上 下
44 / 66
赤竜の城塞

舞い降りるは純白 (2)

しおりを挟む

「いくぞ」

 足元に転がっていた水撃銃ジェットを拾って、ケントは後ろを振り返る。ワンボックスに転がっていた武器でそれぞれ武装した老兵達が、肘を小さく畳んだ海兵式の敬礼を返してよこした。

「おい、ミルドレッドがおらんぞ?」
「お嬢ちゃん、金髪のスカしたやつを見なかったか?」

 どこかやられたのか、片膝をついているクリスにケントは駆け寄った。

「すみません、油断を……首魁を取り逃がしてしまいました」
「いいさ、どうせ行き先は決まっている」

 武装を整えたケント達がクリスの援護に駆けつけたときには、八割がた勝負はついていた。車外で四人、車内で一人の営業部員がのびている。ケントに肩を撃たれ、車内でのたうち回っている一人を除く四人はクリスの手柄だ。

「大丈夫か?」

 メイド服のエプロンに丸い焦げ穴を見つけて、ケントはクリスの肩に手を伸ばした。

「左上腕の出力調整にもう二十秒ください、火薬式の銃なんて想定外で……申し訳ありません」

 そう言ってクリスがごそごそと胸元に手をやると、ひしゃげたホローポイント弾をつまみだす。クリスの手のひらで転がる鉛玉を見ながら、ケントはギリと奥歯を噛みしめた。

「すまない」
「どうしてマツオカ様が謝るんです?」
「いや、だがすまなかった」

 程なくしてエレベーターに電力が戻ると、数万クレジット分の生野菜サラダと共にケントたちは港湾区域に到着した。

集光レーザーライフルとエネパックが二本づつ、ちょっと頼りないですねえ」
「贅沢言うな、遅いとお嬢にどやされる」
「まあコレに頼るような事態になっていれば、こっちに勝ち目はないだろう」
「言うなよタナカ、我慢しとったのに」

 ケントが運転するワンボックスの後部座席で、総務部の老兵がタバコ片手に作戦会議と言う名の雑談を楽しそうに繰り広げている。

「マツオカさま、これをスカーレット様からお預かりしております」

 助手席でロングスカートの腿をたくし上げたクリスが、スカーレットの愛銃をホルスターごと外してケントに差し出した。

通信機コミュは?」

 バカでかい熱線銃ブラスターを受け取りながら、ケントはクリスに尋ねる。

「お主の宝物と交換してやるゆえ、さっさと助けにまいれ。と、伝言も承っております」
「そうか」

 その軽口を伝言できるくらいなら、スカーレットは負ける気がないと言うことだ。

「俺の場所はどうやって?」
「どうやって? マツオカさまのお腹の中の発振器ロケータを追いかけました、その後、倉庫でハッキングしたカメラでお姿を確認して……」

 そう言ってクリスがポケットからハンカチを出すと、ケントの額の傷口に手を伸ばす。

「大丈夫だ、ありがとう」

 右手を上げて押し留め、ケントは小さく笑ってみせる。

「ノエルが大層怒っておりました、マスターに酷いことをした人の顔は不揮発領域ぶっころすリストに記録したから、絶対に許さないとかなんとか」
「まあ、俺から言っておく、あいつは代わりに前歯がなくなったからおあいこだ」

 ノエルの事だ、あの見張りの若者の入院先で、医療マシンをハッキングして凄くひどい目に合わせるくらい朝飯前だ、やられた方はたまったもんじゃないだろうが。

「ノエルは?」
「もうそろそろ、お父様が組み上げる頃合いかと」
「そうか」

 事務所まであと五分というところで、ケント達は乗ってきたワンボックスを止め、無人トラックに乗り換えた。
 非常運転モードを立ち上げると、コンソールボックスからハンドルが生えてくる。スペックはノエルの方が上だというが、ドアノブに手をかけた途端にトラックをハッキングする姉の方も大したものだ。

「すごいな、お嬢ちゃん」
「ありがとうございます、褒めてもなんにもでませんよ?」
「いてて、まったまった、降参。タンマタンマ」
「踊り子にはお手を触れないでくださいまし?」

 クリスの尻をなでたグエンが義手を乗っ取られ、自分に自分でアイアンクローをキメるのを見て皆が爆笑する。

「じゃあ、手はず通りに頼む」
「ああ、任せたまえ」

 事務所までのカメラを片っ端からハッキングしたクリスが、運転席には誰も乗っていないという情報と映像を送り込む。
 もし見張りがいても直接見えない位置で、荷台からケントとクリスが降りると、事務所に向かって歩きだした。

「さて、行こうか」

 密閉式のプレハブ造りの事務所の前に二人、見張りが立っているのが見える。一人がこちらを見つけて指をさすのをみながらケントは小さくつぶやいた。

「たのむぜ、爺さんたち」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

閃光の果てに

kkk
SF
果てしなき軍拡。その先に見えるのは希望か絶望か。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

宇宙人に誘拐されたので暴れたら、UFOが壊れて剣と魔法の世界に不時着しました!?

雪野湯
ファンタジー
学校から帰宅途中の、外見清楚系・中身跳ねっ返りの女子中学生ユニ。 ユニは突然、研究素材として宇宙人に攫われた! 内臓を持っていかれちゃう? しかし彼女は、そんなことさせないと暴れに暴れて、UFOをぶっ壊し、見知らぬ星へ墜落。 落ちた場所は魔法が存在する世界。 そこで魔法を覚えたユニは宇宙人と協力し、UFOの修理道具を求めて星々を駆け巡り、地球への帰還を目指す……のだが、ユニはあちらこちらの星々で活躍してしまい、私たち地球人があずかり知れぬ宇宙で地球人の名を広めていく。 時に神の如き存在であり、時に勇猛果敢な戦士であり、時に恐怖を体現したかのような悪魔の一族として……。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

世界史嫌いのchronicle(クロニクル)

八島唯
SF
 聖リュケイオン女学園。珍しい「世界史科」を設置する全寮制の女子高。不本意にも入学を余儀なくされた主人公宍戸奈穂は、また不本意な役割をこの学園で担うことになる。世界史上の様々な出来事、戦場を仮想的にシミュレートして生徒同士が競う、『アリストテレス』システムを舞台に火花を散らす。しかし、単なる学校の一授業にすぎなかったこのシステムが暴走した結果...... ※この作品は『小説家になろう』『カクヨム』『ノベルアップ+』様にも掲載しております。 ※挿絵はAI作成です。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

処理中です...