上 下
64 / 66
最後の六隻

試みるは必殺 (2)

しおりを挟む
「はっはー、ざまみろ、見たかケント大金星だぜ」

 質量弾頭マス熱核弾頭ニュークをしこたま食らった敵艦隊は駆逐艦一隻が撃沈、巡洋艦二隻が中破。残った味方がこれを攻撃中だ。
 最後に見た空母『ラファイエット』の甲板には廃棄宙域に再利用保管モスボールされていた、年代物の電磁投射砲が据えられていたが、役に立っているのだろうか。

「ああ、ここからが本番だ」
「まかせろ、ぶちかましてやるぜ」

 九機に数を減らした『ケイローン』が、三機ずつのデルタ編隊を組んで敵旗艦に向かう。戦艦からの電子妨害で光学以外のセンサーはとっくに役立たずだ。
 だが、ここはホームグラウンドなのだ。設置された航路情報AISブイに積まれた次元波レーダーが敵艦隊の位置を教えてくれる。

「こちらレッドリーダー、航路情報AISブイ信号ロスト、対応が早いわね」

 セシリアの声がこころなしか上ずっている。

「もう遅い、見えてる」

 メインスクリーンに敵戦艦の真っ白な艦影が小さく浮かんでいる。

「テッド! 射点を算出、各隊に連絡」
了解ラージャ

 亜光速ミサイルと言えば聞こえはいいが、タングステンの弾頭を、反物質エンジンで大加速して叩きつけているだけの質量兵器だ。
 加速する距離が短ければ、戦艦相手なら象に小石を投げるようなものだし、その上、未来位置予測が外れればほとんど修正は効かない。

「こちらグリーンリーダー、命中率八・三二%? 全員で一発あたるかどうかってか?」
「ああ、それも全員が撃てればだ、アンデルセン」
「かっ! ひでえな、行くぞお前ら」

 少しでも情報の精度を上げるため、速度を落としつつ円盤状の編隊を組むと、各機の機載コンピューターで並列処理しながら射点を修正してゆく。

「テッド、ユーハヴコントロール」
「アイハヴ」

 もうこうなれば、人がボタンを押す必要もない。むしろ機械に任せた方が正確だろう。

発射ファイア

 テッド平坦な声が響く。
 初期加速用の化学ブースターがひらめき、『ケイローン』とミサイルが切り離された。

「オーケイ、あたってくれよ、いい子だから」
「高エネルギー反応」

 アンデルセンが軽口を叩き、テッドの警告がそれにかぶさる。

「っつ」

 それがケントが聞いたアンデルセンの最後の言葉となった。荷電粒子砲パーティクルが編隊を切り裂くように薙ぎ払い、ケントの右側に居たブルー小隊の一機と、グリーン小隊を吹き飛ばしたのだ。

「アンデルセン!? クソッ、テッド、全周探査! レポート」
「ブルー・ツー、グリーン・リーダー、グリーン・ツー、ロスト」

 沸き起こる感情に大声を上げそうになる。
 馬鹿野郎、ここで星屑《デブリ》になるやつがあるか。

「ケント!?」
「大丈夫、大丈夫だ、セシリア」

 やれることはやった、もう自分たちにできることは無い。
 泣くのは帰ってからだ……。
 ミサイルの航跡をディスプレイ上で追いながらケントは深呼吸する。

「ブルーリーダー、ミッションコンプリート、帰投するRTB

 なんとか声を絞り出して全機に音声通信送り、テッドからコントロールを取り戻す。帰投コースを算出しようとコンソールに指を伸ばしたところで、ディスプレイに文字通信テキストが流れた。

『ラファイエットから各機、ワレ大破損傷。各機ハ、自力で帰着セヨ』

 ギリリと歯噛みしてケントは唸った。ラファイエットが迎えに来るまでが作戦のうちだ、燃料はほぼ底をついている。この燃料で行けるとこったって……。

「レッドリーダーから各機、残存燃料で届くのはケンタウルスⅡ、そこを目指して」
「敵地だぞ?」

 セシリアの指示にケントは異を唱える。

「一部の民兵がまだゲリラ戦を展開中よ、さっき降伏勧告の通信を拾ったから間違いない」
「やってくれる。了解ラージャ、各機増加ブースターを切り離せ、減速分の燃料計算を忘れるな」
「コロニー底部の部材搬入ハッチなら地図に載ってないからノーマークのはず」

 セシリアが何でそんなものをなんで知ってるのかは、もう聞かないことにした。

「テッド、ケンタウルスⅡまでの航路計算を、減速してセクタS9に着陸だ」
「アイ、マスター。追加デ報告ガアリマス」
「なんだテッド」
「敵艦ニ、命中ヲ確認」

 テッドに言われて、ケントは慌てて光学センサを最大望遠にする。

「ブルーリーダーより各機、命中弾を確認、デカイケツを蹴り飛ばしてやったぞ」

 ケントの報告に各機から歓声があがった。

 幸運なことに一発のミサイルが戦艦『ヴァンガード』の後部に命中、かすめただけとはいえそのバカみたいな質量エネルギーで、後部の主推進器メインスラスタの半分を削り取っていた。
 そして、不幸なことにケツを蹴られた敵艦がヨタヨタと這ってゆくその宙域は、ケント達が向かおうとしているケンタウルスⅡへ向かう航路上だった。

「レッドリーダーから各機、さあ、最後まで気を抜かないで、生き残るのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

GPTが書いた小説2

沼津平成
SF
続編です。 設定は沼津平成のものです、

ハミット 不死身の仙人

マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。 誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。 世紀末と言われた戦後の世界。 何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。 母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。 出会い編 青春編 ハンター編 解明編 *明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。 *過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶
SF
最大の宿敵であるスルガルム/トーミ宙域星大名、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち果たしたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、いよいよシグシーマ銀河系の覇権獲得へ動き出す。だがその先に待ち受けるは数々の敵対勢力。果たしてノヴァルナの運命は?

処理中です...