グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯

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ガニメデの妖精

かわいいは正義 (2)

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「くそっ!」

 ケントが毒づいたその時。
 ドムン! 機動甲冑が現れたのと反対側の扉が吹き飛び、そこに人影が現れた。

「もう一機?」
「違う……、違うわ……あれは爺や……。 爺や! 私はここ! 助けて!!」

 ラーニアの声がホールに響いた。

「うぉおおおおおおおお」

 呼応するように周囲を圧する雄たけびをあげ、人影が掻き消える。次の瞬間、ケントたちと機動甲冑パワードスーツの間に、身の丈2メートルはあろうかという、執事服の男が立ちはだかった。

「遅くなりました、お嬢様」
「遅すぎるんだから、馬鹿執事!」

 ラーニアの声に、肩ごしにニヤリと笑うと、髭面に銀髪の大男が両手を広げ相手を挑発する。応えるように襲い掛かってくる鈍色の機械兵と組みあうと……あっさりと。そう、あっさりとコンクリートの床に機動甲冑パワードスーツを叩きつけた。

「やっちゃえ! クラウス」
「お任せあれ、お嬢様!」

 サイボーグなのか何なのか、剛力無双というしかないでたらめな力で、執事服の老人は機動甲冑投げ飛ばし、組みついて、金属製の関節を極めてへし折る。

「おい、あれはなんだ」
「うちの執事。ほらケント、さっさとアルフレッドの身柄押さえるわよ!」
「判った判った、ノエル、ラーニアを見ててやってくれ」
「はい!」

 笑顔でいい返事をするノエルを残して、ケントは小銃を拾って走り出した。

    §

 全てが片付き、出発の三〇分前、ケントは見送りに来たアンジェラを連れて、隣のドッグに係留された重装駆逐艦『ヴェノム』……旧名『ファラガット』を眺めていた。

「アンジェラ、一つ頼みがあるんだが」
「何かしら、マツオカ中尉」
「ケントでいい、できればこいつを前線に出すのはやめてくれないか?」
「どうして? これでもPMCなら使いようはあるのよ?」

 アンジェラの言葉に、ケントはかぶりを振った。

「俺がラファイエットの艦載機隊スクワッドの生き残りなのは知っているよな?」
「ええ、もちろん」
「艦には人が乗っている、旧式の機材をあるだけ集めて突っ込んだ最後の六隻ラスト・シックスで生き残ったヤツは、俺を合わせてたったの六十五人だった」
「……」

 何を言わんとするのかを察して、アンジェラがハッとするのを見て、ケントは小さくうなずいた。

「確かに……戦闘報告を見る限り、あなた達の助けがなければ、最新鋭艦には勝てなかったでしょうね」
「ああ、多分な」

 趣味で集める分には知ったことではない、だが警備艦に荷電粒子砲パーティクルを積んでいるような時代に、この老朽艦で対艦戦闘は無謀もいいところだ。

「いいわ、約束する、この子は前線にはできるだけ出さない」
「ああ、頼む、ラーニアと仲良くな」

 ケントは手すりから体を放すと、ジャケットを脱いでアンジェラに放り投げた。

「え、ちょっと?」
「やるよ、そいつなら駆逐艦と違って人死はでないだろ」

 目を丸くするアンジェラに片手を上げて、ケントは『フランベルジュ』に向かって歩き出す、船に戻ると、副操縦士席コ・パイでノエルが出港準備を整えていた。

「あれ、ジャケットはどうしたんですかマスター?」
「色々あってな」
「また浮気ですね? 浮気なんですね?」
「ノエル」
「知りません」

 水色の髪の少女が、ぷうと頬を膨らませてすねてみせた。

「優しいんですね」

 ウィン、と小さな音がしてカメラがこちらを向くと、スピーカーから声が流れた。

「どうかな、まあ、ファラガットとは腐れ縁だからな」

 数瞬後には、筐体ボディのノエルと艦載コンピューターのノエルの記憶は同期されるだろう。だがその少しの間に発せられた言葉の違いに、ケントは小さく笑う。

「システムチェック完了、オールグリーン、ガニメデ管制コントロール、こちらKSR-2フランベルジュ、出港許可をお願いします」

 エアロック開放五分前を知らせるサイレンが鳴り響いた。

「こちらガニメデ管制コントロール、出港を許可する、良い旅を」

 小さくスラスターを吹かせて封鎖突破船ブロッケードランナー『フランベルジュ』が星の海に向けて滑り出した。帰りの積荷は冷凍睡眠コールドスリープのかかった救命ポッドだ。

 途中で宇宙に放り出してほしい、そう頼まれた中身が一体何か? それを聞くのは野暮というものだ。
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