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昼、救助隊、民家の攻防戦4
しおりを挟む救助隊
身長一九〇センチ、体重八十五キロ、最近の食糧事情のせいですっかり痩せてしまったが、昔は百キロあった。小久保直樹は交通課の警官である。今の自分の地位がなんなのか、迷う部分もあるのだが、やめた記憶もやめさせられた記憶もないので、とりあえず警察官であるという認識を持っていた。
太陽光パネルを取りに行った六人がゾンビに囲まれ身動きがとれなくなったそうで、その救助の指揮を小久保は頼まれた。小久保は快く引き受けた。他の人間にも募集し、小久保を含め二十人が選ばれた。
道幅が狭く、事故車両等が放置されており、車による救出は難しいと判断され、救出先の民家から、一キロほど離れたコンビニに車両を待機させ、そこを拠点に、ゾンビを排除しながらの救出を行うことにした。
廃墟と化したコンビニの駐車場に、二台の車を止め、屋根にくくりつけた竹棒を仲間に渡した。
竹棒は、三メートル前後の長さの竹の先端部分に、二十センチほどの長さの円筒状のアルミ製の金属を巻き付けた武器である。竹のしなりを利用して上から振りかぶって殴る。これで人の頭ぐらいの固さなら簡単に割ることができた。
竹は、市所有の竹林があるため、いくらでもとることができる。これを四十本ほど、車の屋根にくくりつけて運んだ。
小久保は、フルフェイスのヘルメットをかぶり、厚手の服に手袋、革ジャンを着て、首筋を守るためにネックウォーマーをつけ、靴は足首まである紐登山靴を履いている。隙間になりそうな箇所はガム手を貼り付けて塞いだ。仲間も似たようなかっこうだった。
ゾンビのかみつきは、そこまで警戒すべきものではない。それなりの装備を調えれば、ゾンビの歯が皮膚を傷つける可能性は低い。
かみつきよりも、警戒すべきは、火である。火がつくとゾンビはやっかいになる。燃えて抱きついてくるし、ガスで膨張したゾンビが至近距離で爆発すれば、どんな装備を身につけていようと、死んでしまう。そのため、竹にアルミ製の筒をつけた竹棒を武器にしている。鉄と違いアルミだと火花はでにくい。
次に警戒すべきは、腕力である。
生きている人間とゾンビで腕力の違いは、あまりない。普通に人間レベルの力を発揮する。ゾンビに掴まれ押し倒される。押し倒され噛みつかれたら、そのうちどこか、服がめくれ皮膚に噛みつかれることになる。
また、ゾンビは一度人間を掴むと、容易には離してくれないため、複数のゾンビに掴まれ、のしかかられ圧死するケースもある。ゾンビに首を絞められ殺された場合もある。そのため、複数のゾンビに囲まれないことが重要になってくる。
拠点のコンビニに十一人残し、九人で向かうことにした。
横並びに三人並び、その後に、二人両脇に配置し、荷持ちを真ん中に一人、後に三人、近くに来たゾンビを、アルミが巻かれた竹棒でひたすら殴り、倒しては引き返し、交代交代戦い、ゾンビを減らしながら救助者のいる民家にたどり着くつもりだった。
この作戦を提案したとき、署長と副署長は難色を示した。あまりにも脳筋すぎると、だが、小久保は、火がつくような状況でない限り、ゾンビが脅威だとは思っていなかった。むしろ、火がつく要素が多い建物に立てこもっている方が危険だと思っていた。他に有効な作戦を誰も思いつかなかったため、しぶしぶだが受け入れられた。
「いきますか」
小久保は竹棒を手に言った。
民家
窓と雨戸を開け、ベランダの柵越しに外を見ると、道路には、あふれかえらんばかりのゾンビ達がいた。庭にも丸々と太ったゾンビがうろつき、輪子が射殺したゾンビが何体か倒れていた。屋根の上では、ゾンビが歩く音が相変わらずしている。
「よし、いくぞ」
堀田はベランダに出た。フルフェイスのヘルメットをかぶり、厚手の服に手袋、手にはアルミの鍋ぶたとアルミ製の無反動ハンマーを持っていた。無反動ハンマーは、打撃の瞬間、ハンマーの中のディスクが移動することによって、効率よく力を伝えることができ、反動も減らせる。
野口は、堀田と同じような服装で、アルミ製のバールを持った。
堀田と野口はベランダの左右に移動した。その後を、脚立を持った作業員の栗山と道明寺がベランダに入り、脚立を立てた。
栗山が、脚立を登り、ベランダの屋根の波板を壊す。
その音と人間の姿に気がついたゾンビが、ぞろりと、ベランダに向かってくる。
「来たぞ」
道路にいたゾンビが、塀を乗り越えてくる。二メートルもない塀だ。ガスがたまったゾンビは軽々と乗り越えてくる。庭に生えた樹木をへし折りながら、ベランダに向かってくる。ベランダを支える鉄骨にゾンビが飛びつく、ガスが充満しきったゾンビはそのまま飛び上がり、ベランダの柵を掴んでくる。堀田は、その指にハンマーを振るう。指の骨が折れ、ずるりと手が離れる。次々と飛びついてくる。
「おーい、壊したぞ」
栗山がベランダの屋根の波板を一部剥がした。
輪子がコンパウンドボウを手に脚立を登る。赤いジャージ姿で、ヘルメットもかぶっていない軽装である。
脚立の前に堀田と野口が立つ。
ベランダに飛びついてくるゾンビをバールで叩き、ハンマーで殴りつけた。
輪子が脚立を登ると、屋根が見えた。屋根の上には太陽光パネルがあり、その太陽光パネルの上を、太ったゾンビが飛び跳ねていた。
「なに遊んでのよ」
輪子が弓矢で狙いを付けると。ゾンビは下を見た。輪子と目が合った。
矢を放つ。
放った瞬間、ゾンビは足を滑らせた。矢は外れた。ゾンビは、そのまま太陽光パネルの上に後頭部を打ち付けた。ガラスの割れるような音がした。輪子の心臓は縮み上がった。
幸い、電流が漏れるようなこともなく、ゾンビは太陽光パネルの上で立ち上がろうとした。輪子は矢をつがえた。
狙う。
放つ。
矢は、ゾンビの左の頬を抜け脳天まで突き刺さった。
ゾンビは太陽光パネルの上を滑りおち、屋根からも落ち、ベランダの波板を転がり落ち、庭に落ちていった。
「よし、撤収だ!」
堀田がゾンビが落ちたのを確認して言った。
輪子は脚立を降り、部屋に入った。
堀田と野口も、ゾンビと戦いながら、部屋の中に入り、雨戸を閉めた。
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