11 / 23
第一章
(11)
しおりを挟む白い泡を切るように海の中を深海鉄が進んでいく。細かい水の泡が窓から見えた。いくつも生まれては凄い速さで後ろに置いていかれ、時々海藻の切れ端が窓に張り付いてくるのが可愛い。まるで深海鉄のデコレーションだ。
楕円形の窓から太陽が降り注いでいる海底が見える。
アナウンスが流れた。
先に到着した深海鉄の影響で海底に少し停車するようだ。
ゆっくりとスピードを落とし完全に止まる。
静かに佇む深海鉄の周りに色とりどりの魚たちが集まってきた。
大きな亀、歯の鋭い棘を持った大型魚種、固い殻に覆われた触覚をもった多足生物。発光している鼻の長い浮遊生物。
海は生物で溢れている。
「凄い!凄いね!綺麗だね!」まっすぐに伸びた黒い髪を大きく動かして少女がはしゃぐ。
「ほんとだね、凄いね!綺麗だね!」隣の少年も負けずに笑顔で言う。
「あれは何?ふわふわ浮いてるよ」
雪のように上から降ってくる茸型の生物を見た。
「あれはねー、確かここに載ってたような…」
分厚い図鑑の中身をひっくり返しながら少年が目当てのページを探している。
「あった!これ!これだよ!海月!」
図鑑を広げて高く掲げる少年は、自分が第一発見者のように得意げだ。
「わ、凄い凄い!ほんとにいるんだね!」
少女は図鑑と外とを見比べとても嬉しそうだ。
「海にはね、一千万種類以上の生物がいるって言われてるんだよ。ここで見てる生物なんてほんっの少ない種類なんだ。この図鑑にチェックを入れたのは僕が今まで見れた種類だから、今日も見れるかもしれないよ。」
少年は目を輝かせて図鑑を少女に渡した。
「一千万!?一千万ってどれくらい?何回これに乗ったら一千万になる?」
少女がぴんとこないという顔をして聞く。
「一千万はいっぱいだよ!数えられないくらいたくさん!一千万種類の海洋生物を見れたら、世界一海を知ってる人になれるかもしれないね、いいなあ、なりたいなあ、あ、あれは!見て!」
夢見るような顔をした男の子はすぐに海の世界に夢中になった。
「いっぱいってどれくらい?ねえ、ねえ~!」
海に夢中な少年の肩へ少女は体当たりをしている。
少年は重みも気にせず図鑑を開いては海をじっくりと眺めている。
アナウンスが流れた。
「お待たせいたしました。これより発車致します。まもなく地上に到着しますので揺れにお気を付けください。」機械が一定の音量で告げた。
「上に上がるって。シートベルトしてね」
少年は急に神妙な顔をして、自分の上に乗っていた少女を席に戻し赤いシートベルトをつける。
カチッとはまる音を確認すると少年も席に大人しく座った。
深海鉄は発車を始め、海底に魚たちを残して無音のままスピードをぐんぐん上げていく。
少年は窓に額をつけて残された生物を可能な限り眺めていた。
少女は少しだけ緊張した面持ちだ。
地上に近づいてきた深海鉄がゆるりと揺れる。
銀の塊は酸素を望みぐんと速度を上げた。もうすぐ地上だ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
嫌な夢を見た。ご都合主義な夢だ。
深海鉄に乗ったところで海の中なんて見えない。
海洋生物だって、発見されている種類の方が少ない。
彼の見ている図鑑は絶滅図鑑だ。
図鑑に載っている海洋生物はとっくの昔に滅びたと言われている。まさしく夢だ。
窓のない二重構造の耐圧殻で出来た丸みを帯びた巨大な塊。
地上に出る為に深海鉄を待つだだっ広い銀の待合室が無機質で嫌いだった。
皆地上への時間を今か今かと待っていた。あの異様な緊張感も苦手だった。
案内所はいつも忙しく、手荷物検査は時間がかかりすぎる。
一日に1便。地上におりたところでそこはただの汚染地帯だ。
あの待合室のラテはいつもかびの匂いがする。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
CREATED WORLD
猫手水晶
SF
惑星アケラは、大気汚染や森林伐採により、いずれ人類が住み続けることができなくなってしまう事がわかった。
惑星アケラに住む人類は絶滅を免れる為に、安全に生活を送れる場所を探す事が必要となった。
宇宙に人間が住める惑星を探そうという提案もあったが、惑星アケラの周りに人が住めるような環境の星はなく、見つける前に人類が絶滅してしまうだろうという理由で、現実性に欠けるものだった。
「人間が住めるような場所を自分で作ろう」という提案もあったが、資材や重力の方向の問題により、それも現実性に欠ける。
そこで科学者は「自分達で世界を構築するのなら、世界をそのまま宇宙に作るのではなく、自分達で『宇宙』にあたる空間を新たに作り出し、その空間で人間が生活できるようにすれば良いのではないか。」と。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる