21 / 27
【21】新たな家へ
しおりを挟む
リュディーヌは久しぶりの馬車に揺られていた。
馭者をアルフが引き受けており、それほど大きくない馬車の中でシルヴェストルと二人きりだった。
シルヴェストルは何も話をしなかった。
いろいろなことを話すのは、リュディーヌが落ち着いて考えられるようになってからだと思い黙っていたのだが、それと知らないリュディーヌは馬車の中の静けさがありがたかった。
一時間ほどが経過してから、シルヴェストル殿下はぽつぽつと話をし始めた。
森の中は、小さな馬車が通れるほどの道しかなかったが、リュディーヌが灯台で暮らすようになってから、シルヴェストル殿下は森の木の枝をはらうなどの整備を命じたという。これからも道の整備は続くらしく、灯台の中で暮らさなくても森を出た最初の村の家から通えるようにすると言った。
──そんなにもあの灯台の灯りを守ることは重要なのね。
リュディーヌは、これからもしっかり勤めて行こうと思いながらも眠らないでいることに神経を集中させていた。
馬車から降りると、そこで待っていたのはあの日別れた三人だった。
「ホルス……、ダン、ネリア、みんな、どうして……」
「お嬢様!」
ネリアが駆け寄ってリュディーヌを抱きしめた。背が高いリュディーヌはネリアをあやしているようになってしまった。
再び三人に会えたことが嬉しかった。
友人たちはエディットが起こしてしまった事件の後に、潮が引くようにリュディーヌの前からいなくなった。親から何か言われれば、リュディーヌは自分でもそうするしかなかっただろうと諦めた。
父も母も妹も、もうこの世にいない。
アルドワン伯爵家に最後まで仕えてくれていた三人だけが、リュディーヌの『家族』だった。
「この家で暮らすことに同意してもらえるだろうか。小さな家だが、君の家族のような者たちもここで働いてもらうことになった。三人の紹介状にもサインをしたが、雇い主は……今は僕、ということになっている」
「殿下、ホルスさんの分の紹介状はありませんでしたよ。アルドワン伯爵が持っていた領地の一部にホルスさん名義の土地があり、そこで農夫をしていらしたところに私がここに来て貰えるよう頼んだのです」
「そうだった。のんびりするはずだったところ、再び人に仕えてもらうことを頼んだのだった」
「私はここに呼ばれたことを嬉しく思っていますよ。灯台にだって上りますよ」
「シルヴェストル第一王子殿下、このような幸せをどう受け止めればよいのか分かりません……」
「とりあえず、中に入りませんか」
アルフの言葉に続くように、家に入っていった。
『小さな家』というのは、王宮に住んでいたシルヴェストル殿下の言葉なのだとリュディーヌは思った。
その家はアルドワン伯爵邸だった邸宅よりも確かに小さいが、しっかりと邸宅と呼べるものだった。
以前の領主が別宅として使っていた家で、数か月かけてあちこちを直したそうだ。
井戸も枯れてしまっていたので、新たに掘って作り上げたという。
シルヴェストル殿下が家の中を案内してくれた。
玄関ポーチの右に応接室があり、左には執務室がある。続く廊下の奥にはダイニングルームとそれに続くサロン、ダイニングルームの奥にキッチンルームがあった。
ダイニングルームの反対側にはドアが四つある。おそらく個人の部屋という感じのドアの間隔だった。たいてい玄関ポーチにある上への階段は、廊下の奥にあった。
上の階は、ドアの無い応接間のような部屋、あとは主寝室と続きの部屋、そして個室が四部屋あるという。平屋建ての横に長い離れもある。大邸宅ではないが、『小さな家』という訳でもない。
リュディーヌはずっと違和感を覚えていた。
シルヴェストル第一王子殿下のはからいで、ここでかつての信頼のおける三人の使用人とまた暮らせるようになったことは分かった。
『灯台の灯りを共に守っていくことにした』という殿下の言葉を頭の中で繰り返すと、まるで殿下が一緒に灯台を守っていくように聞こえるのだ……。
また、シルヴェストル殿下が家の中を案内してくださったことにも、違和感があった。
馭者をアルフが引き受けており、それほど大きくない馬車の中でシルヴェストルと二人きりだった。
シルヴェストルは何も話をしなかった。
いろいろなことを話すのは、リュディーヌが落ち着いて考えられるようになってからだと思い黙っていたのだが、それと知らないリュディーヌは馬車の中の静けさがありがたかった。
一時間ほどが経過してから、シルヴェストル殿下はぽつぽつと話をし始めた。
