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【21】新たな家へ
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リュディーヌは久しぶりの馬車に揺られていた。
馭者をアルフが引き受けており、それほど大きくない馬車の中でシルヴェストルと二人きりだった。
シルヴェストルは何も話をしなかった。
いろいろなことを話すのは、リュディーヌが落ち着いて考えられるようになってからだと思い黙っていたのだが、それと知らないリュディーヌは馬車の中の静けさがありがたかった。
一時間ほどが経過してから、シルヴェストル殿下はぽつぽつと話をし始めた。
森の中は、小さな馬車が通れるほどの道しかなかったが、リュディーヌが灯台で暮らすようになってから、シルヴェストル殿下は森の木の枝をはらうなどの整備を命じたという。これからも道の整備は続くらしく、灯台の中で暮らさなくても森を出た最初の村の家から通えるようにすると言った。
──そんなにもあの灯台の灯りを守ることは重要なのね。
リュディーヌは、これからもしっかり勤めて行こうと思いながらも眠らないでいることに神経を集中させていた。
馬車から降りると、そこで待っていたのはあの日別れた三人だった。
「ホルス……、ダン、ネリア、みんな、どうして……」
「お嬢様!」
ネリアが駆け寄ってリュディーヌを抱きしめた。背が高いリュディーヌはネリアをあやしているようになってしまった。
再び三人に会えたことが嬉しかった。
友人たちはエディットが起こしてしまった事件の後に、潮が引くようにリュディーヌの前からいなくなった。親から何か言われれば、リュディーヌは自分でもそうするしかなかっただろうと諦めた。
父も母も妹も、もうこの世にいない。
アルドワン伯爵家に最後まで仕えてくれていた三人だけが、リュディーヌの『家族』だった。
「この家で暮らすことに同意してもらえるだろうか。小さな家だが、君の家族のような者たちもここで働いてもらうことになった。三人の紹介状にもサインをしたが、雇い主は……今は僕、ということになっている」
「殿下、ホルスさんの分の紹介状はありませんでしたよ。アルドワン伯爵が持っていた領地の一部にホルスさん名義の土地があり、そこで農夫をしていらしたところに私がここに来て貰えるよう頼んだのです」
「そうだった。のんびりするはずだったところ、再び人に仕えてもらうことを頼んだのだった」
「私はここに呼ばれたことを嬉しく思っていますよ。灯台にだって上りますよ」
「シルヴェストル第一王子殿下、このような幸せをどう受け止めればよいのか分かりません……」
「とりあえず、中に入りませんか」
アルフの言葉に続くように、家に入っていった。
『小さな家』というのは、王宮に住んでいたシルヴェストル殿下の言葉なのだとリュディーヌは思った。
その家はアルドワン伯爵邸だった邸宅よりも確かに小さいが、しっかりと邸宅と呼べるものだった。
以前の領主が別宅として使っていた家で、数か月かけてあちこちを直したそうだ。
井戸も枯れてしまっていたので、新たに掘って作り上げたという。
シルヴェストル殿下が家の中を案内してくれた。
玄関ポーチの右に応接室があり、左には執務室がある。続く廊下の奥にはダイニングルームとそれに続くサロン、ダイニングルームの奥にキッチンルームがあった。
ダイニングルームの反対側にはドアが四つある。おそらく個人の部屋という感じのドアの間隔だった。たいてい玄関ポーチにある上への階段は、廊下の奥にあった。
上の階は、ドアの無い応接間のような部屋、あとは主寝室と続きの部屋、そして個室が四部屋あるという。平屋建ての横に長い離れもある。大邸宅ではないが、『小さな家』という訳でもない。
リュディーヌはずっと違和感を覚えていた。
シルヴェストル第一王子殿下のはからいで、ここでかつての信頼のおける三人の使用人とまた暮らせるようになったことは分かった。
『灯台の灯りを共に守っていくことにした』という殿下の言葉を頭の中で繰り返すと、まるで殿下が一緒に灯台を守っていくように聞こえるのだ……。
