吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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夜、団地、昼、道ばた、元教団施設

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 夜、東野勝団地

 不思議なことに、ゾンビは、住宅地を好む傾向があった。自分のでも、他人のでも、住宅地に入り込んで住み着いた。六十棟ほどある東野勝団地にもたくさんのゾンビが入り込んでいた。ゾンビ達は、染みついた脳みそを使いドアを開け、あるいはベランダの窓から、侵入し、部屋の片隅でガス肥大と放出を繰り返しながら、近くに人間が現れるまで部屋の中でじっとしていた。
「ひどい臭いだねぇ」
 山本権造は、団地内のゾンビの駆除を地道に行っていた。部屋に入り、ゾンビの首の骨を鉄パイプでへし折り、へし折ったゾンビを、ベランダから外へ落とす。ガス肥大したゾンビは、ゆっくりと下に落ちていく。
 落としたゾンビがたまったところで、下におり、ゾンビをビニール袋につめ、大八車に乗せ、ゾンビ捨て場に持っていく。吸血鬼である権造が疲れることはないが、繰り返し行う作業に少々飽きていた。
 そんな作業を繰り返していると、奇妙なゾンビを見つけた。

 団地の一室で、壁の方向を向いて口を開けているゾンビがいた。長い髪にワンピース、ガス肥大した女のゾンビが、かすれた声を出していた。
 山本権造は、背後から鉄パイプを振るって女のゾンビの首を折った。
「歌っていたのか」
 権造は首をかしげた。



 昼、道ばた

「何か最近多いな」
 松山格太郎はつぶやいた。その足元には頭を鉄パイプで殴られ動かなくなったゾンビがあった。
 松山格太郎、竹岡新太、市原道夫の三人は近隣に現れたゾンビの駆除を行っていた。
「この間、東野勝団地のゾンビが大量に出てきたから、その余波じゃないか」
 竹岡新太がいった。
「そういや、そんなことあったらしいな。市役所の人だっけ、家に立てこもったんだろ」
「三百体ぐらい、いたって話だ」
「よく助かったな」
「救助隊の人たちが、がんばったらしいぜ」
「へえー」
「このゾンビ、この辺りの人間じゃないですね」
 市原道夫は動かなくなったゾンビのズボンのポケットに入っていた財布から取り出した運転免許証を見ながらいった。
「どこの人間だ」
「足原井市の人間ですね」
「結構遠いな」 
「風に乗って飛んできたんじゃないか」
 ガス肥大化したゾンビは、強風に煽られ、流されるケースがある。
「風なんか吹いてたか」
「どうだったかな、ここ最近は、ずっと晴れてたんじゃないか」
「大分前に飛んできたものかも知れないな」
「昨日倒したゾンビは、棚裏橋で、その前は先松でした」
「世界中ゾンビだらけだからな、地元のゾンビだけってわけには、いかんだろう」
 竹岡新太がいった。
「身元を全部調べたわけじゃ無いんでわかりませんが、ちょっと気になりますね」
「そうだな、遠くの方から、集まってきていたらやっかいだ。市役所の方に連絡入れておくか。何かわかるかも知れない」
 松山格太郎はいった。



 元教団施設

「では、みなさんいきますよー」
 地下の教団施設で元合唱団の川山が、声をかけると、鉄網の中にいるゾンビ達がうなり声を上げた。その様子を北浜がカメラに収めていた。
 古いカセットテープレコーダーから、昔懐かしい童謡が流れてくる。両脇にスピーカーがついているタイプのもので、昔市民合唱団で使っていたカセットテープレコーダーだそうだ。レコーダー上部に野勝市民合唱団備品と白地のシールに赤のマジックで書かれている。
「はーるのーおがーわーはー」
 川山の歌声に合わせて、ゾンビ達はうなり声を上げた。
 歌声とまで言わないが、音楽に合わせようと、声を上げているようにみえた。
「さらーさらーいくーよ」
 ゾンビ達の目には知性のようなものが、ときどき持ち上がっているような気がした。



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