森の中は、小さな馬車が通れるほどの道しかなかったが、リュディーヌが灯台で暮らすようになってから、シルヴェストル殿下は森の木の枝をはらうなどの整備を命じたという。これからも道の整備は続くらしく、灯台の中で暮らさなくても森を出た最初の村の家から通えるようにすると言った。
──そんなにもあの灯台の灯りを守ることは重要なのね。
リュディーヌは、これからもしっかり勤めて行こうと思いながらも眠らないでいることに神経を集中させていた。
馬車から降りると、そこで待っていたのはあの日別れた三人だった。
「ホルス……、ダン、ネリア、みんな、どうして……」
「お嬢様!」
ネリアが駆け寄ってリュディーヌを抱きしめた。背が高いリュディーヌはネリアをあやしているようになってしまった。
再び三人に会えたことが嬉しかった。
友人たちはエディットが起こしてしまった事件の後に、潮が引くようにリュディーヌの前からいなくなった。親から何か言われれば、リュディーヌは自分でもそうするしかなかっただろうと諦めた。
父も母も妹も、もうこの世にいない。
アルドワン伯爵家に最後まで仕えてくれていた三人だけが、リュディーヌの『家族』だった。
「この家で暮らすことに同意してもらえるだろうか。小さな家だが、君の家族のような者たちもここで働いてもらうことになった。三人の紹介状にもサインをしたが、雇い主は……今は僕、ということになっている」
「殿下、ホルスさんの分の紹介状はありませんでしたよ。アルドワン伯爵が持っていた領地の一部にホルスさん名義の土地があり、そこで農夫をしていらしたところに私がここに来て貰えるよう頼んだのです」
「そうだった。のんびりするはずだったところ、再び人に仕えてもらうことを頼んだのだった」
「私はここに呼ばれたことを嬉しく思っていますよ。灯台にだって上りますよ」
「シルヴェストル第一王子殿下、このような幸せをどう受け止めればよいのか分かりません……」
「とりあえず、中に入りませんか」
アルフの言葉に続くように、家に入っていった。
『小さな家』というのは、王宮に住んでいたシルヴェストル殿下の言葉なのだとリュディーヌは思った。
その家はアルドワン伯爵邸だった邸宅よりも確かに小さいが、しっかりと邸宅と呼べるものだった。
以前の領主が別宅として使っていた家で、数か月かけてあちこちを直したそうだ。
井戸も枯れてしまっていたので、新たに掘って作り上げたという。
シルヴェストル殿下が家の中を案内してくれた。
玄関ポーチの右に応接室があり、左には執務室がある。続く廊下の奥にはダイニングルームとそれに続くサロン、ダイニングルームの奥にキッチンルームがあった。
ダイニングルームの反対側にはドアが四つある。おそらく個人の部屋という感じのドアの間隔だった。たいてい玄関ポーチにある上への階段は、廊下の奥にあった。
上の階は、ドアの無い応接間のような部屋、あとは主寝室と続きの部屋、そして個室が四部屋あるという。平屋建ての横に長い離れもある。大邸宅ではないが、『小さな家』という訳でもない。
リュディーヌはずっと違和感を覚えていた。
シルヴェストル第一王子殿下のはからいで、ここでかつての信頼のおける三人の使用人とまた暮らせるようになったことは分かった。
『灯台の灯りを共に守っていくことにした』という殿下の言葉を頭の中で繰り返すと、まるで殿下が一緒に灯台を守っていくように聞こえるのだ……。
また、シルヴェストル殿下が家の中を案内してくださったことにも、違和感があった。
104
お気に入りに追加
622
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています


冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
お飾り王妃の愛と献身
石河 翠
恋愛
エスターは、お飾りの王妃だ。初夜どころか結婚式もない、王国存続の生贄のような結婚は、父親である宰相によって調えられた。国王は身分の低い平民に溺れ、公務を放棄している。
けれどエスターは白い結婚を隠しもせずに、王の代わりに執務を続けている。彼女にとって大切なものは国であり、夫の愛情など必要としていなかったのだ。
ところがある日、暗愚だが無害だった国王の独断により、隣国への侵攻が始まる。それをきっかけに国内では革命が起き……。
国のために恋を捨て、人生を捧げてきたヒロインと、王妃を密かに愛し、彼女を手に入れるために国を変えることを決意した一途なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:24963620)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる