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赤竜の城塞
与えられるは宝珠 (2)
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「スカーレット」
「なんじゃ?」
腕から通信機を外してスカーレットに手渡す。
「だから、なんじゃというておる」
不服そうな顔をする少女の頭に、ポンと手をおいてニコリと笑う。
「リディに雪梅を担がせて、三人で行け。自動運転車を見かけたら、こいつで連絡してノエルに乗っ取ってもらえ」
あくまで徹底抗戦とばかりに、老兵たち乗ってきたワンボックスに手榴弾を放り込む。派手な爆炎があがり、樹脂製ボディが黒煙をあげて燃え上がる。
「くっ」
眉を潜め、スカーレットが一瞬考え事をしてから、腿のホルスターに収められた熱線銃を引き抜くと、グリップにつけられた飾り緒の数珠を噛みちぎった。
「ケント、ちょっとかがめ」
狙いも定めず、細く絞った熱線を敵陣営に乱射しながら少女が笑う。なんだ? と、膝をついたケントに、スカーレットが唇を重ねてきた。
ヒュウ、とジジイのうちの一人から口笛が飛んでくるのをよそに、ケントの唇を割るようにして、少女の舌が丸い物体をケントの口の中に押し込んでくる。
「のみ込むがよい」
唇を離し、ケントを真っ直ぐに見つめてスカーレットがいう。真剣な少女の顔を見て、ケントは言われるまま、口の中の数珠を飲み込んだ。
「コレはかならず返す」
細い彼女の腕にはいささか大きすぎる通信機を、ブラウスの上からはめると、うなずくケントにニコリと笑ってスカーレットが熱線銃を構えた。
「全員無理はするな、ダメそうなら降参してもよい! 生き残れ!」
凛とした声で命令してから、一番手前のワンボックスに狙いを定め、緋色の姫君が置き土産だとばかりに一撃を叩き込む。
エネルギー切れだろう、会社の壁を吹き飛ばしたときほどの威力はないが、それでも赤竜公女の竜の吐息はワンボックスを半分吹き飛ばし、路面を焼いて爆炎をあげた。
§
それから二十五分、圧倒的な数の不利を実戦経験でカバーして、ケントたちは戦い続けていた。農業コロニーだったケンタウリⅡは、独立戦争当時、戦端を開くや真っ先に狙われ、敵の空間騎兵と守備隊の間で壮絶な市街戦が行われた場所だ。
「はっ! 青果市場事務所攻防戦に比べりゃ大したことないな、少尉」
グエンが笑いながら軽口を叩いて、分隊支援火器で敵を釘付けにする。
「少尉じゃねえ、部長だ。グエン主任」
軽口を返しながら、タナカ部長が放ったグレネードランチャーが、一番手前のワゴンを一台吹き飛ばした。
「いまのでラストだ、軍曹、残弾は?」
「エネパック二本と、グレネード二個、あと課長ですよ。タナカ部長」
ナカマツ課長が三点バーストで射撃、うかつに前にでた営業部員がひとり、足を撃たれて転げ回る。
「お前はホント優しいなナカマツ、若いの残弾は?」
「エネパックは無し、残り三発」
スコープに投影されたエネルギーゲージをちらりと見て、ケントは答えながら引鉄を引く。乗り捨てられたスクーターが爆煙を上げて吹き飛び、近くに居た営業部員が慌てて後ろに下がった。
「いい腕だ」
「どうも」
騒ぎを聞きつけた軍警察が、おっとり刀で駆けつけるまで持ちさえすれば、あとはスカーレットが話をつけてくれるだろう、そう踏んでの持久戦だ。
盾にしている装甲リムジンのボンネットが、敵弾をまったくもって寄せ付けないのもあって、とりあえずなんとかなりそうではある。
「やっとこさ来やがったぞ」
グエン主任の声に振り返ると、ケントたちの背後から青いランプを点滅させて、軍警察の装甲車が三台やってくるのが見えた。
「いつものことだが、お役所仕事でけっこうなこった」
軍警察に気がついたのか、営業部が動ける車に乗り込んでそそくさと撤退してゆくのを見て、タナカ部長がリムジンの影に座ってタバコに火をつけた。
「全員武器を置いて伏せろ、両手は後ろだ!!」
防弾服に身を包んだ一ダースばかりの兵士に囲まれ、ケントたちは指示に従う。後ろ手に手錠をはめられて乱暴に引き起こされたが、誰一人として抵抗する者はいなかった。少なくともコレで負けはない、そのはずだと信じていたからだ。
「やあ、諸君ご苦労さまだねえ」
だがその目論見は音を立てて崩れ落ちた。軍警察の兵士をかき分けて現れたのは、あろうことかミルドレット所長だった。
「っつ」
「軍警に知り合いがいるのは、なにも社長だけではないということですよ、ケント君でしたっけ?」
ニコリとミルドレッドが笑う。後ろ手に手錠をはめられ、両肩を二人の兵士に抑えられたケントのアゴに拳が叩き込まれる。
