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最後の六隻

燃え尽きるは星屑 (2)

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「准尉? ケント! 大丈夫なの?」
「ああ」

 ヘルメットに響くセシリアの声に、ケントは生返事をしてぐったりとシートにもたれかかる。

「ケント?」
「大丈夫、ああ……大丈夫ですよ。俺の……判断ミスですメイフィールド少尉」

 敵がアリスの機体を粉みじんにすると同時に、ケントの撃った短距離ミサイルが四発、敵艦に命中、アンテナをいくつかとCIWSを二基吹き飛ばした。
 そこから先は正直な話、無我夢中であまり覚えていない。
 漆黒の円筒形の敵艦、その周囲をひたすら回りながら、至近距離での殴り合い。いや、正確に言えば死なないために逃げ回っていただけだ。

「データーの無い初見の敵相手に生きてるだけで儲けものよ、ケント」
「そうでしょうね、でも少尉……くそっ、テッド、ブルー・フォーを探せ」

 アドレナリン引いて行くのを感じながら、ケントはアリスの機体を探すよう、テッドに命じる。

 ――見たときから俺は最初に違和感を覚えていた……。なら、あの時に逃げられたはずなんだ。

 自分自身の荒い呼吸がヘルメットの中に響く。異変を感知したテッドがヘルメット内の酸素濃度を少しばかり上昇させた。

 ――油断しなければ、無人機だという時点で……人が乗っていない時点で、気づけたはずだ、あの機動性も重装甲も予想できたはずだ、違うか?

 敵艦と並走しながら、セイルに付けられた可動式のレーザー機銃で応戦していたケントを援護しようと、メイフィールド少尉とアンデルセンが撃ったミサイルは、六発が命中した。
 それすら致命弾にはならなかったのは、いかに敵の装甲が厚かったかという事だ。結局敵艦にとどめを刺したのは『フリージアン』の放った二発の対艦ミサイルだった。

「クソっ」

 つぶやいてケントはうなだれた、今更考えても仕方がないことだというのはわかっている。

「ブルー・フォーを発見」

 平坦なテッドの声がして、メインディスプレイに真っ二つになったアリス機がスピンしながら離れていくのが映し出される。薄い装甲の小さな機体、真っ二つになったその中央に『ケイローン』のコックピットがあったはずだ。

「ブルー・ワン……救援の許可を……」
「ええ、許可します」

 損傷を見る限り絶望的だ、だからこそ母艦から救難命令も出ないのだろう。ケンタウルスⅤ周囲は清掃宙域だ。
 百年かけて掃除されたこの宙域には、清掃専門の業者が今も活動している、任せておけばそのうち回収されるに違いない。

 ――星屑デブリになっちまいやがって、馬鹿野郎が……。

 照れ笑いするそばかす面の少女の笑顔をケントは思い浮かべた。
 
 ――明日は我が身だ、そんなことは解っている。

「フリージアン管制コントロール、こちらブルー・ツー。フォーの救援に向かう」
「フリージアン管制コントロール了解した。ブルー・ワンとスリーは周囲の警戒を」

 要請に『フリージアン』の管制官が応えるのを聞きながら、ケントは小さくスラスターを吹かし、遠ざかってゆく熱い残骸へ向かって加速を開始した。

     §

「よっしゃーあ! 久しぶりの休暇だぜ、どうするケント? 六番街の飾り窓にでも繰り出すか?」

 部屋に置かれたモニターにケンタウルスⅢの姿が見えてきた途端、すっかり休暇気分のアンデルセンが、ケントの背中をバシバシと叩きながら楽しそうに言う。

「俺は……そうだな……とりあえず酒でも飲んで眠りたいよ」

 宇宙で生まれ、宇宙で育った人間が大半を占めるケント達だったが、それでも休暇は必要だ。おまけに、あの日から無人艦を使った攻撃が散発しており、気が休まる暇がなかった。

「まあな、とりあえずケンタウルスⅤに戦力を集めたおかげで休めるけど、今週は忙しかったもんなあ」

 アンデルセンののんきな声に、タフな奴だと思いながら肩をすくめる。酒も飲めない船内で緊張続きだ、アンデルセンと違いケントには自分がすり減っている自覚があった。

「じゃあな」
「ああ」

 『フリージア』が接弦すると、ケント達はカバン一つに身の回り品を詰めて艦を降りる。消耗品の補給と軽整備にかかる72時間が、ケント達に与えられた束の間の自由というわけだ。

「まあ気張りすぎても長生きできねえぜ、ケント。いや、マツオカ少尉・・殿」

 テンガロンハットのつばをチョイと押し上げて、ニヤリと笑うアンデルセンに力のない笑みを返して、ケントは小さくうなずく。
 幸か不幸か、あの日ケントが取った行動が責められる事はなく、未知の敵相手に近距離戦闘でデータを大量に得た事、身を挺してアリスを守ろうとしたことを理由に昇進を通達されていた。

 ――さて、とりあえず一度家にでも帰るか……。

「あらケント、街まで乗ってく?」

 港湾地区を出たところで、ケントはスクーターに乗ったメイフィールド少尉に呼び止められた。

「ああ、少尉。どうしたんです、そのスクーター」
「これ? 整備部の備品。黙って借りてきちゃった」

 あっさりと無茶を言って手招きする彼女に、ケントは小さくため息をつく、なるほど、共犯というわけだ。

「運転よろしく! それでねケント」
「なんです?」
「階級がタメになったから、セシリアでいいわよね?」

 かなわないな、と両手を上げて降参するケントにセシリアが声を上げて笑った。

「オーケイ。セシリア先任少尉、どこに行けば?」
「いじわるすると、口を利いてあげないんだから」
「それは困るな」

 右の眉を上げるケントに、セシリアが吹き出す。

「港湾地区のカフェ、『アークライト』ってわかる?」
「そこなら行きつけだ」
「とりあえず、そこに行って」

 スクーターにまたがったケントの腰にセシリアが手をまわして横座りする。背中に当たる彼女の体温にケントはドキリとした。

「ほら、早く出して、緊急発進《スクランブル》」

 そんな気持ちを知ってか知らずか、セシリアが少女のように声を上げて笑う。

「了解《ラージャ》」

 少しちぐはぐな二人を乗せ、モーターが小さくうなるとスクーターが走り出した。
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