【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

番外短編 不可思議な廃城

2.頼み事とは

　聖女様は俺とテオの顔を交互に見ながら、お顔を曇らせて言葉を切り出した。
　
「神殿あてに頼まれたことなのだけれど、私一人で手に負えるかどうかが不安で」
「ほらみろ。厄介事じゃねぇか。何で俺たちに頼もうとしてんだよ。別に神官と騎士を連れていきゃいい話だろうが」
「まだ話を聞いてもいないのに、相変わらずね。神官や騎士ではなく、魔法使いに来て欲しいから頼みに来たのよ。それも、とびきり強い魔法使いにね」

　俺も内心聖女様の言葉に驚きながらお茶の支度をし始める。
　テオはふてぶてしい態度のままだけど、聖女様の話の続きを聞き出そうとしているのが分かったので一旦様子を見守る。

「私の力が必要なことだと言われたの。どうやら浄化が必要な案件みたいね」
「浄化？　余計に俺たちじゃねぇだろうが。神官さまたちの出番だろ」
「行く場所が問題なの。実は……廃城の浄化を頼まれたのよ。けれど、廃城の場所が問題なの。場所は国境付近。最近隣国の姫様が探検しに行って、怪我をしたとかなんとか……」

　はぁ？　とテオが呆れきった声を出す。俺は紅茶を聖女様に出しながら色々な可能性を思案する。

「で、魔法使いに頼みたい理由はなんだよ。今のところ騎士でも良さそうだが」
「それはなるべく静かに事を済ませたいからよ。騎士様だと力のみに頼ることになるじゃない？　廃城はそのままの形を残したいのですって」
「つまり、隣国の姫様も気軽に遊びに来られるままにしたいということでしょうか？」
「戦争になるよりかは仲良くした方がいいでしょう？　それに、良い観光名所になるかもしれないわ。廃城と言えど昔の王族が使っていた城らしいから。廃城の収入が国の予算へ繋がるのなら、いいことでしょう？」

　優雅に紅茶を嗜む聖女様に対して、テオはまた舌打ちをする。面倒ごとは嫌いだと顔で訴え、嫌悪感を隠さない。
　テオと小声で嗜たしなめて、コーヒーのお替りをテオのカップへ注ぐ。

「で、お前は俺たちに何をくれるっていうんだよ。こんな面倒なことタダで引き受ける訳ねぇだろうが」
「心の狭いテオドールのために、良いことを思いついたの。耳、貸しなさい」

　聖女様はスッと立ち上がり、テオの側に寄って耳打ちし始める。
　最初は嫌そうな顔をしていたはずなのに、テオの表情が途端にニヤニヤ顔へ変化していく。
　これは……嫌な予感がする。

「はーん？　そういやそれ。そのままにしてたな。まぁ、対価としては釣り合わねぇ気もするが仕方ねぇな」
「安心して。さらに追加も用意させるから」

　二人のやり取りの内容が俺の心の中で一抹の不安はあるんだけど、俺が口を挟むところではない。
　テオが納得して引き受けるというのならば、俺もついて行くだけだと切り替えて顔を上げた。

「では、急いで行きましょう。俺は外出している間の予定を伝えてきます。今は急ぎの用もありませんし、何かあれば魔道具で連絡を取り合うようにしましょう」
「レイちゃんは相変わらず気が早いな。まぁ、そこら辺は補佐官殿に任せるとするか。浄化って言ったって、何日もかかるようなことじゃねぇだろうしな」
「全く、テオドールは。全部レイヴンちゃんに投げっぱなしね。本当に働き者だし可愛いわ」

　聖女様に優しく撫でられてしまって、俺が目を丸くしたまま固まっているとまた不機嫌になったテオが聖女様の手をはたき落とす。

「痛っ！　もう、オッサンの独占欲は気持ち悪いわよ？」
「お前に言われたくねぇよ。レイヴンに触るなっての」

　聖女様とテオは、顔を合わせる度に何か言い争っている気がする。
　仲が悪い訳じゃないんだろうけど……たぶんテオの態度が全ていけないんだろうな。
　俺はいつものように二人の間に入り、落ち着いた頃を見計らってから外出の準備のために席を外した。