14 / 26
Case1「勇者によるスー一族強盗殺人、及びトゥステラー領占領事件」
「キキさんの特訓は、遠慮も容赦もなかったです」
しおりを挟む
「食事も終わって2時間……そろそろ消化も終わっただろうし、
本格的な訓練を始めようか」
「はい! よろしくお願いします!」
私は昨日と同じように小屋の外へ出て特訓を始めます。
すると、魔王様は頑丈そうな皮手袋を私に渡したのでした。
「……えーと? これは?」
「魔獣の皮をなめして作ったグローブだよ。
頑丈でしなやかにフィットする特別製。
本格的な訓練用に先にプレゼントしておくよ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ、今日から君を訓練するパートナーを紹介するよ。
キキーモラ!」
魔王様がそう言うと、小屋の中からガタゴトと言う物音がします。
そして、しばらくした後にガチャリと扉を開けて、彼女が姿を現したのでした。
「ひっ……!?」
私はその姿に思わず悲鳴が漏れていました。
そこに居たのは、余りにも不気味な人型の生物でした。
巨大な毛玉のような頭部の右目にはとても大きな複眼が備わっていました。
人間で言う鼻に位置する箇所には単眼が3つあり、
顔の左側は薄汚れたボロボロのとんがり帽子で覆い隠されていました。
頭部の右側からは腕の様に太い虫のような足が3本、丸めたように構えられており、
顔の端から端まで三日月の様に大きな口が「ニタァ」っと開かれていました。
その一方、首から下は枯れ木の様にガリガリとやせ細っており、
ボロボロのドレスのような薄汚れた衣服をまとっていました。
右腕は右側の頭部と同じように虫に似た細長い指が伸びており、
左手は爪が伸びたネズミのような手になっていました。
足元だけは奇麗なかわいらしい革靴を履いていましたけど、
全体的に蜘蛛を頭部代わりにした人間にも見える不気味な怪物がそこに居たのでした。
「キキキキ……やーっト、お待ちかネ」
私がキキーモラと呼ばれたその存在に脅えている一方、
キキーモラさんは待ちわびていたような声を上げていました。
そして、その声を聴いて私は今朝聞こえた声だという事に気づいたのでした。
「あ、その声……今朝の」
「キキッ! それじゃあここデ、自己紹介」
キキーモラさんは、そのアンバランスな体勢のせいなのか
歩くたびに頭をふらふらとさせながらこちらへ近づいてきます。
その挙動も不気味な外見と相まって、恐ろしさをさらに醸し出すのでした。
その一方、キキーモラさんはふらふらとした足取りで外へ出なからこちらへ近づくと、ドレスのような服のすそを摘まみながらぺこりとお辞儀をしたのです。
「この小屋の管理を任されていル、キキーモラ言いまス。
『強欲』の陛下よリ、貴女が滞在している間、
ボディーガードと特訓相手、お掃除ヲ任されてまス。
仲良くしましょうネ? キキキキ……!」
「え? あ、はい……わ、わかりました。
よ、よろしくお願いします」
私は最初、キキーモラさんの不気味な外見に恐怖感を抱いていましたが、
丁寧な挨拶をするキキーモラさんの姿を見てその恐怖感は和らいでいました。
私も同じようにお辞儀をして返事をすると、
魔王様は手を二回鳴らして説明を始めていました。
「挨拶も終わったし訓練の内容を説明しようか。
まぁ簡単に言えばスパーリングだね。
そのグローブをはめて、キキーモラの攻撃を弾いていなす。
転生屍者の攻撃を受け流すことで、無力化させるって事だね」
「あい。
ではメアリー、早速始めましょウ」
「は、はい! よろしくお願いします。キキさん!」
魔王様の説明を受けた後、私とキキーモラさんは戦闘準備の構えました。
そして、私はキキーモラさんへ親しみを込めてキキさんと呼ぶことにしました。
「……キキさん?」
「……キキさン?」
「え? あ、はい。
これから一緒に暫く暮らすことになるので、
呼び捨てもあれだと思ったので……い、嫌でしたか?」
「……らしいけど、君はどう思う? キキさん」
私がキキさんと呼ぶことにした経緯を聞いて、
魔王様はキキさんを見やりながらそう尋ねました。
肝心のキキさんはと言うと、体をブルブルと震わせていましたが、
その口を大きく開いて「ニヤァ」と笑みを浮かべているようでした。
「キキ……! キキキキ……!
キキさン。私はキキさン。
キキキキキ……ッ!」
「え、えーと……?」
「あい。それで構いませんヨ。
それじゃあ、訓練を始めましょウ」
「は、はい!」
「それじゃあまずハ、軽~いジャブかラ」
キキさんはそう言うと、頭部の右側で丸まっていた蜘蛛の脚を1本伸ばして
私へ向けて鋭い先端を突きとして放ってきたのでした。
「ひゃっ……!」
昨日の泡と違って、鋭い風切り音を伴う直接的な攻撃。
私が思わず避けると、キキさんは少し怒りながら言葉を放ちます。
「避けちゃあ駄目駄目でス。
見切っていなさないト……!」
そう言って、キキさんはもう一本の蜘蛛の脚を伸ばして、
体勢の崩れていた私の眼前で寸止めをしたのでした。
よく見れば、脚の先端には黒く鋭い爪が生えていました。
本当に殺すつもりだったら、私の頭を砕いていたのは容易に想像できました。
「こんな風ニ、追撃でお陀仏でス!」
「は、はい……!
すみませんでした……」
「あい。
では次からハちゃーんと受け流しましょウ」
そう言いながら、仕切り直しをして私達はスパーリングを再開します。
最初こそキキさんの脚の攻撃に
おっかなびっくりに及び腰で攻撃を受けていましたが、
段々と目が慣れてきたのか、10分も経った頃には
その攻撃をいなせるようになっていました。
「おォ、陛下も言っていた通リ、呑み込みが早いですねェ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「では2本同時で始めますヨ!」
「へ?」
キキさんは私が慣れてきた事を確認すると、
2本目の脚を伸ばして同時に攻撃を行ってきます。
「うわっ、うわわわっ!
ちょ、ちょっと待っ……!」
慣れたとは言え、1本だけでも精一杯だったのに
2本に増えたことで私はその攻撃を捌くのに精いっぱいになりました。
「うんうん。
やっぱり『眼』が良いからか、呑み込みが早いね。
じゃあキキさん、そのまま特訓続けてね」
「あい」
「ふぇっ!? ま、魔王様!?」
私がキキさんの攻撃を捌きながら声をあげると、
魔王様は苦笑しながら言葉を続けました。
「こう見えて忙しい身でね。
つきっきりで面倒見れるのは明後日までなんだよね。
大丈夫大丈夫。色々とやれるだけの手を打ってあげるよ。
その一つとして、美味しいお昼ご飯用意してあげるから
しっかり運動しておなか減らしておいてね?」
魔王様はそう言って、後ろ手で手を振りながら扉を閉めて小屋に戻りました。
「キキキキ……。
それでハ、もっとお腹を空かせましょウ。
三本目、行きますヨ?」
「ま、ままま待ってくださいキキさん!
私、まだ心の準備が……!」
「問・答・無・用!」
「ひ、ひやぁああああああっ!!!」
キキさんの特訓は、遠慮も容赦もなかったです。
私は魔王様がお昼ごはんとして呼びかけてくるまでの間、
キキさんの三本の脚の攻撃を捌き続ける羽目になったのでした。
―◆
「うぅー……う、腕が痛いです……!」
朝からお昼までの特訓で汗だくになっていた私は、
小屋の中のシャワー室で汗を流した後に、
着替えを終えて魔王様が準備してくれた食卓に座りました。
ですが、朝からの特訓で私の両腕は筋肉が痙攣していました。
「キキさん、君の呑み込みが早いから張り切っちゃったみたいだね。
さ、特訓の後はおいしい食事をして、体をしっかり休めようね」
そう言いながら、魔王様は鶏肉の間にチーズと何かしらのハーブを挟んで焼いた料理を前菜の様に差し出してきました。
「い、いただきます」
お腹が空いていた私は、そう言いながらパクリと一口食べました。
鶏肉とチーズの濃厚な風味の中に、ハーブの爽やかな香りが鼻腔をくすぐるとてもおいしい一品でした。
「ほ、ほいひいふぇふ……!」
「それは良かった。
トレーニングした後はタンパク質をしっかりとらないといけないからね。
もうすぐワイルドライスが炊き上がるから、
それを付け合わせに一緒に食べるとさらにおいしく食べれると思うよ」
「そ、それは確かに美味しそうですね……!」
魔王様が作る料理は素朴でありながら、
私の身体の事と栄養バランスを考えて作られていました。
その心遣いに私は感謝しかありませんでしたが、
ふと、ある疑問がわいたのでその疑問を彼に尋ねたのでした。
「それにしても、魔王様はどうしてこうも料理がお上手なのですか?」
「そりゃあ『毒殺』や『飼い殺し』の技量を上げるためだよ。
基礎スペックが足りなくて口を付けてすらもらえないとか、本末転倒だしね。
まぁ森人は薬品の調合とかも生業にしている奴が多いから、
スパイスの利かせ方も心得ているよ。
……その中にこっそり、美味しい毒を仕込んじゃって
それが『最後の晩餐』なーんてことも……ね?」
「……そ、そうでしたか」
魔王様の料理がおいしかった理由に少し驚いてしまいましたが、
彼の表情から少なくとも私に対してはそう言った害意を見せていないことは確かでした。
「さ、つまらない話はここでおしまい。
ワイルドライスも炊けたことだし、ちゃんと食べなよ」
―◆
「ふぅ……これでお終いですか」
私はお昼ご飯を食べ終えた後、これからこの小屋での自炊をするために、
魔王様から洗濯や炊事などを教わっていました。
汗だくになっていた服を全て干し終えると、後ろから拍手の音が聞こえました。
「キキキキ。お上手お上手」
「あ、キキさん」
振り返るとそこにはキキさんが、
私が洗濯を終えた姿を見て笑みを浮かべていました。
「朝の訓練の後ニ、家事を行うのハ堪えたでしょウ?」
「そ、そうですね。
腕もそうですけど、背中や足も痛みまして……」
「筋肉が悲鳴を上げていますネ。
修復して強い筋肉を作るための下地でス。
バランスの良い食事を食べテ、質を高めましょウ。
まぁ今日ハ、このまま休息をしましょうネ」
「は、はい……。わかりました」
私はそう言いながら、ふと、ある疑問が浮かんだのでした。
「そういえばキキさん、
朝もお昼もお食事に来ませんでしたがどうしてですか?
折角でしたら一緒に食べれると思ったのですが」
「キキキキ……それは無理なのでス。
私達キキーモラハ、『妖精』とも言われることもありますガ、
本来ハ、『付喪神』と呼ばれる分類の『妖怪』に近いのでス」
「よ、妖精じゃなくて妖怪さんなのですか……」
私がキキさん……いえ、キキーモラと言う種族の正体に驚くと、
キキさんは嬉しそうに「ニィ」と笑みながら
自らの種族の特徴に関して話を続けていました。
「あい。
そしてキキーモラハ、人間が家に放置したゴミから生まれた存在なのデ
私達のご飯はゴミなのでス。だからあなた達と一緒ニ同じ食卓は囲めませんヨ。
私たちがもシ料理や水に触れたラ、そこから疫病に蝕まれるのでス」
「あ、もしかして魔王様が私に炊事や洗濯を教えているのって……!」
「キキキ。
貴女がさぼっテ私が『うっかリ』、『良かれと思っテ』
水場のお手伝いなんてしちゃったラ……。
疫病に蝕まれテ、病気でぽっくリ。お陀仏でス」
「そう、でしたか……確かに、それは残念ですね」
「キキキキ。
そノお心遣いだけで十分でス。
キキーモラはさぼる怠け者ハ嫌いですガ、
あなたみないナ綺麗好きハ大好きなのでス。
水回り以外のお掃除ハ、私にお任せヲ」
「キキさん……」
キキさんはその巨大な頭を少し傾けながら、「ニコッ」と笑みを浮かべていました。
私も彼女につられて笑みを浮かべたのですが、再びある疑問が浮かんだのでした。
「……朝の特訓でキキさんの脚に掠っていたら、
私、もしかしなくても病気になってたりしてたのですか?」
私がそうキキさんに問いかけると、
キキさんは口を大きく開いて「ニタァ」と笑いながら答えました。
「キキッ、キキキキキ!
