物。
この機会に挑戦してみます。
武蔵要塞1945 ~ 戦艦武蔵あらため第34特別根拠地隊、沖縄の地で斯く戦えり
もろこし
歴史・時代
史実ではレイテ湾に向かう途上で沈んだ戦艦武蔵ですが、本作ではからくも生き残り、最終的に沖縄の海岸に座礁します。
海軍からは見捨てられた武蔵でしたが、戦力不足に悩む現地陸軍と手を握り沖縄防衛の中核となります。
無敵の要塞と化した武蔵は沖縄に来襲する連合軍を次々と撃破。その活躍は連合国の戦争計画を徐々に狂わせていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる