蟠-ワダカマル-

常盤

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マウントと逃亡

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「私だって辛かった」

と、人に言うのはとても簡単だ。

当たり前だ。
その人にしか辛さなど分かるはずもないのだ。
言語で説明しても、その人の感受性や性格によって辛さの度合いとは人によるのだ。

自分の辛さを他人に共有することは完全には不可能なのである。


大切なのは受け入れてあげることだろうか、
と、私は思う。




さて、私の母の場合は辛さにおいてマウントを取ることしか脳がないようだ。

私が「仕事も職場の人と折り合いがつかず、家族とどう接すればいいのか分からなくなっていたからずっと死にたかった」
と母に話の流れで打ち明けたことがある。
ちょうど妊娠した時期の話し合いだ。


母はそれを聞いた直後に間髪おかずにこう言った


「私だってアンタよりよっぽど死にたいよ!!」


違う、そういうことを言って欲しいんじゃないし、今この場において母の辛さなど聞いてないのだ。
母は続ける

「アンタが死にたくてバイト辞めても私は働き続けなきゃいけない!私だって(義父)が病気で死んでから稼ぎがなくなってどうしようもう子供たちと死のうかと思ったけど働き出した!子供たちが可哀想やけん!私が死んだら残されてしまうけん!
なんで辛いだけで死のうとか考えるん!?なんとかいい方向に持っていこうとせんの!?そういうこと考えんわけ!?私の方がアンタよりずっと辛いんよ!!」


分かるだろうか。

私の辛さなど知ったこっちゃないのだ。

あくまで、自分の方が辛いのだ。

私が死にたいと思うことより、自分の方が死にたいことをわかって欲しいのだ、この親は。

ポカンとしたあとに、思わず笑いそうになった。
あぁ、どこまでもこの親は子供でしかないのだ。
他人が転んで怪我をしても、
自分の擦り傷を見せるのだ。
どうだ、私の方が傷がでかいのだからお前のは痛くもないだろう?と。


そして、母は、辛さから逃げるなという。
辛くてもそこから逃げるな。
それは時と場合によるのだと知らないのだ。

辛いことから全て逃げてはいけないのは確かに一理ある。
耐えることを知るためには必要な痛みだ。

しかし、仕事の場合などは違うだろう。

そりが合わない職場で無駄に気を病んで過ごす時間ほど無意味なものは無い。
正社員でもなければ所詮時給。
好きなところで好きに働けるのがパートアルバイトの特権だろう。


が、やはり母の言い分は違う。

「次から次に職場を変えるのは逃げだ。本気で生活しようと思ったら、倒産しない限り職場は変えられないはずだ。アンタはころころ職種変えて逃げ続けてる!」

本当にこの主張だけはよく分からない。
一理もない。
効率良く働くために自分に合った職場を探すのは個人の自由ではないのか。
(言うなれば、私は別のバイトに移動する時は次のバイト先を見つけてから今のバイト先を辞めるようにしているのでバイトが途切れたことはほぼない)

そして、逃げ、というのは
果たして本当にそこまで悪いことか。

なぜ逃げてはいけないのか。
逃げてもいいのではないか。
逃げずに心を殺して廃人になるより、
自分に合った場所を見つけることは悪いことではないだろう。

母は度々言う。

「今度はどこに逃げるん?もう逃げ場なんてないんやけど」

と。

1つ言おう、困難に立ち向かおうとした結果が私の今の状況だ。

親と話し合いという1番苦手なことをした結果、マウントを取られまくって、たった1つ言い返す気力も削がれて、心がボロボロにされてしまった。

家から逃げることも許されない。
また逃げるのかと激怒され、嘲笑され、
それならば、それならば、

生から逃げることもダメなのだろう。

逃げる悪さを教えて欲しい


過酷な環境で育つより、
伸び伸びと楽しく生きた方が有意義だろう。
有意義を捨ててまで忍耐が必要か?

そんな考えなど、
もう何もかも古臭いのだ。
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