――クソッタレ
暗転する視界を感じながら、ケントは毒づいた。
「なんじゃ?」
腕から通信機を外してスカーレットに手渡す。
「だから、なんじゃというておる」
不服そうな顔をする少女の頭に、ポンと手をおいてニコリと笑う。
「リディに雪梅を担がせて、三人で行け。自動運転車を見かけたら、こいつで連絡してノエルに乗っ取ってもらえ」
あくまで徹底抗戦とばかりに、老兵たち乗ってきたワンボックスに手榴弾を放り込む。派手な爆炎があがり、樹脂製ボディが黒煙をあげて燃え上がる。
「くっ」
眉を潜め、スカーレットが一瞬考え事をしてから、腿のホルスターに収められた熱線銃を引き抜くと、グリップにつけられた飾り緒の数珠を噛みちぎった。
「ケント、ちょっとかがめ」
狙いも定めず、細く絞った熱線を敵陣営に乱射しながら少女が笑う。なんだ? と、膝をついたケントに、スカーレットが唇を重ねてきた。
ヒュウ、とジジイのうちの一人から口笛が飛んでくるのをよそに、ケントの唇を割るようにして、少女の舌が丸い物体をケントの口の中に押し込んでくる。
「のみ込むがよい」
唇を離し、ケントを真っ直ぐに見つめてスカーレットがいう。真剣な少女の顔を見て、ケントは言われるまま、口の中の数珠を飲み込んだ。
「コレはかならず返す」
細い彼女の腕にはいささか大きすぎる通信機を、ブラウスの上からはめると、うなずくケントにニコリと笑ってスカーレットが熱線銃を構えた。
「全員無理はするな、ダメそうなら降参してもよい! 生き残れ!」
凛とした声で命令してから、一番手前のワンボックスに狙いを定め、緋色の姫君が置き土産だとばかりに一撃を叩き込む。
エネルギー切れだろう、会社の壁を吹き飛ばしたときほどの威力はないが、それでも赤竜公女の竜の吐息はワンボックスを半分吹き飛ばし、路面を焼いて爆炎をあげた。
§
それから二十五分、圧倒的な数の不利を実戦経験でカバーして、ケントたちは戦い続けていた。農業コロニーだったケンタウリⅡは、独立戦争当時、戦端を開くや真っ先に狙われ、敵の空間騎兵と守備隊の間で壮絶な市街戦が行われた場所だ。
「はっ! 青果市場事務所攻防戦に比べりゃ大したことないな、少尉」
グエンが笑いながら軽口を叩いて、分隊支援火器で敵を釘付けにする。
「少尉じゃねえ、部長だ。グエン主任」
軽口を返しながら、タナカ部長が放ったグレネードランチャーが、一番手前のワゴンを一台吹き飛ばした。
「いまのでラストだ、軍曹、残弾は?」
「エネパック二本と、グレネード二個、あと課長ですよ。タナカ部長」
ナカマツ課長が三点バーストで射撃、うかつに前にでた営業部員がひとり、足を撃たれて転げ回る。
「お前はホント優しいなナカマツ、若いの残弾は?」
「エネパックは無し、残り三発」
スコープに投影されたエネルギーゲージをちらりと見て、ケントは答えながら引鉄を引く。乗り捨てられたスクーターが爆煙を上げて吹き飛び、近くに居た営業部員が慌てて後ろに下がった。
「いい腕だ」
「どうも」
騒ぎを聞きつけた軍警察が、おっとり刀で駆けつけるまで持ちさえすれば、あとはスカーレットが話をつけてくれるだろう、そう踏んでの持久戦だ。
盾にしている装甲リムジンのボンネットが、敵弾をまったくもって寄せ付けないのもあって、とりあえずなんとかなりそうではある。
「やっとこさ来やがったぞ」
グエン主任の声に振り返ると、ケントたちの背後から青いランプを点滅させて、軍警察の装甲車が三台やってくるのが見えた。
「いつものことだが、お役所仕事でけっこうなこった」
軍警察に気がついたのか、営業部が動ける車に乗り込んでそそくさと撤退してゆくのを見て、タナカ部長がリムジンの影に座ってタバコに火をつけた。
「全員武器を置いて伏せろ、両手は後ろだ!!」
防弾服に身を包んだ一ダースばかりの兵士に囲まれ、ケントたちは指示に従う。後ろ手に手錠をはめられて乱暴に引き起こされたが、誰一人として抵抗する者はいなかった。少なくともコレで負けはない、そのはずだと信じていたからだ。
「やあ、諸君ご苦労さまだねえ」
だがその目論見は音を立てて崩れ落ちた。軍警察の兵士をかき分けて現れたのは、あろうことかミルドレット所長だった。
「っつ」
「軍警に知り合いがいるのは、なにも社長だけではないということですよ、ケント君でしたっけ?」
ニコリとミルドレッドが笑う。後ろ手に手錠をはめられ、両肩を二人の兵士に抑えられたケントのアゴに拳が叩き込まれる。
――クソッタレ
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