グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯

文字の大きさ
上 下
12 / 66
ケンタウルスの亡霊

狩られるはアシカ (2)

しおりを挟む
敵艦バンデッド機関停止、慣性航行に移行を確認」
「あっさりと決まるものだな」
「すごいです、マスター、よくこんなズルイ方法を思いつくものだと感心します」
「ありがとよ」

 ケントのような艦載機乗りたちが、太陽系星系軍の相手に使った手だ。艦載機ではECMの出力が足りず、おまけに複数の機体の連携が難しいので、当時はまぐれ当り以外、ほとんど上手く行くことは無かったが、ノエルにかかれば朝飯前と言ったところか……。

「あの、何か私、いけないことを言ったでしょうか?」

 死んだ連中を思い出したのが、顔にでたらしい。キュインと小さな音がして、コンソールに埋め込まれたカメラがケントを見つめる。

「いや、よくやった、ノエル、お前に頭がついてたら、撫でてやるところだ」
「ほんとですか? 約束ですよ?」

 はしゃぐノエルの声に、ケントはコンソールボックスをポンポンと叩く。

「ECMの角度を絞って出力を上げろ、敵の通信を押さえ込め」
「アイ」

 ここまで来て救難信号を出されてはかなわない、角度を絞ってECMの密度を上げると、ケントはフランベルジュをゆっくりと海驢号シブーチに近づけた。

     §

「ノエル、レーザー通信、文字情報テキストと音声回線、射程内に入ったらCIWSは潰せ」
「アイ・マスター、敵艦をクラックしても?」
「許可する」

 ゆっくりと船を近づけたところで、案の定、CIWSがこちらを向く。
 正確には、ピクリと動いた途端に、ノエルに潰された。

「てめえ、何もんだ!」

 響くダミ声はミハイルだろう。このごに及んで意気軒昂いきけんこうなあたり、なるほど荒くれ者揃いの鉱山ギルドの長だけのことはある。

「それはどうでもいいミハイル。要求はひとつ、ラグランジェⅡから持ちだした物の返還だ」
「てめえ、軍警察か?」

 ケントは答えの代わりに艦首レーザーの出力を絞ると、深緑に塗られた海驢シブーチ号の艦首でに描かれた海驢あしかのノーズアートを撃ちぬいた。

 ズン

 小さな炎を吐いて、ノーズアートの描かれた外板がはじけ飛ぶ。

「まて、まて、まて、金なら払う。こいつが売れれば大儲けだ、どうだ二割やろう」

 泡を食うミハイルを他所に、ケントはノエルに声をかける。

「どうだ相棒?」
「事務所と同じですね、旧式ポンコツです。この人たち頭に宇宙塵デブリでも詰まってるんでしょうか?」
「バージョンアップは大事だな」
「サブフレーム制圧、貨物コントロール把握」

 通信回線を通じて、海驢号シブーチの船内でブザーが鳴り響くのが聞こえてくる。

「何が起きた?」
「親方、コントロールがきかねえ! 貨物デッキのハッチが!」
「てめえ、何をしやがった!!」

 悲鳴にも似た乗組員の声に、ミハイルの怒号が混ざる。

「三十秒まってやれ」
「了解、敵艦バンデッドのメインフレームを完全制圧、カウントダウンを開始します」

 合成音声シンセボイスの冷たい声で、貨物デッキに退避勧告が流れ始める。

「クソッタレめ!! ダルコ達を貨物デッキから引き上げさせろ」

 ミハイルの声にケントも息を吐く。別に好き好んで真空中に人を放り出したいわけではない。

「敵艦、貨物デッキを確認。噴射装置付ブーストコンテナを発見。スキャン、反物質リアクターの反応を確認、反応炉の形式、一致」

 宇宙空間での荷物の受け渡しに使う噴射装置付ブーストコンテナにしまわれているなら、回収がやりやすくて済む。

「ノエル、さっさと回収するぞ」
「そうですねマスター、さっさと回収してお家にかえりましょう!」
「お……おう」

 下船すると寂しがるノエルにしては、珍しい事もあるものだと思いながら、ケントは『フランベルジュ』の貨物ハッチを開く。

「三十秒です、貨物ハッチ開きます、コンテナ操縦系に侵入、制圧」
「おいまて、制圧に二秒かからなかったぞ」
「大事なものを運ぶのに、十五年も前のセキュリティを使ってるのが信じられません、バカなんですかこの人たち」

 大型貨物を運ぶ貨物船らしく、船の背中部分がパカリと大きく開く。文字通り三十秒で開かれた貨物区域の空気と一緒に、工具だの何だのと細々した物が一斉に飛び出してくる。

「十五秒下さい、回収します」

 火花が上がってコンテナが切り離パージされ、こちらへと向かってくる。たった五回の噴射でベクトルを合わせると、磁気吸着マグネットワイヤーでノエルがコンテナを『フランベルジュ』に引っ張りこんだ。

「大したもんだ」
「えへへ、ホメられました」

 貨物がロックされ小さな振動が船を震わせる。ミイエルが口汚く罵る声を伝え続ける通信回線を切って、ケントは貨物ハッチのスイッチに手をかけた。
 途端、フランベルジュの発信するECMをはるかに上回る出力でレーダー波が叩きつけられ、警報アラートがなった。

「くそっ!」

 叫びながら、ケントは艦首スラスターを全開にしてスロットルを叩きつける。粒子砲の光芒に貫かれて、背後で海驢号シブーチが爆散、衝撃波が『フランベルジュ』を襲う。

「全周探査、発見! メリクリウス級高速戦艦です!!」
「損害報告!」

 ノエルに叫びながら、ケントはフルブーストをかけて『フランベルジュ』の艦首をめぐらせる。大圏内航空機エアクラフトの宙返りのように輪を描いた『フランベルジュ』を、ケントは迷わずステンガルド岩礁に飛び込ませた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

処理中です...