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第十七章 最後の遊戯に挑む魔塔主と弟子と仲間たち
418.新魔法
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ハーゲンティは自分を生贄にした召還魔法を使用したってところか?
迷惑な話だな。こんな置き土産はいらねぇんだよ。
コイツはまだ特に何もしてきてないってのに、存在だけで身体に影響を及ぼすほどとはな。
情けねぇが、今コイツを倒すほどの力はない。
だが……倒せないのなら別の方法を使うまでだ。
「ったく。随分大物をよこしやがって。アンタ、デカイだけだと助かるんだがな」
俺は詠唱を始める。
ハーゲンティが前にエルフの里を攻撃するとレイヴンを脅してやがったから、万が一の場合に対処してやろうと作り上げた魔法だ。
使用するのは初めてだが、作ったのは俺自身だ。初めての魔法でも問題はない。
この魔法の原理は俺が使用している移動と同じだ。
移動は使用する者を目的の場所へ移動させる魔法だが、新魔法は使用する者に限らず直接触れることのできないものを移動させることができる。
つまり、俺に向かって放たれた魔法をどこかへ飛ばすということも可能ってことだ。
ただ、移動させる行き先が問題点だった。
本を読み漁っていくうちに、人間が住む世界以外に魔族が済む世界やどこの世界にも属さない異次元があるということが分かった。
異次元――時の流れや場所も一定ではない場所に何があるのか、本にも書かれていなかった。
だが、普段設定している座標を敢えて設定しないことによって対象物を異次元へ送り込むことが理論上できることに気づいた。
「――次元移動」
更にこの魔法は送り込みたいものへ直接触れる必要もない。
正確には、両手を突き出しそこから流した魔力で対象物へ触れる。
直接手で触れるのではなく、自分の魔力で対象物を取り囲む感じだ。
「さすがにデカイな」
俺の魔力で闇へ触れようとするだけで、魔力がごっそり削り取られていく。
歯を食いしばり、残っている俺の魔力で闇に飲み込まれないように対抗する。
少しずつ闇を押し戻してる感覚はあるが、相手がデカすぎて俺の残りの魔力じゃ全てを飛ばせないかもしれねぇ。
「……っ、少しずつ闇は後退しているが、我らも限界か」
「テオドール……必ず無事にレイヴンの元へ戻るのですよ。約束です」
サラマンダーとウンディーネが声だけ残して消えていく。
どうやら力を全て使い切っちまったみたいだな。
そろそろシルフィードも限界を迎えそうだ。俺を包み込んでる風の力が弱まってきている。
「テオドール、そろそろレイヴンも限界だよ!」
「分かってる! 仕方ねぇ……ここはギャンブルと行こうじゃねぇか」
風を通してシルフィードの切羽詰まった声が聞こえてくる。
闇を全て送り返したいってのに、このままじゃ全て送り返す前に俺が床へ落下しちまう。
頭を切り替え今度は右手を伸ばし闇の中で蠢く指の先らしき場所へ直接触れると、ズブリと闇に飲まれて指の先からじわじわと闇に浸食されていく。
魔族の神? ってのは身体がどういう構造をしてるのかも分からねぇが、人間が生身で触れるもんじゃねぇな。
このまま意識ごと乗っ取られて、引きずり込まれちまいそうになる。
手の感覚と俺の意識が残っている間に、アレを発動させるしかねぇ。
「……これ以上、何をする気……ですか! テオ……?」
「レイヴンちゃんっ……アイツを、止めて! テオドールは……あの魔法を……」
途切れ途切れの声が聞こえてくる。レイヴンとクロードだ。
下を向いて少しだけ様子を窺うと、ディーは動いてるから生きてるしウルガーもやめてくださいと叫んでる。
だが、俺はここ一番って時は賭けに負けたことはねぇんだよ。
「さて、いつもの魔法を唱えたらどうなるか? 俺は……お前と別の場所へ飛ばされる方に賭ける!」
「テオドール……まさか、異次元へ飛ぶ気?」
シルフィードは風の精霊王だってのに空気が読めねぇらしい。
ったく、気を利かせろってんだよな。
俺はレイヴンに聞こえるように話しかける。
