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【3】子キツネ狩り  ①

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定例議会の後にジュスティアーノ殿下と四大公爵家の嫡子たちだけでお茶を飲む機会は毎回あったけれど、男性陣の背が急に伸びて声が大人のように変化した頃から、子供の頃のように無邪気に話をすることが無くなっていた。
ジュスティアーノ殿下以外の公爵家の嫡子四人には婚約者が決められた。
さすがに家名で呼び合うことはなかったけれど、互いに愛称で呼ぶこともなくなり、ジュスティアーノ殿下に対しては誰もがきちんと呼ぶようになっていた。
間違っても『ジュスト』と話し掛けることはなかった。

ジュスティアーノ殿下の婚約者候補が出揃ったようだと、前回の定例議会の最後に本人が話した。
国内有力貴族から選定された令嬢の中に、ヴィオラのすぐ下の妹が入っていた。
西のブレッサン公爵家アルマンドには弟しかいない。
東のモルテード公爵家イラリオには弟と妹がいて、その妹はまだ幼い。
ヴィオラは三姉妹ですぐ下の妹は私たちの二つ下なので、ジュスティアーノ殿下の婚約者として年齢的には問題ない。
四大公爵家から第一王子の婚約者を必ず選ばなければならない訳ではなく、ヴィオラの妹以外は侯爵家からの候補だという。

物思いに耽っている場合ではなかった。
今日はこれから、アンセルミ公爵領にて子キツネ狩りが行われる。
十一月になると各地でキツネ狩りのシーズンとなり、有力貴族たちは自分の領地に他の貴族を招いて開催する。
中でも大がかりなのが、ヴィオラの家であるアンセルミ公爵家が開催するキツネ狩りだ。
四大公爵家の中でキツネ狩りを催すのはアンセルミ公爵家だけで、比較的王都から近いアンセルミ公爵が抱える森林地帯で行われるというのもあって、参加する貴族も多い。
その後、優秀者の表彰を兼ねた食事会や舞踏会もあるので、夫人や子女たちも参加する。

今日は、本格的な十一月のキツネ狩りシーズンの前に行われる『子キツネ狩り』だ。
メインのキツネ狩りを行う貴族の子世代で行われるもので、ハンティング技術を子キツネ狩りから慣らしていく。
ヴィオラの婚約者のカルロは、アンセルミ領の中でキツネ狩りのマスターを任されているバディーニ侯爵家の次男だ。
バディーニ侯爵家ではキツネを追う猟犬を百頭近く抱えて訓練をし、またキツネを追うための馬も育てている。

そんなバディーニ侯爵家の次男カルロがヴィオラの婚約者に選ばれた理由の一つに、キツネ狩りのマスターを輩出する家は軍事に長けているからというのもあるのだろう。
バディーニ侯爵家の軍用馬の優秀さはアンセルミ公爵領内だけではなく、ロンバルディスタ王国の中でも群を抜いているという。
そんな侯爵家のカルロとアンセルミ次期女公爵となるヴィオラの婚約は、誰もが納得のいくものだ。

カルロ・バルディーニとは何度か会ったことがある。
優しい口調で話す穏やかな人だ。
四大公爵家の一つに婿入りすることがどういうことかを理解し、ヴィオラを立てるところと女性としてエスコートするところの使い分けが、しっかりできている人という印象を持った。
あれだけ穏やかそうに見えて、キツネ狩りの時は角笛の名手として早くも名を馳せており、猟犬への指示も的確でキツネを見事に追い込んでいくという。

私も今日の子キツネ狩りには参加するけれど、多くの女性たちと同じく徒歩での参加だ。
馬をヴィオラのようには乗りこなせない。
普通に騎乗して駆けることはもちろんできる。
でも、枝や木の根や埋められたキツネの巣穴を意識しながら駆け抜けていくような手綱さばきはまだ心許ない。
子供の頃はヴィオラよりも駆け回っていたけれど、乗馬技術に関しては軍用馬を生育しているアンセルミ家のヴィオラには敵わず、経験不足であるのが恥ずかしい。
それでも一応乗馬服を着ていく。
女性陣はドレスだけど、アルマンドやイラリオの婚約者は子キツネ狩りには乗馬服を着るというので、私もそれに合わせた。

今回、私の婚約者であるダヴィードは指を怪我しているので不参加だ。
狩りの後の舞踏会だけでも参加しては? と聞いてみたけれど、怪我でプレシーズンの狩りに参加できない不名誉をさらに大きくするだけだと首を横に振った。
ダヴィードにとっては、王族や多くの貴族が集まる狩りの後の舞踏会で私を一人にすることより、自分の名誉を守るほうが大事と言っているようなものだったが、そのことを意識しているようではなかったので受け入れた。
舞踏会で着るドレスは、ダヴィードから以前贈られたものを外して、父が作ってくれたドレスの中から選んで、侍女に荷造りをしてもらった。



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