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【13話】心読みの薬の本当の効果
しおりを挟む殿下は私の手を取って、ベッドからそっと降ろしてくださった。
私はドレスの裾を直すのもぞんざいに、呆然としながら先ほどのソファまで殿下について行く。
人払いをなさったのか、部屋の入口の扉は開いていたものの従者たちは誰もいなかった。
ただ、大きな窓の向こうの護衛の者たちは、私がこの部屋に入って来たときのままだ。
殿下が手ずからカップにお茶を注いでくださる。
白磁のティーセットではなく、バラが描かれた優美なティーセットに変わっていた。
速く打ち過ぎている私の胸の音が殿下に聞こえるのではないかと思ったが、そう思ったことが聞こえているのだと直後に気づく。
私は紅茶をひと口飲み、覚悟を決めて『心読みの薬』について話すことにした。
「……なるほど、心読みの薬か。どうやって僕の髪を手に入れたのか分からないが、それもいずれ話してもらえると思っている。それよりもまず確認したいのは、どうしてそんなことをしたのかということだ」
《そ……う、理由……を……聞き……》
お心の声が途切れ途切れになってよく聞き取れなかったが、殿下は真っ直ぐに私の目を見ている。
まるで、逃がさないとでも言うように。
この部屋に入ってから、私が声を出した言葉を追いかけるように、私の思ったことがすべて殿下に聞こえていたのなら、逃げられるはずもなかった。
もはや、きちんと声にして伝えるしか私に選択肢はない。
「……私は、この婚約が殿下のお心に反したものなのだと思っておりました。殿下が『ご配慮王子』と揶揄を含んだ呼ばれ方をされていらっしゃるように、殿下のご配慮により本当にお好きなご令嬢を諦めて……そのご令嬢より何もかもが格下の私を婚約者になさったのだと思い、浅ましくも、殿下のお心を知りたくなったのです。本当のお心を知った上で、殿下にとってこの不本意な婚約を解消してもらえたらと、そう思ってのことでした」
それが本当なら、婚約を解消し殿下が真にお好きなかた……リラローゼ・ケートマン公爵令嬢と……婚約を結び直すことができるようにと……。
「……リラ、という部分しか君の心の声が聞き取れなかったが、もし、君の言うところの本当にお好きなかたというのがケートマン公爵令嬢のことなら、それはまったくの誤解だ。そんな誤解をしていたのか……。いや、僕がはっきり言葉にしてこなかったせいだな……すべては僕が悪かった」
《……じぶ……きもち……う……まく……》
私のほうも、ほとんど殿下のお心の言葉が聞き取れなくなっていた。
母は、半日はこの状態が続くと言っていたのに、どういうことだろう。
「先ほどまで、追いかけるようにはっきり聞こえていた君の心の声が、もう聞こえなくなってしまった。僕の心の声はどうだろうか」
殿下の言葉の後に少し待ってみても、もう何も聞こえなかった。
「私にも、殿下のお心の声は聞こえなくなりました」
「そうか。それならちょうどいいな。煩わしいこともなく、しっかり話し合えるというものだ」
「……本当に、このようなことを……申し訳ございませんでした。お詫びをして、許されることではないと思っております」
「いいんだ。このような機会があったおかげで、僕の気持ちを何も伝えてこなかったことに気づいたのだから」
「殿下……」
「どこから話せばよいのか迷うが……」
そう殿下はおっしゃってゆっくりと話し始めた声に、私はじっと聞き入った。
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