「レイヴン、いい子で待ってろよ。ご褒美がないとやってられねぇからな」
「そんなの、いくらでもあげるから……っ! やめろって! いつもみたいな、おふざけじゃすまない……って……嫌だ……テオ……っ」
あー……こりゃ後で怒られるだろうな。
でも、ご褒美が待ってると思えばいくらでもやる気が出るってもんだ。
俺のレイヴンを守れるってんなら、俺はいくらでも命を張れる。
世界より何より大事なのは、レイヴンだ。
俺はパチンと指を弾いて、得意の魔法を発動させる。
「――移動」
レイヴンたちがあっという間に俺の視界から消えたということは、闇と共に移動できたはずだがコイツと一緒の異次元へ行く気はない。
俺は別のところへ飛べばいい。
残り少ない魔力で追加を発動させる。
また別の方向へ身体が引っ張られて、移動発動まではうまくいったことが分かる。
だが、移動先の座標を思い浮かべるところまで意識が保てない。
身体の感覚と意識が徐々に薄れていく。
クソ……後もう少しだってのに。
「レイヴン……」
完全に魔力切れだ。賭けには勝ったってのに、結果を見届けてもらえないなんてな。
愛しい弟子の顔が思い浮かんだが、俺の意識は暗闇に飲み込まれていった。
<第一部 fin.>
+++
24.9.10.
これにて「風変わりな魔塔主と弟子」第一部完結です!
ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます✨
そして、とても気になるところで終わらせてすみません!
元々考えていた第一部はここまでと決めていましたので、第二部はこの後のお話から始まります。
テオドールはどこへ移動したのか、残されたレイヴンたちは無事なのか?
色々と疑問が残ると思いますが、これだけはお伝えします。
このお話はハピエンです!
声を大にして言いますが、ハピエンですよー!
この終わり方ですが、ハピエンなんですーー!(笑)
ですので、もだもだするかもしれませんが安心してお待ちください。
「風変わり」の続きは少しお時間をいただくことになってしまいますが……。
必ず続きを書きますのでどうかお待ちくださいませ。
超長編をここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございました!
迷惑な話だな。こんな置き土産はいらねぇんだよ。
コイツはまだ特に何もしてきてないってのに、存在だけで身体に影響を及ぼすほどとはな。
情けねぇが、今コイツを倒すほどの力はない。
だが……倒せないのなら別の方法を使うまでだ。
「ったく。随分大物をよこしやがって。アンタ、デカイだけだと助かるんだがな」
俺は詠唱を始める。
ハーゲンティが前にエルフの里を攻撃するとレイヴンを脅してやがったから、万が一の場合に対処してやろうと作り上げた魔法だ。
使用するのは初めてだが、作ったのは俺自身だ。初めての魔法でも問題はない。
この魔法の原理は俺が使用している移動と同じだ。
移動は使用する者を目的の場所へ移動させる魔法だが、新魔法は使用する者に限らず直接触れることのできないものを移動させることができる。
つまり、俺に向かって放たれた魔法をどこかへ飛ばすということも可能ってことだ。
ただ、移動させる行き先が問題点だった。
本を読み漁っていくうちに、人間が住む世界以外に魔族が済む世界やどこの世界にも属さない異次元があるということが分かった。
異次元――時の流れや場所も一定ではない場所に何があるのか、本にも書かれていなかった。
だが、普段設定している座標を敢えて設定しないことによって対象物を異次元へ送り込むことが理論上できることに気づいた。
「――次元移動」
更にこの魔法は送り込みたいものへ直接触れる必要もない。
正確には、両手を突き出しそこから流した魔力で対象物へ触れる。
直接手で触れるのではなく、自分の魔力で対象物を取り囲む感じだ。
「さすがにデカイな」
俺の魔力で闇へ触れようとするだけで、魔力がごっそり削り取られていく。
歯を食いしばり、残っている俺の魔力で闇に飲み込まれないように対抗する。
少しずつ闇を押し戻してる感覚はあるが、相手がデカすぎて俺の残りの魔力じゃ全てを飛ばせないかもしれねぇ。
