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夜、膝
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吸血鬼
梅柄台辺りに来ると、ゾンビがずいぶん集まっていることがわかった。
「大八車で何とかなる量じゃないな」
山本権造は大八車を駐車スペースに置いた。
鉄パイプ片手に屋根の上に飛び乗り、人の気配を探った。三波町のコンビニに複数の人間の気配がした。そこからしばらく行った先の民家にも人の気配がした。その民家を中心に、ゾンビが集まっていた。
「家に人間が立てこもっているのか。あっちのコンビニにいる人間は何だ。車とコンビニに分かれて二十人程度いるのか。あっちは大丈夫そうだな。ゾンビの集まっているところにいってみるか」
権造は、堀田達がいる民家の方に向かった。
狭い路地に、ゾンビが数体揺れ動いていた。権造に気がついたゾンビが、権造の方を見た。ゾンビは困惑したような空気を出した。ゾンビは吸血鬼を襲ってこない。少なくとも権造自体は襲われたことはなかった。ゾンビは迷うようなそぶりを見せるだけだ。
権造は近づき、鉄パイプを振るった。厚手のゴムが巻かれた部分で、なでるようにゾンビの首をへし折る。歩きながら近づき、鉄パイプを振るった。
「やりすぎると、まずいよな」
死体を前に悩んだ。ゾンビが何体いたところで、権造にとって、何の脅威にもならない。問題は、大量のゾンビの死体が残る不自然さだ。道中、別の人間がやった頭がつぶれたゾンビの遺体があったが、追加で何百体もの、ゾンビの死体が増えれば、これは誰がやったのかと、怪しむだろう。それは望ましくはなかった。とはいえだ。
「助けたいよな」
貴重な生きている人間だ。数人とはいえ、見殺しにするのは、もったいなかった。しかも、このゾンビの数だ。放置しておけば、もっと大勢の犠牲が出る。
死体を残さず、ゾンビを始末する方法はないものだろうか。
考えながらも、権造は、鉄パイプでゾンビの首をたたき折った。
民家
ガスが抜けたゾンビがずるりと屋根にあいた穴から落ちてきた。屋根裏の下に敷き詰められている断熱材の上にゾンビは尻餅をつくような姿勢で着地した。
たるんだ皮膚をぶらさげ、立ち上がろうとしたところを、輪子が矢で頭を射ぬいた。ゾンビはひっくり返るような形で倒れた。
輪子はコンパウンドボウを斜めに傾け矢を放った。屋根裏が狭く弓が当たりそうだったからだ。
しばらくすると、屋根にあいた穴に別の太ったゾンビが落ちてきたが、ガス膨張した腹がつっかえ身動きがとれないようだった。
「またなの」
輪子は弓を下ろした。
ゾンビ
ヨシノリ、が、ゾンビになって三年になる。もはや自分の名前も正確には覚えていない。それ以外のことは、噛みつくこと、それぐらいしか頭にはなかった。今も、そのことで頭がいっぱいだった。ただ、その日は、もう少しいろんな事が理解できた。屋根の上、屋根の穴、そこに、人、人が、いる。
ヨシノリの体は、ずいぶん軽かった。飛ぼうと思えば、屋根ぐらいの高さなら飛ぶことができる。それを知っていた。ヨシノリは、屋根に向かって飛ぼうと、膝を曲げた。前に倒れた。ヨシノリは、自分がなぜ倒れたのかわからなかった。よれよれと立ち上がり、再び上を見た。
膝に力を入れた。
また倒れた。
立ち上がり、倒れる。ヨシノリは、それを繰り返した。
ヨシノリの膝は、両方ともへこんでいた。近くの人がいた。頭がはげ上がった男がいた。山本権造である。権造が鉄パイプを打ち込み膝を壊したのだ。
権造は、民家の近くで、ゾンビの中をゆっくりと歩いていた。すれ違うゾンビは、あれ? という感じで振り返るが、しばらくすると元の行動に戻った。権造はゾンビの中を歩きながら、ゾンビの膝を鉄パイプで殴っていた。
無数の首の骨を折ったゾンビが倒れていたら、誰がやったのだと、疑問に思われてしまう。それは、吸血鬼である権造として避けたいところであった。なら、目立たない程度に痛めつけてしまえば良い。権造は、そう考えた。そこで、膝だ。
ガス肥大したゾンビは、飛び上がって建物の窓や屋根から侵入しようとする。それを防ぐために、足を曲げ飛び上がる動作をできないようにすれば良い。すなわち、膝だ。膝を鉄パイプで壊せば、ガス肥大したゾンビは飛び上がることができなくなる。そうなれば、建物に立てこもっている人間の安全性は増す。
