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昼、商店街とお金、道ばた
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商店街
「父さん、また市役所の人たちが来たの」
会長室に三十代の男が入ってきた。会長の川崎五郎の息子、川崎春宗である。
「ああ、野勝市議員団の人たちだよ。何度目かね。食糧を市民に寄付してくれとかなんとか、まいったよ。来るたびに人数が増えているんだ。お願いなのか脅しなのか、わからないよ」
川崎五郎は軽く笑った。
「それで、どうしたの」
「断ったよ」
「少し分けてあげたら」
「それはないな。商店街のみんなが命がけで手に入れたものだ。元手もかかっている。ただであげるわけにもいけないよ。お金をちゃんと払ってもらわないとね」
「恨まれるのも面倒だよ。何かしてくるかわからないだろ」
「ゾンビより人間が恐いっていうのかい。確かにそういうのはあるが、あの連中は恐くないね。自分の手を汚してない連中だ。きっときれい事ばかり言って、何もしないんだろうね。市議会なんだから、市民から金を集めれば良い。それで食糧を買えば良い。あるいは何かを売って金を作れば良い。いくらでもやりようがあるのに、いい人ぶりたいんだろう。できもしないことをいって、自分の手足を縛るような連中さ、なにもできんよ」
「でも、お金なんかたくさんあっても仕方ないんじゃないの。まぁ、それなりに必要だろうけどさ」
正直言って、この状況下で、なぜ金が使えるのか。春宗はよくわからなかった。
「今は、そうだろうな。金にそれほど価値はない。だけど、この状況下が、いつまでも続くとは思えない。きっと誰かえらい人が、ゾンビを何とかしてくれる。その時になったら、金が力を持つようになる。そう思っている人間が、今の世の中少なからずいる。だから金が価値を持つんだ。期待だよ。この紙切れに期待している人間がいる限り、金は価値を持つ」
「ふーん、そう言うもんなのか」
春宗は首をかしげた。
道ばた
霧島力也は自分の脇腹をなでた。市の議員団として食糧確保のため商店街の会長に協力を求めにいった。その帰り道である。ゾンビに右の脇腹を噛まれてしまったのだ。用心に用心を重ね、厚手の服を着て、ゴム手袋をつけ、フルフェイスのヘルメット、防刃チョッキ、漁師が使うような、胸の辺りまである胴付き長靴を着用していた。それが徒となってしまった。帰り道に用を足したくなり、議員団から離れた物陰に行き、用を足すため、胴付き長靴の上に着けていた防刃チョッキを外して、胴付き長靴をおろし、いざ用を足そうとしたとき、背後から、草むらに潜んでいたゾンビに襲われた。逃げようとすると、足の膝辺りまで下ろしていた胴付き長靴が絡まりこけた。ゾンビが背後からのしかかってきた。ガス肥大化した老人のようだった。霧島は芋虫のように背後から襲いかかるゾンビから逃げようとした。両足で何度か蹴りつけ、這々の体で逃げのびたときには、右の脇腹にかすかにゾンビの噛み傷があった。おそらく、格闘している際に服がめくれ上がり、そこを軽く噛みつかれたのだろうと、霧島は考えた。ゾンビは、電柱と民家の壁の間にみっちり挟まって身動きがとれなくなっていた。
足に巻き付いた胴付き長靴を元の位置に戻し、防刃チョッキを着けなおし、そのことは、誰にもいわず議員団に戻った。
それから、家族に話そうとなんども思ったが、なんとなく、言いそびれた。
そんなに強く噛まれてもいないし、血だってほとんど出ていない。体の不調もない。傷口をすぐ水で洗ったのが効いたのだろう。霧島はそう考えた。
「父さん、また市役所の人たちが来たの」
会長室に三十代の男が入ってきた。会長の川崎五郎の息子、川崎春宗である。
「ああ、野勝市議員団の人たちだよ。何度目かね。食糧を市民に寄付してくれとかなんとか、まいったよ。来るたびに人数が増えているんだ。お願いなのか脅しなのか、わからないよ」
川崎五郎は軽く笑った。
「それで、どうしたの」
「断ったよ」
「少し分けてあげたら」
「それはないな。商店街のみんなが命がけで手に入れたものだ。元手もかかっている。ただであげるわけにもいけないよ。お金をちゃんと払ってもらわないとね」
「恨まれるのも面倒だよ。何かしてくるかわからないだろ」
「ゾンビより人間が恐いっていうのかい。確かにそういうのはあるが、あの連中は恐くないね。自分の手を汚してない連中だ。きっときれい事ばかり言って、何もしないんだろうね。市議会なんだから、市民から金を集めれば良い。それで食糧を買えば良い。あるいは何かを売って金を作れば良い。いくらでもやりようがあるのに、いい人ぶりたいんだろう。できもしないことをいって、自分の手足を縛るような連中さ、なにもできんよ」
「でも、お金なんかたくさんあっても仕方ないんじゃないの。まぁ、それなりに必要だろうけどさ」
正直言って、この状況下で、なぜ金が使えるのか。春宗はよくわからなかった。
「今は、そうだろうな。金にそれほど価値はない。だけど、この状況下が、いつまでも続くとは思えない。きっと誰かえらい人が、ゾンビを何とかしてくれる。その時になったら、金が力を持つようになる。そう思っている人間が、今の世の中少なからずいる。だから金が価値を持つんだ。期待だよ。この紙切れに期待している人間がいる限り、金は価値を持つ」
「ふーん、そう言うもんなのか」
春宗は首をかしげた。
道ばた
霧島力也は自分の脇腹をなでた。市の議員団として食糧確保のため商店街の会長に協力を求めにいった。その帰り道である。ゾンビに右の脇腹を噛まれてしまったのだ。用心に用心を重ね、厚手の服を着て、ゴム手袋をつけ、フルフェイスのヘルメット、防刃チョッキ、漁師が使うような、胸の辺りまである胴付き長靴を着用していた。それが徒となってしまった。帰り道に用を足したくなり、議員団から離れた物陰に行き、用を足すため、胴付き長靴の上に着けていた防刃チョッキを外して、胴付き長靴をおろし、いざ用を足そうとしたとき、背後から、草むらに潜んでいたゾンビに襲われた。逃げようとすると、足の膝辺りまで下ろしていた胴付き長靴が絡まりこけた。ゾンビが背後からのしかかってきた。ガス肥大化した老人のようだった。霧島は芋虫のように背後から襲いかかるゾンビから逃げようとした。両足で何度か蹴りつけ、這々の体で逃げのびたときには、右の脇腹にかすかにゾンビの噛み傷があった。おそらく、格闘している際に服がめくれ上がり、そこを軽く噛みつかれたのだろうと、霧島は考えた。ゾンビは、電柱と民家の壁の間にみっちり挟まって身動きがとれなくなっていた。
足に巻き付いた胴付き長靴を元の位置に戻し、防刃チョッキを着けなおし、そのことは、誰にもいわず議員団に戻った。
それから、家族に話そうとなんども思ったが、なんとなく、言いそびれた。
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