大丈夫大丈夫。経口摂取が一番危ないだけなのデ……。
解毒の魔法さえあれば問題ないですヨ?」
「そ、それって根本的な危険度はそのままじゃないですかー!!」
私の叫び声が響く中、
キキさんは「キキキキ」ととても愉快そうな笑い声をあげていたのでした。
本格的な訓練を始めようか」
「はい! よろしくお願いします!」
私は昨日と同じように小屋の外へ出て特訓を始めます。
すると、魔王様は頑丈そうな皮手袋を私に渡したのでした。
「……えーと? これは?」
「魔獣の皮をなめして作ったグローブだよ。
頑丈でしなやかにフィットする特別製。
本格的な訓練用に先にプレゼントしておくよ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ、今日から君を訓練するパートナーを紹介するよ。
キキーモラ!」
魔王様がそう言うと、小屋の中からガタゴトと言う物音がします。
そして、しばらくした後にガチャリと扉を開けて、彼女が姿を現したのでした。
「ひっ……!?」
私はその姿に思わず悲鳴が漏れていました。
そこに居たのは、余りにも不気味な人型の生物でした。
巨大な毛玉のような頭部の右目にはとても大きな複眼が備わっていました。
人間で言う鼻に位置する箇所には単眼が3つあり、
顔の左側は薄汚れたボロボロのとんがり帽子で覆い隠されていました。
頭部の右側からは腕の様に太い虫のような足が3本、丸めたように構えられており、
顔の端から端まで三日月の様に大きな口が「ニタァ」っと開かれていました。
その一方、首から下は枯れ木の様にガリガリとやせ細っており、
ボロボロのドレスのような薄汚れた衣服をまとっていました。
右腕は右側の頭部と同じように虫に似た細長い指が伸びており、
左手は爪が伸びたネズミのような手になっていました。
足元だけは奇麗なかわいらしい革靴を履いていましたけど、
全体的に蜘蛛を頭部代わりにした人間にも見える不気味な怪物がそこに居たのでした。
「キキキキ……やーっト、お待ちかネ」
私がキキーモラと呼ばれたその存在に脅えている一方、
キキーモラさんは待ちわびていたような声を上げていました。
そして、その声を聴いて私は今朝聞こえた声だという事に気づいたのでした。
「あ、その声……今朝の」
「キキッ! それじゃあここデ、自己紹介」
キキーモラさんは、そのアンバランスな体勢のせいなのか
歩くたびに頭をふらふらとさせながらこちらへ近づいてきます。
その挙動も不気味な外見と相まって、恐ろしさをさらに醸し出すのでした。
その一方、キキーモラさんはふらふらとした足取りで外へ出なからこちらへ近づくと、ドレスのような服のすそを摘まみながらぺこりとお辞儀をしたのです。
「この小屋の管理を任されていル、キキーモラ言いまス。
『強欲』の陛下よリ、貴女が滞在している間、
ボディーガードと特訓相手、お掃除ヲ任されてまス。
仲良くしましょうネ? キキキキ……!」
「え? あ、はい……わ、わかりました。
よ、よろしくお願いします」
私は最初、キキーモラさんの不気味な外見に恐怖感を抱いていましたが、
丁寧な挨拶をするキキーモラさんの姿を見てその恐怖感は和らいでいました。
私も同じようにお辞儀をして返事をすると、
魔王様は手を二回鳴らして説明を始めていました。
「挨拶も終わったし訓練の内容を説明しようか。
まぁ簡単に言えばスパーリングだね。
そのグローブをはめて、キキーモラの攻撃を弾いていなす。
