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ガニメデの妖精

かわいいは正義 (1)

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「それで、株主総会に乗り込んでどうするつもりだ?」
「全部を株主総会でお話しする」

 ニュースにでもなれば、市況の株価は暴落するだろうな……と思いながら、ケントはハタと膝を打った。

「あのロリババア、インサイダー取引じゃねえか……それであっさり日和ったのか……」
「そう、スカーレットさんが、暴落したら沢山買うからって、そのあと、少しくらい高くついても父さまが残してくださった資産を全部つぎ込んで、私が買い戻せば株の過半数くらいは……姉様?」
「はいはい、私と私の会社で出来ることは何とかしてあげるわ。お父様があなたに残したんだから」

    §

 正直、コトは拍子抜けするほどに事はあっさりと進んだ。アンジェラのPMCが警備員を無力化したところで、ラーニアが壇上にあがり、アルフレッドの悪事を洗いざらいぶちまけて糾弾をはじめる。

「勇気ある執事がいなければ、そして私を拾い上げた親切なパイロットがいなければ、私は今ここにはいなかったでしょう」
「うそだ! でたらめだ」

 武装した兵を連れて会場を制圧したにも関わらず、会場の空気は圧倒的にラーニア支持へと傾いていた。

「父さまだって、父さまだってきっと、きっとこの人が……」

 涙声のラーニアに会場が一斉にどよめくのを見て、ケントはアルフレッドが気の毒になる。

「かわいいは正義ね」

 うんうんとうなずくアンジェラに、ノエルがあいずちを打った。

「ええ、かわいいは正義です」

 ――女って怖いなおい……。

 だが、扉の外で銃声が響きわたり、ホール右側の搬入扉が吹き飛んだ所で事態は一変する。

「機動甲冑だ? さっきの入口に飾られていた試作品に誰か乗ってたってのか?!」
「ほんと、あのオッサン悪知恵だけは回るんだから、やんなっちゃう! 野郎ども! 撃ちまくれ!ファイア・アットウィル

 逃げ惑う参加者をよそに、アンジェラの部下たちが一斉に機動甲冑パワードスーツに銃弾を叩き込む。さすがに展示品だったからだろう、肩に載せられたリニアガンに装弾されてなかったのは救いだ。
 だが、地球圏の新型だけあって対物ライフル程度では複合装甲はびくともしない。派手に火花が上がり跳弾が飛びかう。

「ラーニア!」

 メキメキと音を立ててホールの椅子をへし折りながら、機動甲冑パワードスーツが壇上のラーニアに向かうのを見て、ケントとノエル、そしてアンジェラが同時にラーニアに向かって走り出した。
 壇上から飛び降りたラーニアもこちらに向かって走ってくる。バックパックから青い推進炎を吐いてジャンプした機動甲冑パワードスーツが、ラーニアの背後に降り立つと、腕を一振りする。

「きゃあっ!」

 とっさに身を投げ出したラーニアを鋼鉄の拳がかすめ、ホールの椅子がひしゃげる。もう一撃とばかりに腕を振り上げた機動甲冑パワードスーツの前に、疾風のようにノエルが滑り込んだ。

 ラーニアをつぶそうと、振り下ろされる機動甲冑の打撃をノエルが掌底で左右に受け流す、二度、三度。

「ラーニア、こっちだ」
「足が……足が挟まってぬけない……」

 整った顔を苦痛にゆがませて、ラーニアがケントに手を伸ばす。

「くそっ、ノエル、頼むぞ」
「任せてください!」

 自動小銃を放り出すと、ケントはひしゃげた椅子のフレームに高周波ナイフを押し当てる。
 耳障りな高い音がして火花を散らし、ナイフの刃がスチールのフレームに食い込んでいく。
 だが、三分の一ほど切ったところでバッテリーが切れた。

「アンジェラ!」
「ナイフなんて持ってきてないわよ!」

 それでも、ラーニアの足を挟み込んだフレームを広げようと、二人で肩を入れて持ち上げる。
 その間にも、パワードスーツの容赦ない打撃がノエルを襲い続けた。
 華奢な筐体《ボディ》で演算速度まかせに、ノエルが鋼鉄の拳を右に左に受け流し続けた。

「外れた!」

 なんとか引っ張り出し、ケントはラーニアを抱きかかえる。

「もういいから、ノエル、逃げて」

 ケントの腕の中で、ラーニアの悲鳴にも似た声が響いた。

「嫌です、ラーニアはお友達です! こんなガラクタ、あと二分もあれば乗っ取ってやれます!」

 ジリ、ジリと様子を見ながら下がるケントと機動甲冑パワードスーツの目があった。
 いくらノエルが相手の打撃のベクトルをそらすのが巧いとはいえ、質量では圧倒的に向こうが上だ。
 必死で押しとめようとするノエルを、その巨体で体で押しのけるようにして、銀色の軌道甲冑がこちらに向かって歩みを進めるのを見て、ケントは奥歯をギリとかみしめた。
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