グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯

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最後の六隻

押し寄せるはつぶて (2)

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 セシリアの声に、ケントはメインディスプレイの巡洋艦に目をやる。
 目標まで残り八分、拡大するまでもなくメインモニターの中でケンタウルスⅧが徐々に大きくなってきた。
 各機を結んだ戦術ディスプレイに進行状況が自動表示され、テッドが戦況を刻々と読みあげる。

「コンテナ、ブースター、フレイムアウト」

 愛想のない合成音声シンセボイスだが、こんなものでも付き合っていくうちに愛着がわいてくるのだから不思議なものだ。

「警告! 高エネルギー反応デス」

 テッドの声と同時に、ケンタウルスⅧの港湾外ブロックに、桟橋で繋がれた巡洋艦の主砲が火を噴いた。刹那、粒子砲パーティクル独特のきらめきがコンテナの編隊から三機を削り取る。

「フェーズワン、開始シマシタ」

 戦術ディスプレイには◇で示されたコンテナが二十一機、と、△で示された『ケイローン』二十四機、合計で四十三機が、ケンタウルスⅧめがけてまっしぐらに飛んで行くのが映っている。
 どこかのイカれた博士が作ったとかいう、機体全面を覆うプラズマの膜につつまれてしまえば、頼りになるのはカメラと光学センサ、そして各機体に備わったAIが処理して伝えてくる戦術情報インフォメーションだけだ。

「コンテナ爆破まで五秒デス」

 各機の間をレーザー通信が行き交う。時折、デブリに当たったレーザーが光を散らした。

「三、二、一」

 大加速して、三分先行していた無人コンテナが、回転しながらはじけ飛んだ。 二重の円陣を組むように並んでいたコンテナから飛び出した数千の岩塊が、散弾のようにケンタウルスⅧの港湾部めがけて飛んで行く。

「うわあ、えっぐいな」

 アンデルセンがうめくのも無理はない、港湾部全体を岩塊で押しつぶして封鎖するのがそもそもの作戦趣旨だ。 巡洋艦一隻で何とかなる物量ではない、迎撃に上がってきた戦闘機が蜘蛛の子を散らすように射線から逃げてゆく。

「着弾まで八十三秒デス」

 意図に気づいた巡洋艦が艦首のスラスターを全開にして桟橋を引きちぎり、人工の流星群に舳先を向ける。
 被弾面積を最小限に抑えれば……という一縷の望みにかけたのだろう。
 その判断と操船は見事なものだ、同時に、対空レーザーにミサイル、荷電粒子砲《パーティクル》ありとあらゆる火器が火を噴いた。

「第一飛行隊、攻撃開始シマシタ」

 だが、その奮戦を笑うようにテッドが宣言する。こうなると、抑揚の無いテッドの冷たい合成音声は死神の宣告そのものだ。
 ケント達から三〇秒ほど先行している第一小隊から十二発の対艦ミサイルが放たれ、隕石群の後を追う。
 対艦ミサイルが隕石群を追い越し、外装がが吹き飛ぶと六つの子弾に分解してさらに加速。
 重さ二〇キロのタングステン鋼を七十二本、秒速三六〇〇メートルまで加速して叩き込んだ。

「七発直撃」

 前方に展開した電磁シールドを力任せに貫かれ、幾重にも立ち上げた可動装甲板を吹き飛ばされた巡洋艦が断末魔の悲鳴をあげる。
 そのままグラリと姿勢を崩すと、雪崩のように襲い来る隕石群に押し流され、ケンタウルスⅧにたたきつけられた。

「第二次攻撃準備」

 こりゃ、第二飛行隊は戦果無しだな。そう思っていた矢先の言葉にケントは耳を疑った。もう十二分だ、敵艦は港湾部ごと岩塊に埋もれつつある。

「メイフィールド少尉! これ以上はコロニーを壊すだけだ中隊長を止めてくれ」
「わかってる! 何を考えてるのかしら中隊長は!」

 思わず口にしたケントの言葉に、セシリアの憤然とした声が返ってくる。くそっ、よりにもよって中隊長がトリガーハッピーとは……。撃てと言われれば撃つのが仕事だが、こんなバカげた話があるか。

     §

「それで、結局ケント達は撃ったの?」

 コテン、と延ばしたケントの脚をまくらにして転がると、シェリルがケントを見上げた。

「いや……結局それどころではなくなってな」
「なくなった?」
「ああ、港湾内にいるはずの駆逐艦が二隻、ケンタウルスⅧの外縁方向から現れた」
「それで?」

 んー……かわいらしいうめき声を漏らしながら、いいながら目を閉じて、シェリルがケントの脚にほほをすり寄せる。

 その二隻を沈めたあとで生き残っていたのは十三機、空母に積んできた一個大隊の海兵と、二時間たってやってきたフリゲート二隻でケンタウルスⅧはなんとか取り戻した。

「ケンタウルスⅧって、β宙域の一番端っこよね?」
「ああ、なのにあの駆逐艦はその端っこのまだ向こうから現れたんだ。その理由に、もっと早く誰かが気づいていたら……と、いまなら思うがな」
「そうしたら……きっと……少し戦争が長くなっただけじゃない?」

 もとより太陽系の市民が不満を訴えることが前提の戦略だ、時間がたてばたつほど相手には有利な戦争だった、それは間違いない。

「ああ、そうだな、どっちにしても負け戦だ」
「そうしたら、ケントもここに居なかったかも」
「ああ、そうかもな」

 そこで言葉を切り、拗ねたようにシェリルが視線をそらす。

「なら私は、今のままでいいな」
「そうか」
「うん」

 子供のころにしてやったように、金色の髪を指でといてやると、シェリルがくすぐったそうに体を丸めた。
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