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Case1「勇者によるスー一族強盗殺人、及びトゥステラー領占領事件」

「殺すためでなく、勝つためにです」

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「……メアリーちゃん、そんな無理して食べなくても」

ひひふぇいいえ……ふぇっふぁふふふっへいひゃひゃいひゃほふひへふほほせっかく作っていただいた料理ですものほんはほっはひはひほほそんな勿体ない事……!」

あの後、私は魔王様が作って下さっていたベーコンエッグとトーストの簡易な食事を頬張っていました。
私の八つ当たりのせいでベーコンもサニーサイドアップも殆ど焦げていました。
魔王様はコゲをある程度取り除いてくださいましたが、お世辞にもおいしいとは言えませんでした。
それでも、私は空腹を満たすためにその簡素な食事を口へと運んでいきます。

「うぐほっ!?」

じゃりじゃりとしたコゲが喉に引っ掛かったのか、私はむせ込みます。

「ちょっ、だから無理して食べる必要ないって!」

魔王様は食事を止めようとしますが、私はそれを手で制すると水を飲み干して胃へと押し込みました。

「ぷはっ……! だ、大丈夫です。
 魔王様の手作り料理美味しかったです。ご馳走様でした」

「……はぁ。
 次はちゃんとした料理作ってあげるから」

魔王様は何か諦めたように溜息を吐いていました。
しかし、魔王様はその後に顔を上げると、すぐに話題を切り替え始めました。

「で、さっきも言ったけど……。
 俺がスーの一族を結果的に。それは事実。
 
 だから、その気があるなら俺は君に、人の殺し方を教えられる限り伝授するよ」

「…………あの、私が言うのもなんですが。
 なんでそんな風に自分を殺そうとする相手に親切にするんですか?」

私がその様に疑問を抱いて魔王様に話しかけると、
魔王様は屈託のない笑顔でこういうのでした。

「俺は誰かを『殺す』ことしか能がない、能無しだからだよ」

「……は、はぁ……」

「ま、今の君の場合まずは身体トレーニングからだね。
 適正次第だけど、いっぱしの武道家レベルには鍛え上げてあげれるよ」

「…………」

本気なのかおふざけなのか分からない言葉を、魔王様は私に語りかけます。
ですが、私はその言葉を聞いてある考えが頭をよぎっていたのです。

「あの、魔王様……お尋ねしても良いですか?」

「ん? 何か聞きたいことあるの?」

「……私がドヴェーシャと言ったあの勇者を倒すためには
 どれくらいの研鑽を摘めばよろしいですか?」

「……体術をある程度鍛えれば無力化自体は簡単だよ。
 ギル坊だって勝てたんだろう?」

「はい。ですが、心臓を確実に貫いたはずなのに、
 何事もなかったかのように蘇って来て……」

私がそこから先を言おうとすると、魔王様はそれを手で制しました。
そして、私に言い聞かせるように言葉を返したのです。

「勇者は神から不死身の祝福を始めとした
 色々とふざけた権能を貰ってやってくるんだよ。
 だから、でも、
 勇者を直接『殺す』となると、そのだね。
 ギル坊が倒せなかったってのはそういう事だよ」

「……そう、なのですか」

私はふと、疑問に思ったことを呟いていました。

「どうして神様はそんな凄い力を、
 正しく扱える方に授けて下さらないのでしょうか……?
 あのドヴェーシャと名乗った方からは、
 お世辞にも勇者と呼ぶに相応しい品格は感じられませんでした」

「『世界は常に不平等』だよ。
 その不死身の祝福を与えてくれる神様自体が、
 世界を自分の思うがままにしたい極悪人だったりするのさ。
 だからこそ、そういう神様は自分の言葉を妄信して、
 他のヒトを踏みにじることに抵抗を持たない……。
 いや、踏みにじることでコンプレックスを隠すような
 弱い人間を、勇者として送り込んでくるのさ」

「……確かに、理不尽なのですね」

「実は俺の言ってることが嘘でした~!
 ……って思わないわけ?」

「はい。
 あなたが本当に私が罵ったような力のない臆病者でしたら、
 ドヴェーシャから私を救うような真似なんてしないと思ってますので……!」

「……そう」

おどけるような口ぶりだった魔王様でしたが、
私が動じずにそう語ると、魔王様はちょっと残念そうな表情をしていました。

その一方、この時語って下さった魔王様の説明を受けて、
私は拳を固く握りしめていました。
『どうしてそんな酷い人が神を名乗っているのか』と、
どうして『ドヴェーシャのような人間だけ依怙贔屓にするのか』と。

