吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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夜と昼、民家の防衛戦3

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 田島浩二は自分という存在を、うまく認識できなかった。時々走る断片的な記憶と外部の情報、自分という自由意思がうまく認識できなかった。自分の周りには同じようなものがあった。それは、どこかつながりがあるような気がした。時々発生する衝動、それが、何なのかわからないまま、ただ体が勝手に動き、意識がそれにつられていくようだった。
 人、いる。
 肉、噛む。
 今、田島浩二の頭の中には、そんな言葉が広がっていた。それが自分の意思だとは思えなかったが、それ以外のことを考えることは困難だった。
 時々入っている外部の情報によると、自分が両手を挙げていること、自分は何度もジャンプをしていること、自分はとても高く飛べること、ベランダに向かってジャンプをしていること、ベランダの先の窓に隙間が空いていて、そこに人が。
「いーるー」
 矢が放たれた。その矢は田島浩二の額に刺さり、田島浩二の意識は消えた。

 弓を下ろし姫路輪子は息を吐いた。
 暗闇の中、月明かりを頼りに、時々ベランダに登ってくるゾンビを矢でいって殺していた。ベランダ側の窓にも、雨戸は、あるが、壊そうと思えば人の力で壊せる。張り付かれないように矢で射ころしていた。
「全然減らないわね」
 夜になってもゾンビの数は減らず、増えている感じすらした。
「下はもっとひどい」
 冷えた干し芋を囓りながら、堀田はいった。下の階からは雨戸を叩く音がしていた。ベランダにゾンビが来ると言うことは、庭にはもっとたくさんのゾンビがいると言うことだ。
「大丈夫なの」
「まだ大丈夫だ。雨戸はいずれ破られるだろうが、食器棚でふたをしている。そう簡単には入れない」 
「うるさくて眠れないわ」 
 交代交代で休んではいるが、疲労は蓄積していた。
「そのうち慣れるだろ」
「慣れるかしら」
 雨戸を叩く音とゾンビのうなり声がした。その中に、何を言っているのかわからないが、ぺちゃぺちゃと人の話し声のようなものが混じっていた。

