吸血鬼VS風船ゾンビ

畑山

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吸血鬼の目的

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 権造が住む、野勝市も例外ではなく、多くの市民がゾンビの犠牲になり、水由来の感染や他市に避難した人間もおり、およそ、十万人居た野勝市の人口は、十分の一程度に減ってしまっている。
 市の人口が十分の一に減ったからと言って、今すぐ、権造の食料がなくなるというわけではない。だが、これが常態化して、人口が減っていけばどうなるか。わずか五年でこれだけ減ったのだ、百年もすれば、今いる人間はほとんど死ぬ。その後、何人の人間が継続して増えるか、そこが問題だ。こうなる前から少子高齢化は問題視されていたが、それどころのレベルではない。こんな状況が永遠に続けば、もちろんそうなる前に、この問題の打開策を人間が考えてくれる確率は高いものの、このままなんの解決策も見いだせず、ずるずるとゾンビと一緒に人間が生活をともにするとなんてことになると、吸血鬼の食料である人類はいずれ全滅してしまう。
 無くならないまでも、ある程度人口が減り、ゾンビが定着化してしまうと、人間はつねに安全区域に閉じこもることになる。そうなると、吸血行為自体が非常に難しくなる。今でも、ある程度まとまって建物などに閉じこもっているが、人間が安全区域を作り、そこに暮らすことが当たり前の社会になってしまうことを権造は懸念していた。
 ゾンビと違って吸血鬼は簡単に安全区域に、入ることはできる。月に一度ほど人間を一人捕まえ血を吸うのも簡単だ。問題はその後だ。
 血を吸って死体を隠せば良いということにはならない。安全区域内で人が一人突然消えてしまったら、人間はどうする。当然探す、しかも、それが月に一度必ず起こるとしたら、人間は考える。ゾンビに食べられた? いや、そんな形跡はない。ゾンビではない何者かがいる。殺人鬼だろうか。まさか、吸血鬼? そんな者いるわけが、いや、ゾンビがいるしな、吸血鬼や狼男だっていてもおかしくない。なんて簡単に吸血鬼を認知しかねない。そうなると吸血鬼である権造に勝ち目はない。
 吸血鬼は、昼間は日の当たらない暗闇で眠っている。この眠りは深く、ちょっとやそっとのことでは覚めない。意識的にそうしているのだ。起きていた場合、昼、日の当たらない暗闇といえども、吸血鬼にとっては、かなりの苦痛である。全身の皮膚が縮み上がり、ねじ切れるような感覚、それが全身の毛穴という毛穴から吹き出してくる。たまらない。だから眠りは深い。眠っている最中に杭でも打たれたら、いや杭じゃなくても、カーテンを開けられ窓の雨戸を開けられ、日の光の下へ、引きずり出されたら、全身から発火し、あっという間に消し炭になってしまう。あまり知られていないが、昔から吸血鬼の死因で一番多いのは、カーテンの閉め忘れによる太陽焼死だ。
 つまり、昼間、人間に見つかってしまうと、吸血鬼はあっさり滅んでしまうと言うわけだ。昼間出歩かず、夜な夜な外に出ては、ゾンビを倒し、月に一度は人間の生き血を吸う。そんな男がいたら、皆怪しむだろう。
 昔はよかった。多少怪しまれても、個性的な人だったり、夜型の人間でごまかせた。今は多くの人が隣人を恐れている。
 だから、人間にはたくさん増えてもらって、安全安心な社会を作ってもらわなくてはならない。そんな住みよい社会を人間に作ってもらうため、権造はゾンビを殺しては大八車に積み込み、コンクリートで固めた穴の中に捨てに行くのだ。




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