…………はい。
現在は転生屍者ゆうしゃの実態を詳しく知っているので、
堕神ダエーワの思惑としてはのは知っています。
でも、だからこそ……そのような理不尽は尚の事許せない。
そう、強く思っています。
……失礼しました。それでは話を続けましょう。

私の言葉でドヴェーシャへの復讐を企てていると感じたのでしょう。
魔王様は私を窘めるように、諭し始めたのです。

「君の気持ちを尊重はしてあげたいけど……。
 悪いけど、勇者を殺したいってのなら
 俺から何も教えてあげることはできないね」

「それはつまり、
 私からあなたを殺すための機会も奪うって事ですか?」

「悪いけど、そう言うことになるね」

「それでは……魔王様なら勇者を殺すことができるのですか?」

私がそう尋ねると、魔王様は少し意地の悪い笑みを浮かべながら
返事を返すのでした。

「……さっきは君、
 『俺は勇者を倒せないんじゃないか』って言ってたじゃないか」

「あ、あの時は気が動転していただけです……!」

私は気が動転して先ほどはああ口走っていましたが、
今は色々と現在の状況を整理して、推察しながら語ります。

「色々と考えたのですが、まずはこの小屋と状況が根拠です。
 少なくともトゥステラー領でこんな小屋は見た見た事ありません。
 そしてトゥステラー領は水色のドームみたいな光に包まれていました」

私の視線の先に映った窓には、
トゥステラー領を覆っていた光がありませんでした。
それだけでここがトゥステラー領でない事を物語っていました。

「まぁ、そうだね……。
 でも逃げるのだけが得意かもしれないよ?」

「逃げれるという事は、それはつまり
 ドヴェーシャの能力を回避できるって事ですよね?
 

「……うん。
 そこはまぁ、よく考えれば思いつける内容だね」

「そんな芸当ができるヒトが、
 逃げるしか能が無い方だとは到底思えません。
 それに加えて、私をいっぱしの武道家クラスに鍛えるという発言。
 ……武術の腕があるという事ですよね?」

「……冷静になったら地頭は回るようだね」

魔王様は否定をせずに、そう答えるだけでした。
ですが、その瞳には先ほどまでの柔和さは無く、
殺意にも似た鋭さが加わっていました。
私はその瞳を見て、彼は本来ならドヴェーシャを倒せると確信しました。
だからこそ私は頭を下げて彼に懇願をしたのです。

「お願いします魔王様。
 勇者ドヴェーシャを倒すために私に戦い方を教えてください」

「さっきも言ったけど、一般人じゃあ転生屍者ゆうしゃは殺せないよ?」

「はい。
 だから倒すために戦い方を教えてもらいたいのです」

「いやいやいや、
 だから殺せないってさっきから言ってるよね?」

「はい。だから
 勇者の倒し方をどうか教えてください」

「……え?」

私がそう答えると、魔王様は呆気にとられたような表情を浮かべていました。
私は追い打ちをかけるように、私の意図を続けて話したのです。

「勇者は一般人では殺せない……その言葉に嘘はないのでしょう。
 ですから、殺せなくったって、私達に危害を加えないくらいに
 無力化して倒すための方法を教えていただきたいのです。
 その方法が広まれば、私達の家族やトゥステラー領の皆の様な
 悲劇を繰り返すこともなくなるはずです。
 ……もうあんな犠牲を出すわけにはいかないんです!」

「……さらっと領民も死んだ扱いしてるけど、
 全滅したと考えてるわけ?」

「私一人しか、助ける余裕が無かったのだと思います。
 もし仮に生きているのだとしたら、
 彼らを助けるために猶更時間が惜しいです」

私はそう言い切って魔王様の瞳を見つめました。彼はとても悩んでいました。
苦虫を噛み潰した……と言う慣用句の言葉がありますよね?
ちょうどあの様な例えがぴったりの表情をしていました。
そして、何かの決心をしたのでしょうか……。
魔王様は大きなため息を吐くと渋々と言った形で漸く口を開いてくださいました。

「……まぁ、確かに。
 例え一般人だとしても、勇者を殺せずとも、無力化自体は難しくはない……ね」

「それじゃあ……!」

「一ヶ月だ」

「え?」

「適正によるけど、一ヶ月であいつを倒せるようにしてあげるよ。
 その代わり、特訓は相当ハードだから……覚悟はしておいてよ……ね?」

「は、はい!」

こうして、私はトゥステラー領を占領し、私の家族の命を奪った
ドヴェーシャゆうしゃを倒すための訓練が始まることになったのです。
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