転生屍者の攻撃を受け流すことで、無力化させるって事だね」
「あい。
ではメアリー、早速始めましょウ」
「は、はい! よろしくお願いします。キキさん!」
魔王様の説明を受けた後、私とキキーモラさんは戦闘準備の構えました。
そして、私はキキーモラさんへ親しみを込めてキキさんと呼ぶことにしました。
「……キキさん?」
「……キキさン?」
「え? あ、はい。
これから一緒に暫く暮らすことになるので、
呼び捨てもあれだと思ったので……い、嫌でしたか?」
「……らしいけど、君はどう思う? キキさん」
私がキキさんと呼ぶことにした経緯を聞いて、
魔王様はキキさんを見やりながらそう尋ねました。
肝心のキキさんはと言うと、体をブルブルと震わせていましたが、
その口を大きく開いて「ニヤァ」と笑みを浮かべているようでした。
「キキ……! キキキキ……!
キキさン。私はキキさン。
キキキキキ……ッ!」
「え、えーと……?」
「あい。それで構いませんヨ。
それじゃあ、訓練を始めましょウ」
「は、はい!」
「それじゃあまずハ、軽~いジャブかラ」
キキさんはそう言うと、頭部の右側で丸まっていた蜘蛛の脚を1本伸ばして
私へ向けて鋭い先端を突きとして放ってきたのでした。
「ひゃっ……!」
昨日の泡と違って、鋭い風切り音を伴う直接的な攻撃。
私が思わず避けると、キキさんは少し怒りながら言葉を放ちます。
「避けちゃあ駄目駄目でス。
見切っていなさないト……!」
そう言って、キキさんはもう一本の蜘蛛の脚を伸ばして、
体勢の崩れていた私の眼前で寸止めをしたのでした。
よく見れば、脚の先端には黒く鋭い爪が生えていました。
本当に殺すつもりだったら、私の頭を砕いていたのは容易に想像できました。
「こんな風ニ、追撃でお陀仏でス!」
「は、はい……!
すみませんでした……」
「あい。
では次からハちゃーんと受け流しましょウ」
そう言いながら、仕切り直しをして私達はスパーリングを再開します。
最初こそキキさんの脚の攻撃に
おっかなびっくりに及び腰で攻撃を受けていましたが、
段々と目が慣れてきたのか、10分も経った頃には
その攻撃をいなせるようになっていました。
「おォ、陛下も言っていた通リ、呑み込みが早いですねェ!」
「は、はい! ありがとうございます!」
「では2本同時で始めますヨ!」
「へ?」
キキさんは私が慣れてきた事を確認すると、
2本目の脚を伸ばして同時に攻撃を行ってきます。
「うわっ、うわわわっ!
ちょ、ちょっと待っ……!」
慣れたとは言え、1本だけでも精一杯だったのに
2本に増えたことで私はその攻撃を捌くのに精いっぱいになりました。
「うんうん。
やっぱり『眼』が良いからか、呑み込みが早いね。
じゃあキキさん、そのまま特訓続けてね」
「あい」
「ふぇっ!? ま、魔王様!?」
私がキキさんの攻撃を捌きながら声をあげると、
魔王様は苦笑しながら言葉を続けました。
「こう見えて忙しい身でね。
つきっきりで面倒見れるのは明後日までなんだよね。
大丈夫大丈夫。色々とやれるだけの手を打ってあげるよ。
その一つとして、美味しいお昼ご飯用意してあげるから
しっかり運動しておなか減らしておいてね?」
魔王様はそう言って、後ろ手で手を振りながら扉を閉めて小屋に戻りました。
「キキキキ……。
それでハ、もっとお腹を空かせましょウ。
三本目、行きますヨ?」
「ま、ままま待ってくださいキキさん!
