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最後の六隻
試みるは必殺 (2)
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「はっはー、ざまみろ、見たかケント大金星だぜ」
質量弾頭と熱核弾頭をしこたま食らった敵艦隊は駆逐艦一隻が撃沈、巡洋艦二隻が中破。残った味方がこれを攻撃中だ。
最後に見た空母『ラファイエット』の甲板には廃棄宙域に再利用保管されていた、年代物の電磁投射砲が据えられていたが、役に立っているのだろうか。
「ああ、ここからが本番だ」
「まかせろ、ぶちかましてやるぜ」
九機に数を減らした『ケイローン』が、三機ずつのデルタ編隊を組んで敵旗艦に向かう。戦艦からの電子妨害で光学以外のセンサーはとっくに役立たずだ。
だが、ここはホームグラウンドなのだ。設置された航路情報ブイに積まれた次元波レーダーが敵艦隊の位置を教えてくれる。
「こちらレッドリーダー、航路情報ブイ信号ロスト、対応が早いわね」
セシリアの声がこころなしか上ずっている。
「もう遅い、見えてる」
メインスクリーンに敵戦艦の真っ白な艦影が小さく浮かんでいる。
「テッド! 射点を算出、各隊に連絡」
「了解」
亜光速ミサイルと言えば聞こえはいいが、タングステンの弾頭を、反物質エンジンで大加速して叩きつけているだけの質量兵器だ。
加速する距離が短ければ、戦艦相手なら象に小石を投げるようなものだし、その上、未来位置予測が外れればほとんど修正は効かない。
「こちらグリーンリーダー、命中率八・三二%? 全員で一発あたるかどうかってか?」
「ああ、それも全員が撃てればだ、アンデルセン」
「かっ! ひでえな、行くぞお前ら」
少しでも情報の精度を上げるため、速度を落としつつ円盤状の編隊を組むと、各機の機載コンピューターで並列処理しながら射点を修正してゆく。
「テッド、ユーハヴコントロール」
「アイハヴ」
もうこうなれば、人がボタンを押す必要もない。むしろ機械に任せた方が正確だろう。
「発射」
テッド平坦な声が響く。
初期加速用の化学ブースターがひらめき、『ケイローン』とミサイルが切り離された。
「オーケイ、あたってくれよ、いい子だから」
「高エネルギー反応」
アンデルセンが軽口を叩き、テッドの警告がそれにかぶさる。
「っつ」
それがケントが聞いたアンデルセンの最後の言葉となった。荷電粒子砲が編隊を切り裂くように薙ぎ払い、ケントの右側に居たブルー小隊の一機と、グリーン小隊を吹き飛ばしたのだ。
「アンデルセン!? クソッ、テッド、全周探査! レポート」
「ブルー・ツー、グリーン・リーダー、グリーン・ツー、ロスト」
沸き起こる感情に大声を上げそうになる。
馬鹿野郎、ここで星屑《デブリ》になるやつがあるか。
「ケント!?」
「大丈夫、大丈夫だ、セシリア」
やれることはやった、もう自分たちにできることは無い。
泣くのは帰ってからだ……。
ミサイルの航跡をディスプレイ上で追いながらケントは深呼吸する。
「ブルーリーダー、ミッションコンプリート、帰投する」
なんとか声を絞り出して全機に音声通信送り、テッドからコントロールを取り戻す。帰投コースを算出しようとコンソールに指を伸ばしたところで、ディスプレイに文字通信が流れた。
『ラファイエットから各機、ワレ大破損傷。各機ハ、自力で帰着セヨ』
ギリリと歯噛みしてケントは唸った。ラファイエットが迎えに来るまでが作戦のうちだ、燃料はほぼ底をついている。この燃料で行けるとこったって……。
「レッドリーダーから各機、残存燃料で届くのはケンタウルスⅡ、そこを目指して」
「敵地だぞ?」
セシリアの指示にケントは異を唱える。
「一部の民兵がまだゲリラ戦を展開中よ、さっき降伏勧告の通信を拾ったから間違いない」
「やってくれる。了解、各機増加ブースターを切り離せ、減速分の燃料計算を忘れるな」
「コロニー底部の部材搬入ハッチなら地図に載ってないからノーマークのはず」
セシリアが何でそんなものをなんで知ってるのかは、もう聞かないことにした。
「テッド、ケンタウルスⅡまでの航路計算を、減速してセクタS9に着陸だ」
「アイ、マスター。追加デ報告ガアリマス」
「なんだテッド」
「敵艦ニ、命中ヲ確認」
テッドに言われて、ケントは慌てて光学センサを最大望遠にする。
「ブルーリーダーより各機、命中弾を確認、デカイケツを蹴り飛ばしてやったぞ」
ケントの報告に各機から歓声があがった。
幸運なことに一発のミサイルが戦艦『ヴァンガード』の後部に命中、かすめただけとはいえそのバカみたいな質量エネルギーで、後部の主推進器の半分を削り取っていた。
そして、不幸なことにケツを蹴られた敵艦がヨタヨタと這ってゆくその宙域は、ケント達が向かおうとしているケンタウルスⅡへ向かう航路上だった。
