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桜は散るか

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「死ぬしかあるめえ。
それで上層部にこの作戦の無意味さを少しでも思い知ってもらう。
ま、湊川だよ。」
野中は盃の中身を一気に飲み干す。
「それでいいの?あんたは?」
「ああん?」
「あんた程の男が死んでも、正直何も響かないぜ?軍上層部あいつらには。
本当は分かってんだろ?」
どよめく周囲。
「特攻全てがそうだ。とりあえず一撃講和って望みにすがって、若い衆を騙して鉄砲玉につかう。
仮に命中率5から10%でも、なんかの拍子にまとまった損害が与えられて、アメリカがびびって自分達の身分が保証されるレベルで講和できればいい。
てめえが死刑になってもいいから天皇や庶民を護ろうなんて肚でやってる奴はいても一握り。
クソなんだよ要するに。」
野中一家の皆は諫めるのも忘れ呆然としていた。
「わあってらあ…わかってるんだよ…。
じゃあ、どうしたがいい!?」
激昂二歩手前の調子で、野中は返した。
「俺たちが護衛につく。
だがそれでも100%は護り切れないがな。
それでも、桜花隊のうち半分強は、敵艦隊輪形陣中心の30キロ手前まではなんとかする。」
野中の目に光が差す。
桜花は一撃必殺を期して1200Kg徹甲弾を搭載しているのが仇となり、カタログ上母機からの切り離し高度にもよるが37kmの航続距離しかない…だので母機の一式陸攻としては、鉄壁の敵防御網を過荷重状態で突破しなければならない。そうしないと折角の「必殺の槍」が届かないのだから。
そこまで護り、送り届けてくれると言うのか…。
「多分米軍も予定が狂って、また九州近くに来る頃には4月第2週頭だろう。
そいつはもう、沖縄狙った上陸作戦の一環としてだ。まあ本番ってことだな。
その頃には神雷部隊の陸攻や桜花の数も最初よりは増える。

…特攻自体は宇垣の旦那でも止められねえ。
あと、桜花乗りをわざわざ志望する奴らは、他の特攻組に輪をかけて覚悟が違う。
俺の価値観からは遠いけどな…。
だったらば、そいつらを犬死にさせないのが奴らへの手向けだ。そうだろ?」
「ああ、その通りだ。」
「どうしてもやらざるを得ない戦いなら、絶対に勝つ。
戦争で勝つと言うことはより多くの敵を殺すと言う事だ。
だから桜花の連中とは違う意味で鬼にならなきゃいけねえ。俺たちは…。
だからアンタは、アンタ達は死んじゃいけねえ。
もしかしたら連中に付き合って突っ込むつもりだったのかもしれないが、それじゃ殺せないだろう。
繰り返し出撃して殺しまくらなければ、勝ちは掴めないし、結局特攻で死ぬ奴らも浮かばれねえ。
いずれアンタが言うように特攻を潰して、上に居るクズ達に落とし前つけさせなきゃならねえが。それもアンタ自身が死んだら何にもならねえ。」

「そうか…そう考えているのか、よく分かったぜ、兄ちゃん。」
野中は渡久地の両肩を掴む。
「合点承知、頼んだぜ!」
「ああ、ところでタバコある?」

月末月初は小康状態。

陸上攻撃機銀河によるウルシー特攻。
アメリカ側からはサイパンからのB29の行き掛けの駄賃的な攻撃。
(ただアメリカ陸軍第20爆撃団は、海軍からの要請に消極的であり、日本側は空中退避や林の中で偽装する等でやり過ごしてしまった。)
等々は散発的にあったが、互いにスケールは違えど戦力人員の補充強化に基本的には専念していた。
そして、4月6日、アメリカ第5艦隊は、沖縄攻略の空海からの支援に全力投球すべく、「アイスバーグ作戦」発動に呼応する事となる。
ウルシーを進発した敵の一大艦隊。
これに対し日本帝国大本営は、「天号作戦」を発起。
間もなく敵の目指す所は沖縄と諸情報で確定され、「天一号作戦」として正式に発動される。
アメリカ第5艦隊は空母だけでも18隻、大小艦船数4桁におよぶ空前の大艦隊。
陸軍兵力は18万。
地上軍司令官バックナーは…
「一ヶ月で陥せる」
と豪語していた。

(来たか。いいぜ、どんどん寄せてこい。
取り立ての時間だ。
全財産スッても知らねえぞ。)
鹿屋基地の滑走路隅で、タバコをくゆらす渡久地。
視線の先では一式陸攻35機に増派された神雷部隊が翼を休めていた。





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