私、まだ心の準備が……!」
「問・答・無・用!」
「ひ、ひやぁああああああっ!!!」
キキさんの特訓は、遠慮も容赦もなかったです。
私は魔王様がお昼ごはんとして呼びかけてくるまでの間、
キキさんの三本の脚の攻撃を捌き続ける羽目になったのでした。
―◆
「うぅー……う、腕が痛いです……!」
朝からお昼までの特訓で汗だくになっていた私は、
小屋の中のシャワー室で汗を流した後に、
着替えを終えて魔王様が準備してくれた食卓に座りました。
ですが、朝からの特訓で私の両腕は筋肉が痙攣していました。
「キキさん、君の呑み込みが早いから張り切っちゃったみたいだね。
さ、特訓の後はおいしい食事をして、体をしっかり休めようね」
そう言いながら、魔王様は鶏肉の間にチーズと何かしらのハーブを挟んで焼いた料理を前菜の様に差し出してきました。
「い、いただきます」
お腹が空いていた私は、そう言いながらパクリと一口食べました。
鶏肉とチーズの濃厚な風味の中に、ハーブの爽やかな香りが鼻腔をくすぐるとてもおいしい一品でした。
「ほ、ほいひいふぇふ……!」
「それは良かった。
トレーニングした後はタンパク質をしっかりとらないといけないからね。
もうすぐワイルドライスが炊き上がるから、
それを付け合わせに一緒に食べるとさらにおいしく食べれると思うよ」
「そ、それは確かに美味しそうですね……!」
魔王様が作る料理は素朴でありながら、
私の身体の事と栄養バランスを考えて作られていました。
その心遣いに私は感謝しかありませんでしたが、
ふと、ある疑問がわいたのでその疑問を彼に尋ねたのでした。
「それにしても、魔王様はどうしてこうも料理がお上手なのですか?」
「そりゃあ『毒殺』や『飼い殺し』の技量を上げるためだよ。
基礎スペックが足りなくて口を付けてすらもらえないとか、本末転倒だしね。
まぁ森人は薬品の調合とかも生業にしている奴が多いから、
スパイスの利かせ方も心得ているよ。
……その中にこっそり、美味しい毒を仕込んじゃって
それが『最後の晩餐』なーんてことも……ね?」
「……そ、そうでしたか」
魔王様の料理がおいしかった理由に少し驚いてしまいましたが、
彼の表情から少なくとも私に対してはそう言った害意を見せていないことは確かでした。
「さ、つまらない話はここでおしまい。
ワイルドライスも炊けたことだし、ちゃんと食べなよ」
―◆
「ふぅ……これでお終いですか」
私はお昼ご飯を食べ終えた後、これからこの小屋での自炊をするために、
魔王様から洗濯や炊事などを教わっていました。
汗だくになっていた服を全て干し終えると、後ろから拍手の音が聞こえました。
「キキキキ。お上手お上手」
「あ、キキさん」
振り返るとそこにはキキさんが、
私が洗濯を終えた姿を見て笑みを浮かべていました。
「朝の訓練の後ニ、家事を行うのハ堪えたでしょウ?」
「そ、そうですね。
腕もそうですけど、背中や足も痛みまして……」
「筋肉が悲鳴を上げていますネ。
修復して強い筋肉を作るための下地でス。
バランスの良い食事を食べテ、質を高めましょウ。
まぁ今日ハ、このまま休息をしましょうネ」
「は、はい……。わかりました」
私はそう言いながら、ふと、ある疑問が浮かんだのでした。
「そういえばキキさん、
朝もお昼もお食事に来ませんでしたがどうしてですか?