また、シルヴェストル殿下が家の中を案内してくださったことにも、違和感があった。
馭者をアルフが引き受けており、それほど大きくない馬車の中でシルヴェストルと二人きりだった。
シルヴェストルは何も話をしなかった。
いろいろなことを話すのは、リュディーヌが落ち着いて考えられるようになってからだと思い黙っていたのだが、それと知らないリュディーヌは馬車の中の静けさがありがたかった。
一時間ほどが経過してから、シルヴェストル殿下はぽつぽつと話をし始めた。
森の中は、小さな馬車が通れるほどの道しかなかったが、リュディーヌが灯台で暮らすようになってから、シルヴェストル殿下は森の木の枝をはらうなどの整備を命じたという。これからも道の整備は続くらしく、灯台の中で暮らさなくても森を出た最初の村の家から通えるようにすると言った。
──そんなにもあの灯台の灯りを守ることは重要なのね。
リュディーヌは、これからもしっかり勤めて行こうと思いながらも眠らないでいることに神経を集中させていた。
馬車から降りると、そこで待っていたのはあの日別れた三人だった。
「ホルス……、ダン、ネリア、みんな、どうして……」
「お嬢様!」
ネリアが駆け寄ってリュディーヌを抱きしめた。背が高いリュディーヌはネリアをあやしているようになってしまった。
再び三人に会えたことが嬉しかった。
友人たちはエディットが起こしてしまった事件の後に、潮が引くようにリュディーヌの前からいなくなった。親から何か言われれば、リュディーヌは自分でもそうするしかなかっただろうと諦めた。
父も母も妹も、もうこの世にいない。
アルドワン伯爵家に最後まで仕えてくれていた三人だけが、リュディーヌの『家族』だった。
「この家で暮らすことに同意してもらえるだろうか。小さな家だが、君の家族のような者たちもここで働いてもらうことになった。三人の紹介状にもサインをしたが、雇い主は……今は僕、ということになっている」
「殿下、ホルスさんの分の紹介状はありませんでしたよ。アルドワン伯爵が持っていた領地の一部にホルスさん名義の土地があり、そこで農夫をしていらしたところに私がここに来て貰えるよう頼んだのです」
「そうだった。のんびりするはずだったところ、再び人に仕えてもらうことを頼んだのだった」
「私はここに呼ばれたことを嬉しく思っていますよ。灯台にだって上りますよ」
「シルヴェストル第一王子殿下、このような幸せをどう受け止めればよいのか分かりません……」
「とりあえず、中に入りませんか」
アルフの言葉に続くように、家に入っていった。
『小さな家』というのは、王宮に住んでいたシルヴェストル殿下の言葉なのだとリュディーヌは思った。
その家はアルドワン伯爵邸だった邸宅よりも確かに小さいが、しっかりと邸宅と呼べるものだった。
以前の領主が別宅として使っていた家で、数か月かけてあちこちを直したそうだ。
井戸も枯れてしまっていたので、新たに掘って作り上げたという。
シルヴェストル殿下が家の中を案内してくれた。
玄関ポーチの右に応接室があり、左には執務室がある。続く廊下の奥にはダイニングルームとそれに続くサロン、ダイニングルームの奥にキッチンルームがあった。
ダイニングルームの反対側にはドアが四つある。おそらく個人の部屋という感じのドアの間隔だった。たいてい玄関ポーチにある上への階段は、廊下の奥にあった。
上の階は、ドアの無い応接間のような部屋、あとは主寝室と続きの部屋、そして個室が四部屋あるという。平屋建ての横に長い離れもある。大邸宅ではないが、『小さな家』という訳でもない。
リュディーヌはずっと違和感を覚えていた。
シルヴェストル第一王子殿下のはからいで、ここでかつての信頼のおける三人の使用人とまた暮らせるようになったことは分かった。
『灯台の灯りを共に守っていくことにした』という殿下の言葉を頭の中で繰り返すと、まるで殿下が一緒に灯台を守っていくように聞こえるのだ……。
また、シルヴェストル殿下が家の中を案内してくださったことにも、違和感があった。
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