「……っ、少しずつ闇は後退しているが、我らも限界か」
「テオドール……必ず無事にレイヴンの元へ戻るのですよ。約束です」
サラマンダーとウンディーネが声だけ残して消えていく。
どうやら力を全て使い切っちまったみたいだな。
そろそろシルフィードも限界を迎えそうだ。俺を包み込んでる風の力が弱まってきている。
「テオドール、そろそろレイヴンも限界だよ!」
「分かってる! 仕方ねぇ……ここはギャンブルと行こうじゃねぇか」
風を通してシルフィードの切羽詰まった声が聞こえてくる。
闇を全て送り返したいってのに、このままじゃ全て送り返す前に俺が床へ落下しちまう。
頭を切り替え今度は右手を伸ばし闇の中で蠢く指の先らしき場所へ直接触れると、ズブリと闇に飲まれて指の先からじわじわと闇に浸食されていく。
魔族の神? ってのは身体がどういう構造をしてるのかも分からねぇが、人間が生身で触れるもんじゃねぇな。
このまま意識ごと乗っ取られて、引きずり込まれちまいそうになる。
手の感覚と俺の意識が残っている間に、アレを発動させるしかねぇ。
「……これ以上、何をする気……ですか! テオ……?」
「レイヴンちゃんっ……アイツを、止めて! テオドールは……あの魔法を……」
途切れ途切れの声が聞こえてくる。レイヴンとクロードだ。
下を向いて少しだけ様子を窺うと、ディーは動いてるから生きてるしウルガーもやめてくださいと叫んでる。
だが、俺はここ一番って時は賭けに負けたことはねぇんだよ。
「さて、いつもの魔法を唱えたらどうなるか? 俺は……お前と別の場所へ飛ばされる方に賭ける!」
「テオドール……まさか、異次元へ飛ぶ気?」
シルフィードは風の精霊王だってのに空気が読めねぇらしい。
ったく、気を利かせろってんだよな。
俺はレイヴンに聞こえるように話しかける。
「レイヴン、いい子で待ってろよ。ご褒美がないとやってられねぇからな」
「そんなの、いくらでもあげるから……っ! やめろって! いつもみたいな、おふざけじゃすまない……って……嫌だ……テオ……っ」
あー……こりゃ後で怒られるだろうな。
でも、ご褒美が待ってると思えばいくらでもやる気が出るってもんだ。
俺のレイヴンを守れるってんなら、俺はいくらでも命を張れる。
世界より何より大事なのは、レイヴンだ。
俺はパチンと指を弾いて、得意の魔法を発動させる。
「――移動」
レイヴンたちがあっという間に俺の視界から消えたということは、闇と共に移動できたはずだがコイツと一緒の異次元へ行く気はない。
俺は別のところへ飛べばいい。
残り少ない魔力で追加を発動させる。
また別の方向へ身体が引っ張られて、移動発動まではうまくいったことが分かる。
だが、移動先の座標を思い浮かべるところまで意識が保てない。
身体の感覚と意識が徐々に薄れていく。
クソ……後もう少しだってのに。
「レイヴン……」
完全に魔力切れだ。賭けには勝ったってのに、結果を見届けてもらえないなんてな。
愛しい弟子の顔が思い浮かんだが、俺の意識は暗闇に飲み込まれていった。
<第一部 fin.>
+++
24.9.10.
これにて「風変わりな魔塔主と弟子」第一部完結です!
ここまでお読みいただいた皆様、本当にありがとうございます✨
そして、とても気になるところで終わらせてすみません!
元々考えていた第一部はここまでと決めていましたので、第二部はこの後のお話から始まります。
テオドールはどこへ移動したのか、残されたレイヴンたちは無事なのか?
色々と疑問が残ると思いますが、これだけはお伝えします。
このお話はハピエンです!
声を大にして言いますが、ハピエンですよー!
この終わり方ですが、ハピエンなんですーー!(笑)
ですので、もだもだするかもしれませんが安心してお待ちください。
「風変わり」の続きは少しお時間をいただくことになってしまいますが……。
必ず続きを書きますのでどうかお待ちくださいませ。
超長編をここまでお読みいただきまして、本当にありがとうございました!
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