「レッドリーダーから各機、さあ、最後まで気を抜かないで、生き残るのよ」
質量弾頭と熱核弾頭をしこたま食らった敵艦隊は駆逐艦一隻が撃沈、巡洋艦二隻が中破。残った味方がこれを攻撃中だ。
最後に見た空母『ラファイエット』の甲板には廃棄宙域に再利用保管されていた、年代物の電磁投射砲が据えられていたが、役に立っているのだろうか。
「ああ、ここからが本番だ」
「まかせろ、ぶちかましてやるぜ」
九機に数を減らした『ケイローン』が、三機ずつのデルタ編隊を組んで敵旗艦に向かう。戦艦からの電子妨害で光学以外のセンサーはとっくに役立たずだ。
だが、ここはホームグラウンドなのだ。設置された航路情報ブイに積まれた次元波レーダーが敵艦隊の位置を教えてくれる。
「こちらレッドリーダー、航路情報ブイ信号ロスト、対応が早いわね」
セシリアの声がこころなしか上ずっている。
「もう遅い、見えてる」
メインスクリーンに敵戦艦の真っ白な艦影が小さく浮かんでいる。
「テッド! 射点を算出、各隊に連絡」
「了解」
亜光速ミサイルと言えば聞こえはいいが、タングステンの弾頭を、反物質エンジンで大加速して叩きつけているだけの質量兵器だ。
加速する距離が短ければ、戦艦相手なら象に小石を投げるようなものだし、その上、未来位置予測が外れればほとんど修正は効かない。
「こちらグリーンリーダー、命中率八・三二%? 全員で一発あたるかどうかってか?」
「ああ、それも全員が撃てればだ、アンデルセン」
「かっ! ひでえな、行くぞお前ら」
少しでも情報の精度を上げるため、速度を落としつつ円盤状の編隊を組むと、各機の機載コンピューターで並列処理しながら射点を修正してゆく。
「テッド、ユーハヴコントロール」
「アイハヴ」
もうこうなれば、人がボタンを押す必要もない。むしろ機械に任せた方が正確だろう。
「発射」
テッド平坦な声が響く。
初期加速用の化学ブースターがひらめき、『ケイローン』とミサイルが切り離された。
「オーケイ、あたってくれよ、いい子だから」
「高エネルギー反応」
アンデルセンが軽口を叩き、テッドの警告がそれにかぶさる。
「っつ」
それがケントが聞いたアンデルセンの最後の言葉となった。荷電粒子砲が編隊を切り裂くように薙ぎ払い、ケントの右側に居たブルー小隊の一機と、グリーン小隊を吹き飛ばしたのだ。
「アンデルセン!? クソッ、テッド、全周探査! レポート」
「ブルー・ツー、グリーン・リーダー、グリーン・ツー、ロスト」
沸き起こる感情に大声を上げそうになる。
馬鹿野郎、ここで星屑《デブリ》になるやつがあるか。
「ケント!?」
「大丈夫、大丈夫だ、セシリア」
やれることはやった、もう自分たちにできることは無い。
泣くのは帰ってからだ……。
ミサイルの航跡をディスプレイ上で追いながらケントは深呼吸する。
「ブルーリーダー、ミッションコンプリート、帰投する」
なんとか声を絞り出して全機に音声通信送り、テッドからコントロールを取り戻す。帰投コースを算出しようとコンソールに指を伸ばしたところで、ディスプレイに文字通信が流れた。
『ラファイエットから各機、ワレ大破損傷。各機ハ、自力で帰着セヨ』
ギリリと歯噛みしてケントは唸った。ラファイエットが迎えに来るまでが作戦のうちだ、燃料はほぼ底をついている。この燃料で行けるとこったって……。
「レッドリーダーから各機、残存燃料で届くのはケンタウルスⅡ、そこを目指して」
「敵地だぞ?」
セシリアの指示にケントは異を唱える。
「一部の民兵がまだゲリラ戦を展開中よ、さっき降伏勧告の通信を拾ったから間違いない」
「やってくれる。了解、各機増加ブースターを切り離せ、減速分の燃料計算を忘れるな」
「コロニー底部の部材搬入ハッチなら地図に載ってないからノーマークのはず」
セシリアが何でそんなものをなんで知ってるのかは、もう聞かないことにした。
「テッド、ケンタウルスⅡまでの航路計算を、減速してセクタS9に着陸だ」
「アイ、マスター。追加デ報告ガアリマス」
「なんだテッド」
「敵艦ニ、命中ヲ確認」
テッドに言われて、ケントは慌てて光学センサを最大望遠にする。
「ブルーリーダーより各機、命中弾を確認、デカイケツを蹴り飛ばしてやったぞ」
ケントの報告に各機から歓声があがった。
幸運なことに一発のミサイルが戦艦『ヴァンガード』の後部に命中、かすめただけとはいえそのバカみたいな質量エネルギーで、後部の主推進器の半分を削り取っていた。
そして、不幸なことにケツを蹴られた敵艦がヨタヨタと這ってゆくその宙域は、ケント達が向かおうとしているケンタウルスⅡへ向かう航路上だった。
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