 
「全然眠れねぇ」
 堀田は疲れた顔でいった。
 朝になった。
 交代交代で休憩をしているが、ゾンビのうなり声と出す音でろくに眠れなかった。里山は頭から布団をかぶって眠っている。
「でも、まぁ、何とかしのげそうだな。雨戸も、まだ持ちそうだし」
 野口は比較的に元気そうな顔をしていた。消防士と言うこともあり、仮眠をとったり、急に起こされることにも慣れていた。
「風呂場の格子がちょっとやばいぜ。ひん曲がっている。時々窓を開けてゾンビどもを突っついてはいるが、あそこはもうだめだな」
「じゃあ、完全に板で閉めちまうか」
「その方が良い。入られたとしても、風呂場のドアと洗面所のドアがあるからな」
 窓を破られてもゾンビが進入しないように、板である程度ふさいでいる。 
「暗くなっちまうが、雨戸のない窓は、もう全部、板で閉じた方がいいんじゃないか」
「そうだな」
「板は余っているの?」
 姫路輪子が聞いた。
「いや、ちょっと、きびしいかな。ベットや家具を解体して使っているけど、まぁ、足りるんじゃないか」
「押し入れの板とか、切り出して使えるんじゃないか。ちょっとしんどいけど」
「そうだな、足りなくなったらそうしてみよう」
「家の持ち主に後で怒られそうね」
「謝れば済む話さ」
「そうね」
「それで俺たちの救出作戦の方はどうなっているんだ。何か進展はあったのか」
「救出部隊を編成してくれるそうだ。拠点を作りながら、徐々に脱出ルートを作っていく予定だそうだ」
「道路は厳しいから、民家を通っていくのかな」
「どうだろうな、民家は民家で危ないんだよな。不意打ちを食らうからな。奴ら上から来るんだよ。フロム・ソフトウェアのゲームみたいによ」
 堀田は何かに、ぶら下がっているようなジェスチャーをした。
「犠牲が出るような救出作戦は、やめてほしいわね」
「その辺は、署長はわかっているさ。あの人は現実主義者だよ」
「電線を伝ってくれば良いじゃないか」
 作業員の栗山が言った。
「好きだねそれ」
「一番安全だろ」
「まぁ、どうしようもなくなったらな」
「びびってやがるな」
 笑った。
「うん?」
 野口が上を見た。 
「どうした?」
「いや、何か音がしたような」
 耳を澄ませる。金属がこすれるような音がした。
「屋根か」
 かちゃかちゃと、瓦屋根を歩く音がした。
「ゾンビが二階の屋根に登ったのか」
 野口は顔をしかめた。
「身軽なこった」
「どうする?」
「どうするっていったって、どうしようもないだろ。屋根の上だし、入れないんだから、ほっておけば良いんじゃないのか」
「いや、ちょっと、まずいかもな」
 作業員の栗山が言った。
「なんでだ?」
「太陽光パネルがあるだろ」
「ああ、それを取りに来たんだ」
 堀田は、いやそうな顔をした。太陽光パネルを取りにこさえしなければ、こんな目には遭わなかった。ついそう思ってしまった。
「太陽光パネルってのは、電気を発電してんだよ。ゾンビが屋根の上を動き回り、踏んで壊れて感電でもすればアウトだぜ」
「燃えるって言うのか」
「燃えるって言うか、爆発するんじゃねぇか。屋根に登れるぐらいなんだから、ガスが、ぱんぱんなんだろ。爆弾に電流をながすようなもんだね」
「そいつは、まずいな」
「それから、パネルが落下してもアウトだな。作業を途中で切り上げたからな、一応固定されているとはいえ、落ちやすくなっている。落ちた衝撃で火花が散って、ドカンだ」
 周辺にはガスを発生しているゾンビ達がいる。
「ますます、まずいじゃねぇか」
 堀田は頭を抱えた。
「どうする。屋根に上がって落とすか」
「危なすぎるだろう。登るのだって難しい」
 二階の屋根に登るためには、どこかに脚立を立て、そこから登らなければならない。
「どっか矢で狙えないのか」
「むつかしいわね。外に出て狙えばできるけど、ちょっと今の状況では難しいわ」
「屋根裏から、屋根をぶち抜いて何とかならないのか」
「できるが、時間がかかるぞ。構造はわからんが、おそらく瓦の下に板を敷いているからな。それをごりごり壊さなきゃならない」
「おい、何か落ちたぞ。パネルか?」
 石が屋根を転がり落ちるような音がした。
「いや、漆喰だろ。瓦を止めてる奴だ」
「そうか」
「ベランダからならどうかしら、ベランダの上のトタン屋根を外して、脚立に乗って矢で仕留めるのはどうかしら」
 ベランダの上には雨よけの半透明の波板がはられている。
「波板なら簡単に外せるぜ」
 栗山が言った。
「それは、それで、結構危ないぞ」
 堀田は顔をしかめた。
 屋根から、響くような音が、何度かした。
「ジャンプしてやがるな」
「何か気に入ったんだろうな」
「早くしないと、燃えたら辺り一面火の海になるわ」
「しかたない、ベランダでいこう。俺と野口でベランダの安全を確保するから、栗山さんと道明寺さんは、脚立を設置して、ベランダの屋根をどかしてくれ。あとは姫路頼んだぞ」
 もう一人の作業員である道明寺は脚立を取りに行った。
「かわいそうだけど里山も起こそう」
 堀田は里山を起こしに行った。
 屋根の上からは相変わらず、屋根瓦を軽快に歩く音がする。
「こういう、いつ爆発するか、わかんねぇ状況も悪くないねぇ。なんかこう、ひりひりするぜ」
 といいながら、栗山はパチンコを打つ仕草をした。
「そんなのあんただけだよ」
 あきれた表情で見つめた。
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