折角でしたら一緒に食べれると思ったのですが」
「キキキキ……それは無理なのでス。
私達キキーモラハ、『妖精』とも言われることもありますガ、
本来ハ、『付喪神』と呼ばれる分類の『妖怪』に近いのでス」
「よ、妖精じゃなくて妖怪さんなのですか……」
私がキキさん……いえ、キキーモラと言う種族の正体に驚くと、
キキさんは嬉しそうに「ニィ」と笑みながら
自らの種族の特徴に関して話を続けていました。
「あい。
そしてキキーモラハ、人間が家に放置したゴミから生まれた存在なのデ
私達のご飯はゴミなのでス。だからあなた達と一緒ニ同じ食卓は囲めませんヨ。
私たちがもシ料理や水に触れたラ、そこから疫病に蝕まれるのでス」
「あ、もしかして魔王様が私に炊事や洗濯を教えているのって……!」
「キキキ。
貴女がさぼっテ私が『うっかリ』、『良かれと思っテ』
水場のお手伝いなんてしちゃったラ……。
疫病に蝕まれテ、病気でぽっくリ。お陀仏でス」
「そう、でしたか……確かに、それは残念ですね」
「キキキキ。
そノお心遣いだけで十分でス。
キキーモラはさぼる怠け者ハ嫌いですガ、
あなたみないナ綺麗好きハ大好きなのでス。
水回り以外のお掃除ハ、私にお任せヲ」
「キキさん……」
キキさんはその巨大な頭を少し傾けながら、「ニコッ」と笑みを浮かべていました。
私も彼女につられて笑みを浮かべたのですが、再びある疑問が浮かんだのでした。
「……朝の特訓でキキさんの脚に掠っていたら、
私、もしかしなくても病気になってたりしてたのですか?」
私がそうキキさんに問いかけると、
キキさんは口を大きく開いて「ニタァ」と笑いながら答えました。
「キキッ、キキキキキ!
大丈夫大丈夫。経口摂取が一番危ないだけなのデ……。
解毒の魔法さえあれば問題ないですヨ?」
「そ、それって根本的な危険度はそのままじゃないですかー!!」
私の叫び声が響く中、
キキさんは「キキキキ」ととても愉快そうな笑い声をあげていたのでした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
追憶の刃ーーかつて時空を飛ばされた殺人鬼は、記憶を失くし、200年後の世界で学生として生きるーー
ノリオ
ファンタジー
今から約200年前。
ある一人の男が、この世界に存在する数多の人間を片っ端から大虐殺するという大事件が起こった。
犠牲となった人数は千にも万にも及び、その規模たるや史上最大・空前絶後であることは、誰の目にも明らかだった。
世界中の強者が権力者が、彼を殺そうと一心奮起し、それは壮絶な戦いを生んだ。
彼自身だけでなく国同士の戦争にまで発展したそれは、世界中を死体で埋め尽くすほどの大惨事を引き起こし、血と恐怖に塗れたその惨状は、正に地獄と呼ぶにふさわしい有様だった。
世界は瀕死だったーー。
世界は終わりかけていたーー。
世界は彼を憎んだーー。
まるで『鬼』のように残虐で、
まるで『神』のように強くて、
まるで『鬼神』のような彼に、
人々は恐れることしか出来なかった。
抗わず、悲しんで、諦めて、絶望していた。
世界はもう終わりだと、誰もが思った。
ーー英雄は、そんな時に現れた。
勇気ある5人の戦士は彼と戦い、致命傷を負いながらも、時空間魔法で彼をこの時代から追放することに成功した。
彼は強い憎しみと未練を残したまま、英雄たちの手によって別の次元へと強制送還され、新たな1日を送り始める。
しかしーー送られた先で、彼には記憶がなかった。 彼は一人の女の子に拾われ、自らの復讐心を忘れたまま、政府の管理する学校へと通うことになる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる