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ガニメデの妖精

現れるはコレクター (2)

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「それで……あなたは誰なのかしら?」
 タラップの上でケントを囲んだ男たちに、銃を下ろすように合図しながら、クレーンのフックに足をかけ、上から降りてきたアンジェラがケントに問いかける。

「名前ならケントでいい、ラーニアに雇われた。仕事はしがない運送業者」
「報告だと、運送業者にしては、ずいぶんと大層なことをしてくれたようだけれど」
「大層なこと?」

 クスクスと腕の中で笑うラーニアにウィンクを一つ返して、ケントはとぼけてみせる。

「古いとはいえ、軍艦のFCSに割り込むなんて、普通ではないわね運送屋さん?」
「さあな、『ファラガット』の婆さんとは、腐れ縁だからな」

 ケントの言葉に、アンジェラは首を傾げる。

「元乗組員かしら? それにしては乗船がケンタウリ船籍というのが腑に落ちないわね」
「とりあえず、妹さんはちゃんと届けたってことで」
「いいわ、とりあえずその物騒なものを、そのおじさんに返しなさいラーニア」

 ――まだお兄さんのつもりなんだがな。
 思いながら、ケントはラーニアをおろすと愛銃を受け取ってホルスターに戻す。

「さて、ラーニア、カボチャの馬車はここまでだ」
「帰るの?」

 寂しそうに言うラーニアの前に膝をついて、ケントはうなずく。

「あとは、アドマイア生物学研究所に荷物を届けたら、俺の仕事はおしまいだからな」
「そう……」

 じゃあな、と立ち上がって手を上げたところで、ケントはアンジェラに呼び止められる。

「ちょっと待って、あなたそのジャケット、本物?」
「ん? ああ、そうだが」

 腕を上げて、そんなに珍しい物かとケントは旧軍のジャケットを見る。ケンタウリ星系では古着屋でも見かけるなんの変哲もないパイロットジャケットだ。

「そのワッペンも?」
「んん? ああ、そうだ」

 胸につけられたラファイエット艦載機隊スクワッドのワッペンを指差す彼女に、ケントはぶっきらぼうに返事をする。戦争の敵側の遺族……とかいうなら、めんどうくさいことになりかねない。

「ケント……? ねえ、ひょっとしてケント・マツオカ中尉?」
「?」

 懐かしい階級で呼ばれて、ケントは右の眉を上げた。

「やっぱり! ラーニアすごいわ、どうして言ってくれないの、最後の六隻ラスト・シックスの空母ラファイエットのパイロットじゃない!」

 突然の妙な雲行きにケントはラーニアの顔を見る。

「ケント、姉様は立体映画ホロシネマ最後の六隻ラスト・シックスの大ファン」
「ファン?」
「というより、マニア、博物館から駆逐艦を買うくらいに」

 とんでもないマニアも居たものだ。そう思いながら、困った顔をするラーニアにケントも苦笑いする。八年ほど前だろうか、映画が公開されたときには、暇なマニアに追いかけられたりしたものだが。すぐに飽きられてしまったのを覚えている。

「すごいわ! マツオカ中尉、本物に会えるなんて、研究所への荷物はうちの者に届けさせるから、このまま一緒に来て下さらない? お話が聞きたいの」

 映画ではずいぶん男前の俳優がやっていたのを覚えているが、実際はあんなにカッコいいものじゃない。ただ、政治家と軍部の意地に若い連中が使い潰された。あれは、そういうお話だ

「ケント、まだ手伝って欲しいことがある。スカーレットには私が報酬を払うから来て」

 はしゃぐ姉に困った顔をして、だが、少し嬉しそうにラーニアが言う。
 乗りかかった船……か、まあ報酬が出るならスカーレットも文句はないだろう。

「わかった、ラーニア、ノエルの事もなんとかなるか?」
「うん、姉さま、お友達がもうひとりいるの」
「ええ、ええ、一人や二人どうにでもなるから大丈夫よラーニア」

 子供のころ、宇宙軍のパイロットにあこがれていた俺も、あんな目をしていたのだろうか? 
 灼熱のレーザーが飛び交い、放り出されれば命はない暗闇を推進剤プロペラントの尾を引いて飛ぶ流れ星。

「わかった、とりあえず契約続行だ、ラーニア」
「よかった、ノエル、聞こえてるなら出てきて大丈夫」
『ほんとですか? すぐ行きます』

 弾んだノエルの声にケントは額を抑えながら、小さくうめいた。
 乗りかかった船ではあるがどうにも厄介ごとの予感しかしない……。
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