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ケンタウルスの亡霊

狩られるはアシカ (2)

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敵艦バンデッド機関停止、慣性航行に移行を確認」
「あっさりと決まるものだな」
「すごいです、マスター、よくこんなズルイ方法を思いつくものだと感心します」
「ありがとよ」

 ケントのような艦載機乗りたちが、太陽系星系軍の相手に使った手だ。艦載機ではECMの出力が足りず、おまけに複数の機体の連携が難しいので、当時はまぐれ当り以外、ほとんど上手く行くことは無かったが、ノエルにかかれば朝飯前と言ったところか……。

「あの、何か私、いけないことを言ったでしょうか?」

 死んだ連中を思い出したのが、顔にでたらしい。キュインと小さな音がして、コンソールに埋め込まれたカメラがケントを見つめる。

「いや、よくやった、ノエル、お前に頭がついてたら、撫でてやるところだ」
「ほんとですか? 約束ですよ?」

 はしゃぐノエルの声に、ケントはコンソールボックスをポンポンと叩く。

「ECMの角度を絞って出力を上げろ、敵の通信を押さえ込め」
「アイ」

 ここまで来て救難信号を出されてはかなわない、角度を絞ってECMの密度を上げると、ケントはフランベルジュをゆっくりと海驢号シブーチに近づけた。

     §

「ノエル、レーザー通信、文字情報テキストと音声回線、射程内に入ったらCIWSは潰せ」
「アイ・マスター、敵艦をクラックしても?」
「許可する」

 ゆっくりと船を近づけたところで、案の定、CIWSがこちらを向く。
 正確には、ピクリと動いた途端に、ノエルに潰された。

「てめえ、何もんだ!」

 響くダミ声はミハイルだろう。このごに及んで意気軒昂いきけんこうなあたり、なるほど荒くれ者揃いの鉱山ギルドの長だけのことはある。

「それはどうでもいいミハイル。要求はひとつ、ラグランジェⅡから持ちだした物の返還だ」
「てめえ、軍警察か?」

 ケントは答えの代わりに艦首レーザーの出力を絞ると、深緑に塗られた海驢シブーチ号の艦首でに描かれた海驢あしかのノーズアートを撃ちぬいた。

 ズン

 小さな炎を吐いて、ノーズアートの描かれた外板がはじけ飛ぶ。

「まて、まて、まて、金なら払う。こいつが売れれば大儲けだ、どうだ二割やろう」

 泡を食うミハイルを他所に、ケントはノエルに声をかける。

「どうだ相棒?」
「事務所と同じですね、旧式ポンコツです。この人たち頭に宇宙塵デブリでも詰まってるんでしょうか?」
「バージョンアップは大事だな」
「サブフレーム制圧、貨物コントロール把握」

 通信回線を通じて、海驢号シブーチの船内でブザーが鳴り響くのが聞こえてくる。

「何が起きた?」
「親方、コントロールがきかねえ! 貨物デッキのハッチが!」
「てめえ、何をしやがった!!」

 悲鳴にも似た乗組員の声に、ミハイルの怒号が混ざる。

「三十秒まってやれ」
「了解、敵艦バンデッドのメインフレームを完全制圧、カウントダウンを開始します」

 合成音声シンセボイスの冷たい声で、貨物デッキに退避勧告が流れ始める。

「クソッタレめ!! ダルコ達を貨物デッキから引き上げさせろ」

 ミハイルの声にケントも息を吐く。別に好き好んで真空中に人を放り出したいわけではない。

「敵艦、貨物デッキを確認。噴射装置付ブーストコンテナを発見。スキャン、反物質リアクターの反応を確認、反応炉の形式、一致」

 宇宙空間での荷物の受け渡しに使う噴射装置付ブーストコンテナにしまわれているなら、回収がやりやすくて済む。

「ノエル、さっさと回収するぞ」
「そうですねマスター、さっさと回収してお家にかえりましょう!」
「お……おう」

 下船すると寂しがるノエルにしては、珍しい事もあるものだと思いながら、ケントは『フランベルジュ』の貨物ハッチを開く。

「三十秒です、貨物ハッチ開きます、コンテナ操縦系に侵入、制圧」
「おいまて、制圧に二秒かからなかったぞ」
「大事なものを運ぶのに、十五年も前のセキュリティを使ってるのが信じられません、バカなんですかこの人たち」

 大型貨物を運ぶ貨物船らしく、船の背中部分がパカリと大きく開く。文字通り三十秒で開かれた貨物区域の空気と一緒に、工具だの何だのと細々した物が一斉に飛び出してくる。

「十五秒下さい、回収します」

 火花が上がってコンテナが切り離パージされ、こちらへと向かってくる。たった五回の噴射でベクトルを合わせると、磁気吸着マグネットワイヤーでノエルがコンテナを『フランベルジュ』に引っ張りこんだ。

「大したもんだ」
「えへへ、ホメられました」

 貨物がロックされ小さな振動が船を震わせる。ミイエルが口汚く罵る声を伝え続ける通信回線を切って、ケントは貨物ハッチのスイッチに手をかけた。
 途端、フランベルジュの発信するECMをはるかに上回る出力でレーダー波が叩きつけられ、警報アラートがなった。

「くそっ!」

 叫びながら、ケントは艦首スラスターを全開にしてスロットルを叩きつける。粒子砲の光芒に貫かれて、背後で海驢号シブーチが爆散、衝撃波が『フランベルジュ』を襲う。

「全周探査、発見! メリクリウス級高速戦艦です!!」
「損害報告!」

 ノエルに叫びながら、ケントはフルブーストをかけて『フランベルジュ』の艦首をめぐらせる。大圏内航空機エアクラフトの宙返りのように輪を描いた『フランベルジュ』を、ケントは迷わずステンガルド岩礁に飛び込ませた。

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