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【7】レイフの本音が露呈する

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「私はたまたま居合わせてしまったというところだが、ブルネル公爵から話をまとめる役を頼まれたので、君たちの話を聞こう。ブルネル公爵は今、すべての門を封鎖して招待客が東の馬車門からしか帰れないように手配をしに向かった。これなら入口で招待状送付の控えと、照らし合わせてから帰ってもらうことができる。もっとも、これまでに少なくない招待客が帰っているだろうから、そちらを後で照合する必要はある。パーティは中止とはしないことにしたそうだ。下手にパーティを中止にすると騒ぎになってしまうからな。本来の終了予定時間まであと四十分ほどのようだから」
「レイフ、何故おまえの婚約者の行方が分からないのか、話すのだ」

レイフの父オークランス公爵が、冷たい声でそう言った。

「ぼ、僕はマリールイスと挨拶回りをしていました。それで、カタリーナ嬢やグスタフなど友人たちが集まっていたので……少し待っていてとマリールイスに言って、ホールのすぐ近くのソファのところで別れ、僕はカタリーナ嬢たちと少し話をしていました。話が弾んで、少々戻るのに時間がかかり……」
「そ、そうよ、レイフはマリールイスさんに待てと言ったのだから、きちんと待つべきだったのではないかしら……。マリールイスさんも友人を見つけて、連れだってどこかへ行ったのかもしれないわ!」

嘘の言い訳を並べたレイフと、そのレイフを庇うようなことを言ったカタリーナ。
『少し』話をしたというような、短い時間ではなかったとグスタフは思った。
レイフはソファにどっかりと腰を下ろし、酒を飲みながら長い時間そこに居たのだ。
二人に幻滅したグスタフは、同調するようなことを何も言わなかった。
嘘の片棒を担げば、きっと後からその罰が下ると思ったのだ。



そしてブルネル公爵が戻って来た。
複数の使用人たちと、マリールイスの兄であるエーギルを連れている。

「まずは話を聞こう」

ブルネル公爵の言葉に、レイフはもう何のごまかしも利かないのだと悟った。
先ほどエーギルに『飲み物を四杯提供した』と答えた給仕の女性が、同じことを話した。
別の男性の給仕は、マリールイスが何度か令息たちに声を掛けられていたが、毅然と断っていたと話した。
また、会場をゆったりと見て回っていたという警備に当たっていたブルネル公爵家の騎士は、重要と思われる証言をした。

「壁際の応接ブースとなっているところのつい立ての前で、当該令嬢と思われる女性がおりました。顔色が悪いように見え声を掛けようとしたのですが、その時、私の横でお歳を召した男性が杖を落としてよろけ、そちらを優先してソファに案内しました。すぐに戻ったのですが、もう令嬢はおりませんでした」

「つい立ての前にマリールイスがいた? まさか、話を、聞かれたのか……」

レイフは焦るあまり、つい口を滑らせてしまった。
恋人だと思っていたカタリーナは自分ではなく家を選び、公爵家のレイフより格下の侯爵家のグスタフを婚約者とした。
自分は父によって、カタリーナに何もかもが劣るマリールイスと家のために婚約させられた。
そんな鬱屈した思いから、マリールイスをぞんざいに扱ってやっているのだと友人たちの前で吹聴したのだ。
あれを、マリールイス本人が聞いてしまったのだとしたら……。

「レイフ、話とはどういうことだ?」

父であるオークランス公爵に促されても、レイフは答えることができなかった。
すると、これまで黙っていたグスタフが口を開いた。

「マリールイス嬢の兄であるエーギル殿の前で、このようなことを申すのは本当に心苦しいのですが、レイフ様はマリールイス嬢との婚約は、優れた技術者である彼女のもう一人の兄ヨーアン・エングダール殿を他国に引き抜かれないためのものだったと、そう話していました。そのようにオークランス公爵に厳命されていたと。また、レイフ様は、マリールイス嬢を、わざとここで待っていろと言って、バカ正直にどれくらい待っているか見ものだと、放置してきたと言いました。つい立ての辺りに彼女がいたのなら、それらを聞いたのでしょう。レイフ様だけではなく、その場に居た我々の誰もが最低でした……」

「レイフ!」

レイフの胸倉を掴もうとしたオークランス公爵とレイフの間に、グスタフが割って入った。

「レイフ様を庇う訳ではございませんが、レイフ様にマリールイス嬢との婚約はヨーアン・エングダール殿をオークランス領に留め置くためだとおっしゃったのは公爵閣下ではございませんか。公爵閣下の権謀術数なお考えがレイフ様を追い詰めたのではないでしょうか。また、フレドリクソン公爵閣下、ヨーアン・エングダール殿を我が国に留め置くようにという密やかな命をオークランス公爵閣下に出したのは、王家であると伺いました。他国から引き抜きの動きもあったとか。何故、優れた技術を持つ彼に、その技術に見合った立場と報酬を与えることを選ばず、公爵令息にすぎないレイフ様に、その妹を娶る形で押し付けたのでしょうか。そのせいで、僕らはみんな、望まない婚約を……」

グスタフは格上である王弟フレドリクソン公爵やオークランス公爵に対し、あり得ないほどの失礼な言葉をぶつけた。
だが、『権謀術数な考え』と言われたオークランス公爵も、王家は他国から引き抜かれそうな技術者に対し、それに見合った立場と報酬を与えなかったと言われたフレドリクソン公爵も、そのとおりだと思うほかなかった。
大人の損得勘定から一人の令嬢が婚約者の言葉でそれを知ってしまった。
その後に消えてしまったことは、令嬢がショックを受けたことと関連しているかは分からないが、そうした事実の前に公爵たちは呆然としていた。


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