吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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昼、撮影

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 施設の食糧事情は他の避難所に比べると恵まれていた。元々、教団自体終末思想の気があったため、井戸、雨水の浄水施設、太陽光発電に風力発電、LEDを使った水耕栽培施設もあった。ニワトリや豚も飼っていたそうだが、豚は、スペースの問題とえさの問題があるため、食べてしまったそうだ。ニワトリに関しては、地上施設の一角に鶏小屋を作り育てている。それほど多い数ではないが、取れた卵などを市役所などの避難施設に寄付をしているそうだ。北浜も市役所の避難所にいたときに何度か教団の卵のお世話になっている。卵を産まなくなった雌鳥は、さばいて教団内で食べている。食料に関して非常に恵まれていた。教団施設周辺には、監視カメラがついた金属製の塀があるため、意図的に入れたもの以外は、ゾンビの侵入を許してはいない。
 住居に関しては、元信者の宿泊施設や修行場があり、三百人ほどの人間が暮らしていた。元信者だけではなく、普通の避難民も少数だが暮らしている。
「ゾンビは人として生きていると思うんだ」

 元教祖の志賀山万三郎は言った。地下のゾンビが収容されている研究施設である。 
「生きているんですか?」
 北浜のりぞうは、撮影しながら質問した。北浜は志賀山の依頼を受け、ゾンビのドキュメンタリー映画を撮ることにした。機材に関しては、昔教団が動画撮影等に使っていた機材があるので、それを使っている。今のところはカメラ一つ、北浜一人で撮影を行っていた。
「そ、生きてるよ。脈もない脳波も止まっている。だが人間なんだよ。意思のようなものを私は感じる」
「気のせいでは」
「かもしれない。だが私はそうは思わない。人である限り、生きている限り、救うことはできる。私はそう思っている」
「救うとは、具体的に何をするんですか」
「できれば治したいところだが、まぁ、それは無理だろう。だがせめて、意思の疎通は図りたい。そう思っている」
「意思の疎通、ゾンビとですか」
「ああ、その通り、そうしないと彼らが何を望んでいるのかわからないだろ。彼らと語り合うことができれば、人とゾンビ、共存することができるはずだ」
「できますかね」
「どうだろうな、ただ、何かしらの知能があるのは間違いないからね。だとしたら話し合うことは可能だろ。話し合うことが無理でも、こちらの要求を伝えたり、相手の要求を理解したりすることはできるかも知れない」
「ゾンビそのものについてはどう思いますか。ゾンビがあらわれたことがきっかけで、宗教をお捨てになったと聞きましたが」
「ゾンビがなんなのか、なぜ出てきたのか。それはわからない。ただ私は、神を信じていた。神による救済を信じていた。多くの人が救いを求めていた。私は人々の救いの手伝いをしたいと思い、この教団を立ち上げた。ところがだよ。ゾンビだよ。そんなことが起きるかね。私は祈った。私だけじゃない。世界中の人間が祈っただろう。その祈りに対して、神は何をした。何もだ。何もしない。いや、何もできない。いやいやいや、いないんだよ。神は居ない。居ないから、何も起きない。我々は居もしない神にすがっていたのだよ」
 志賀山は悲しそうな顔をした。
「それで、教団を解散したと」
「その通りだ。私自身、神を、まったく信じられなくなったからね」
「信者の皆様は、どういう反応でしたか」
「そりゃ、困ったような様子だったな。まだ、ぎりぎりインターネットとか使えたからね。信者向けの動画配信サイトでな、言ったんだが、どう考えて良いかわからないって反応が一番多かったな。そりゃそうだよな。神様が一番必要なときに、神様が居ないから解散しますなんて言ったら、みんな困るよな」
「それでどうしたんです」
「謝るしかないだろ。今までごめんなさいってな」
 顔をゆがめた。
「許してくれましたか」
「正直に話してくれて良かったという人間も居れば、今まで何だったんだという人間も居る。怒っている人も当然いた。でも、まぁ、今となっては、ほとんど音信不通だからな、どうなっているのか。いや、本当いろいろ申し訳ない」
 カメラに向かって頭を下げた。資料に寄れば解散前は二万人ほど信者がいたそうだ。
「この施設に、大勢の元信者の方が暮らしていますが、それに関しては、どう思ってらっしゃるんですか」
「うーん、まぁ、ここに居るのが、安全だからな。なんだかんだいって、みんなに助けてもらっているよ」
「今は、この施設の代表と言うことですか。皆さん納得しているんでしょうか」
「どうだろうな、でもまぁ、他にやりたいって奴も居ないから、私がやるしか無いんじゃないか」
「ゾンビの研究については、どうなんでしょう」
「反対の声はあるよ。危ないんじゃないかって、そりゃそうだよな。でもよ。救いたいじゃない。困っている人が居たら救いたいじゃないか。ゾンビだってそうだよ。救いたいじゃないか」
「なんだか、宗教みたいですね」
「宗教はやめたさ。だかな、宗教じゃなきゃ、人は救えないのかい。神様じゃなきゃだめなのかい。人間だって人は救えるだろ」
 志賀山はカメラをのぞき込みながらいった。

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