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最後の六隻
試みるは必殺 (1)
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「はっ、ナメやがって。もう勝った気でいやがる」
宇宙ゴミに紛れてコックピットで待機するケントに、アンデルセンから通信が入る。
「どうした?」
「民間放送を見てみろよケント、チャンネル23だ」
サブスクリーンに民間放送用の広域通信を表示させる。宙域内に散らばる通信衛星から、制圧されたケンタウリⅤの清掃宙域の様子が放送されていた。
十日ほど前の録画のようだが、そこには平和維持軍だと言いたいのだろう、真っ白に塗られた太陽系星系軍の旗艦、『ヴァンガード』が誇らしげに映し出されている。随伴艦は巡洋艦二隻に重装駆逐艦四隻、強襲揚陸艦一隻と補給艦の全部で八隻だ。
「真っ白とは……確かにナメてやがる。テッド対艦ミサイルとの接続チェック」
「了解、チェックリストC9スタート」
到底読めない速度でリストが画面を流れてゆく。機体に積めるだけの増加ブースターをくくりつけ、超高速仕様にでっち上げた『ケイローン』が十二機、空母『ラファイエット』の外部装甲に止められて並んでいた。
「まあ、目立っていいけどよ、真っ白ってのはさすがにウケルな、豪華客船かよ」
カタパルトで射出できないような大きさに膨れ上がったため、母艦の外部装甲に爆破ボルトで止められた愛機に宇宙遊泳で乗り込んでから二時間、指向性の超低出力ビーム通信で飛んでくるのは、パイロットたちの軽口ばかりだ。
「そうだな、一発ぶちこんでやれば気がつくんじゃないか」
「あのデカいケツを蹴り飛ばしてやるさ」
滝のように流れていたリストが止まる、システム・オールグリーン、作戦開始まで六〇秒。戦術ディスプレイに目をやると、六隻の艦隊から突出して補給艦『ドサンコ』が加速してゆく。
「セシリア」
「なに、ケント」
電子欺瞞もなく丸裸で突っ込んでいく『ドサンコ』に呼応して、敵艦隊から四隻が離れこちらに向かってきた。作戦開始まで四〇秒、深呼吸してからケントは真面目な顔でつぶやく。
「愛してる、セシリア」
少し押し黙ったセシリアが、小さく笑って楽しそうに応えた。
「ええ、私もよ、ケント」
小さく電子音が響きカウントがゼロを指す。数秒遅れて前方が明るく輝き、ヘルメットのスピーカーにノイズが走った。
作戦通り、デコイを射出した後に、レーザー撹乱粒子と電波妨害粒子をばらまきながら、先行した『ドサンコ』が自爆した光だ。
始まった……ケントが思うと同時に、機体を揺らして爆破ボルトが吹き飛んだ。ケントたちを置き去りにして空母『ラファイエット』が加速してゆく。
「ブースター点火マデ、二十二秒」
テッドの平坦な声、戦術モニターがアップデート、味方の位置が出る。
先行したフリゲート四隻から対艦ミサイルを示す光点が大量にのびてゆく。
「クソっ、一隻やられた」
アンデルセンの声がヘルメットに響いた。対抗雷撃を食らったのだろう、味方のフリゲートを示す光点が一つ消えた。
廃棄宙域の備蓄倉庫に隠されていた対艦ミサイルを、ハリネズミのように艦外に装備して飽和攻撃を狙っても、同数を相手にせいぜい互角かそれ以下ということだ。
「十秒前、九、八」
「アンデルセン、死ぬなよ」
「ああ、お前もな」
汗ばんだ手で操縦桿を握りしめる、緊張で震える手をテッドが読み取って操作を補正する。
『幸運を』
先行する空母から短いテキストメッセージが入ると同時に、十二機の『ケイローン』が一斉に加速を開始した。
「ぐうっ」
常識はずれな加速で十二本の矢が敵の旗艦を目指す。
慣性制御で中和の追いつかない加速Gに気密服の中で押しつぶされそうになる。
歯を食いしばって耐えるケントにできることは、戦術ディスプレイをにらみつける事くらいだ。
「フェーズ2、開始シマス」
空母『ラファイエット』を追い抜くと同時に、カタパルトからありったけのデコイと対艦ミサイルが射出され、ケントたちの編隊に加わった。総数が六十を数える編隊が速度を合わせて突き進む。
「いいぞ、引っ張ってこい」
さらに一隻減り、二隻になった味方のフリゲート艦が引き返してくる。
後を追って『ドサンコ』の撒き散らした撹乱粒子の雲から敵の艦隊が現れた。
巡洋艦二隻と駆逐艦一隻、削れたのは一隻だけだ。
だが、もうこの段階ではそれは問題ではない。奴らが追いかけてきた時点で半分勝ちなのだ。
「テッド、エンゲージ」
「アイ・サー」