権造は、ゾンビの間を歩きながら、一晩中、ゾンビの膝を打ち続けた。
梅柄台辺りに来ると、ゾンビがずいぶん集まっていることがわかった。
「大八車で何とかなる量じゃないな」
山本権造は大八車を駐車スペースに置いた。
鉄パイプ片手に屋根の上に飛び乗り、人の気配を探った。三波町のコンビニに複数の人間の気配がした。そこからしばらく行った先の民家にも人の気配がした。その民家を中心に、ゾンビが集まっていた。
「家に人間が立てこもっているのか。あっちのコンビニにいる人間は何だ。車とコンビニに分かれて二十人程度いるのか。あっちは大丈夫そうだな。ゾンビの集まっているところにいってみるか」
権造は、堀田達がいる民家の方に向かった。
狭い路地に、ゾンビが数体揺れ動いていた。権造に気がついたゾンビが、権造の方を見た。ゾンビは困惑したような空気を出した。ゾンビは吸血鬼を襲ってこない。少なくとも権造自体は襲われたことはなかった。ゾンビは迷うようなそぶりを見せるだけだ。
権造は近づき、鉄パイプを振るった。厚手のゴムが巻かれた部分で、なでるようにゾンビの首をへし折る。歩きながら近づき、鉄パイプを振るった。
「やりすぎると、まずいよな」
死体を前に悩んだ。ゾンビが何体いたところで、権造にとって、何の脅威にもならない。問題は、大量のゾンビの死体が残る不自然さだ。道中、別の人間がやった頭がつぶれたゾンビの遺体があったが、追加で何百体もの、ゾンビの死体が増えれば、これは誰がやったのかと、怪しむだろう。それは望ましくはなかった。とはいえだ。
「助けたいよな」
貴重な生きている人間だ。数人とはいえ、見殺しにするのは、もったいなかった。しかも、このゾンビの数だ。放置しておけば、もっと大勢の犠牲が出る。
死体を残さず、ゾンビを始末する方法はないものだろうか。
考えながらも、権造は、鉄パイプでゾンビの首をたたき折った。
民家
ガスが抜けたゾンビがずるりと屋根にあいた穴から落ちてきた。屋根裏の下に敷き詰められている断熱材の上にゾンビは尻餅をつくような姿勢で着地した。
たるんだ皮膚をぶらさげ、立ち上がろうとしたところを、輪子が矢で頭を射ぬいた。ゾンビはひっくり返るような形で倒れた。
輪子はコンパウンドボウを斜めに傾け矢を放った。屋根裏が狭く弓が当たりそうだったからだ。
しばらくすると、屋根にあいた穴に別の太ったゾンビが落ちてきたが、ガス膨張した腹がつっかえ身動きがとれないようだった。
「またなの」
輪子は弓を下ろした。
ゾンビ
ヨシノリ、が、ゾンビになって三年になる。もはや自分の名前も正確には覚えていない。それ以外のことは、噛みつくこと、それぐらいしか頭にはなかった。今も、そのことで頭がいっぱいだった。ただ、その日は、もう少しいろんな事が理解できた。屋根の上、屋根の穴、そこに、人、人が、いる。
ヨシノリの体は、ずいぶん軽かった。飛ぼうと思えば、屋根ぐらいの高さなら飛ぶことができる。それを知っていた。ヨシノリは、屋根に向かって飛ぼうと、膝を曲げた。前に倒れた。ヨシノリは、自分がなぜ倒れたのかわからなかった。よれよれと立ち上がり、再び上を見た。
膝に力を入れた。
また倒れた。
立ち上がり、倒れる。ヨシノリは、それを繰り返した。
ヨシノリの膝は、両方ともへこんでいた。近くの人がいた。頭がはげ上がった男がいた。山本権造である。権造が鉄パイプを打ち込み膝を壊したのだ。
権造は、民家の近くで、ゾンビの中をゆっくりと歩いていた。すれ違うゾンビは、あれ? という感じで振り返るが、しばらくすると元の行動に戻った。権造はゾンビの中を歩きながら、ゾンビの膝を鉄パイプで殴っていた。
無数の首の骨を折ったゾンビが倒れていたら、誰がやったのだと、疑問に思われてしまう。それは、吸血鬼である権造として避けたいところであった。なら、目立たない程度に痛めつけてしまえば良い。権造は、そう考えた。そこで、膝だ。
ガス肥大したゾンビは、飛び上がって建物の窓や屋根から侵入しようとする。それを防ぐために、足を曲げ飛び上がる動作をできないようにすれば良い。すなわち、膝だ。膝を鉄パイプで壊せば、ガス肥大したゾンビは飛び上がることができなくなる。そうなれば、建物に立てこもっている人間の安全性は増す。
権造は、ゾンビの間を歩きながら、一晩中、ゾンビの膝を打ち続けた。
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