十二機の戦闘機の間をレーザー通信が走り回り、搭載されたAI達が手近な対艦ミサイルを把握して誘導する。デコイを含めて四十八発の対艦ミサイルが敵艦隊に襲いかかった。
宇宙ゴミに紛れてコックピットで待機するケントに、アンデルセンから通信が入る。
「どうした?」
「民間放送を見てみろよケント、チャンネル23だ」
サブスクリーンに民間放送用の広域通信を表示させる。宙域内に散らばる通信衛星から、制圧されたケンタウリⅤの清掃宙域の様子が放送されていた。
十日ほど前の録画のようだが、そこには平和維持軍だと言いたいのだろう、真っ白に塗られた太陽系星系軍の旗艦、『ヴァンガード』が誇らしげに映し出されている。随伴艦は巡洋艦二隻に重装駆逐艦四隻、強襲揚陸艦一隻と補給艦の全部で八隻だ。
「真っ白とは……確かにナメてやがる。テッド対艦ミサイルとの接続チェック」
「了解、チェックリストC9スタート」
到底読めない速度でリストが画面を流れてゆく。機体に積めるだけの増加ブースターをくくりつけ、超高速仕様にでっち上げた『ケイローン』が十二機、空母『ラファイエット』の外部装甲に止められて並んでいた。
「まあ、目立っていいけどよ、真っ白ってのはさすがにウケルな、豪華客船かよ」
カタパルトで射出できないような大きさに膨れ上がったため、母艦の外部装甲に爆破ボルトで止められた愛機に宇宙遊泳で乗り込んでから二時間、指向性の超低出力ビーム通信で飛んでくるのは、パイロットたちの軽口ばかりだ。
「そうだな、一発ぶちこんでやれば気がつくんじゃないか」
「あのデカいケツを蹴り飛ばしてやるさ」
滝のように流れていたリストが止まる、システム・オールグリーン、作戦開始まで六〇秒。戦術ディスプレイに目をやると、六隻の艦隊から突出して補給艦『ドサンコ』が加速してゆく。
「セシリア」
「なに、ケント」
電子欺瞞もなく丸裸で突っ込んでいく『ドサンコ』に呼応して、敵艦隊から四隻が離れこちらに向かってきた。作戦開始まで四〇秒、深呼吸してからケントは真面目な顔でつぶやく。
「愛してる、セシリア」
少し押し黙ったセシリアが、小さく笑って楽しそうに応えた。
「ええ、私もよ、ケント」
小さく電子音が響きカウントがゼロを指す。数秒遅れて前方が明るく輝き、ヘルメットのスピーカーにノイズが走った。
作戦通り、デコイを射出した後に、レーザー撹乱粒子と電波妨害粒子をばらまきながら、先行した『ドサンコ』が自爆した光だ。
始まった……ケントが思うと同時に、機体を揺らして爆破ボルトが吹き飛んだ。ケントたちを置き去りにして空母『ラファイエット』が加速してゆく。
「ブースター点火マデ、二十二秒」
テッドの平坦な声、戦術モニターがアップデート、味方の位置が出る。
先行したフリゲート四隻から対艦ミサイルを示す光点が大量にのびてゆく。
「クソっ、一隻やられた」
アンデルセンの声がヘルメットに響いた。対抗雷撃を食らったのだろう、味方のフリゲートを示す光点が一つ消えた。
廃棄宙域の備蓄倉庫に隠されていた対艦ミサイルを、ハリネズミのように艦外に装備して飽和攻撃を狙っても、同数を相手にせいぜい互角かそれ以下ということだ。
「十秒前、九、八」
「アンデルセン、死ぬなよ」
「ああ、お前もな」
汗ばんだ手で操縦桿を握りしめる、緊張で震える手をテッドが読み取って操作を補正する。
『幸運を』
先行する空母から短いテキストメッセージが入ると同時に、十二機の『ケイローン』が一斉に加速を開始した。
「ぐうっ」
常識はずれな加速で十二本の矢が敵の旗艦を目指す。
慣性制御で中和の追いつかない加速Gに気密服の中で押しつぶされそうになる。
歯を食いしばって耐えるケントにできることは、戦術ディスプレイをにらみつける事くらいだ。
「フェーズ2、開始シマス」
空母『ラファイエット』を追い抜くと同時に、カタパルトからありったけのデコイと対艦ミサイルが射出され、ケントたちの編隊に加わった。総数が六十を数える編隊が速度を合わせて突き進む。
「いいぞ、引っ張ってこい」
さらに一隻減り、二隻になった味方のフリゲート艦が引き返してくる。
後を追って『ドサンコ』の撒き散らした撹乱粒子の雲から敵の艦隊が現れた。
巡洋艦二隻と駆逐艦一隻、削れたのは一隻だけだ。
だが、もうこの段階ではそれは問題ではない。奴らが追いかけてきた時点で半分勝ちなのだ。
「テッド、エンゲージ」
「アイ・サー」
十二機の戦闘機の間をレーザー通信が走り回り、搭載されたAI達が手近な対艦ミサイルを把握して誘導する。デコイを含めて四十八発の対艦ミサイルが敵艦隊に襲いかかった。
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