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第十七章 最後の遊戯に挑む魔塔主と弟子と仲間たち
416.裂け目
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相変わらずまだ瘴気が止まる気配はないが、俺たちの意図は一緒だ。
瘴気が多少喉に入っちまったが、レイヴンと共に魔法をぶっ放す。
「――暴風竜」
「シルフィード様、お力をお貸しください」
力を使用したレイヴンのブロンドの髪と濃紺のローブが風に揺れ、俺の放った魔法は不可視のドラゴンの姿で辺りに暴風を巻き起こす。
「……と、ばない?」
「暖かい風だ」
俺が放った魔法とは別の風が俺らだけを包み込んでるから、暴風に巻き込まれることはない。
これがシルフィードの力なのだろう。
同じ風でも本質が違うと柔らかく温かみを感じる。
瘴気は暴風に巻き込まれ、程なく消えていく。
「許せぬ――許せぬ許せぬ許せぬ……」
瘴気を吹き飛ばしてついでに身体も切り刻んでやったってのに、ハーゲンティの野郎はまだ立ってやがる。
しつこすぎるだろ、いい加減倒れてくれねぇとそろそろ魔力回復薬も尽きちまう。
俺の魔力も、だいぶ減ってきちまった。
「随分粘るな……全く」
「俺、そろそろ無理かも……」
荒い息を吐き出しながら、ウルガーは剣を支えにして立っているのがやっとみたいだ。
さすがのディーも鎧がひび割れてところどころ壊れてる。
聖女サマもさっきの一撃で次は難しそうか。
「ちまいのはまだいけるな?」
「まほう? つかえる」
「レイヴンも、もう少しいけるな」
「俺は師匠の弟子ですよ。まだまだいけます」
んなこと言って、シルフィードが無理しないでとかなでなでしてるじゃねぇか。
次の一手はどうするかと俺が策を練る前に、いきなり飛び出したディーが残る力を振り絞っていきなり突撃し始める。
「おい、焦るな!」
俺が止める間もなく、ディーの捨て身の攻撃はブツブツ言ってたハーゲンティの胸に突き刺さる。
ビキビキと更に宝石がひび割れる音が聞こえ、ハーゲンティはカクンと項垂れた。
「やったか!」
「……っ、避けろっ!」
俺が言うのと同時にハーゲンティの腕がディーの鎧を貫通してディーの腹を貫いた。
それでもディーは大剣を押し込んでやがる。
アイツはこれくらいじゃくたばらねぇはずだが、捨て身で突撃しやがって……!
「ディーちゃん!」
聖女サマがすぐに回復魔法を唱えだす。
ディーは血反吐を吐きながら、最後の力で剣を引き抜く。
「だ、団長っ!」
ウルガーも素早く疾走でディーの元へ駆け寄り身体を支え、更に二人を補助するようにシルフィードが風で二人を包み込んで移動させる。
「まだだ、クソ!」
俺が追撃で雷の槍を投げ、分割で数を増やす。
無数の雷を帯びた槍でヤツの身体を狙い撃ちして時間を稼ぐが、とてつもなく嫌な予感がする。
ディーの回復の時間を稼ぎながら、ちまいのにも目線で追撃を促す。
「こおり!」
素直に理解したちまいのが放った無詠唱魔法の氷の粒が当たっているが、ハーゲンティは動かない。
すると、突然低く掠れた笑い声が辺りに響き出す。
「ククク……クハハ……もう、良い。肉体を捨て、あの方を――」
ぞわりと総毛だつ。
俺の勘が、全身で危険を訴えかけてくる。
更に追撃の魔法を放とうとした瞬間、ハーゲンティが突然炎に包まれる。
「今すぐ離れろ!」
俺はレイヴンとちまいのを抱え、精霊王たちは騎士たちと聖女を抱えハーゲンティから距離を取る。
すると、轟音と共に天井が吹き飛んで俺たちも爆風に巻き込まれて身体が吹き飛ばされる。
バラバラと天井が崩れ落ちてくるが、ウンディーネが結界を張って破片を防いでくれたらしい。
辺りが瓦礫と塵で靄がかかり、視界が塞がれる。
しかし同時に身体に骨が軋むほどの圧がかかり、突っ伏したまま動けなくなった。
首だけ動かして何とか状況を確認すると、ハーゲンティの身体は今までの奴らと同じように跡形もなく消えている。
「うぅ……一体、何が……」
「っクソ。アイツ、最後にやらかしやがった」
レイヴンの呟きに、俺も最悪の予想を返す。
身体へのしかかる重圧に逆らい、視線だけで上を見遣った。
屋敷の外が露わになり空が見えているのだが、空がバリバリという音を立てて避けていく。
裂け目の先に、この周辺をまるごと飲み込むような黒く禍々しい手のようなものが蠢いているのが見えた。
呼吸をすることを許さないような圧力が、身体中を支配する。
瘴気が多少喉に入っちまったが、レイヴンと共に魔法をぶっ放す。
「――暴風竜」
「シルフィード様、お力をお貸しください」
力を使用したレイヴンのブロンドの髪と濃紺のローブが風に揺れ、俺の放った魔法は不可視のドラゴンの姿で辺りに暴風を巻き起こす。
「……と、ばない?」
「暖かい風だ」
俺が放った魔法とは別の風が俺らだけを包み込んでるから、暴風に巻き込まれることはない。
これがシルフィードの力なのだろう。
同じ風でも本質が違うと柔らかく温かみを感じる。
瘴気は暴風に巻き込まれ、程なく消えていく。
「許せぬ――許せぬ許せぬ許せぬ……」
瘴気を吹き飛ばしてついでに身体も切り刻んでやったってのに、ハーゲンティの野郎はまだ立ってやがる。
しつこすぎるだろ、いい加減倒れてくれねぇとそろそろ魔力回復薬も尽きちまう。
俺の魔力も、だいぶ減ってきちまった。
「随分粘るな……全く」
「俺、そろそろ無理かも……」
荒い息を吐き出しながら、ウルガーは剣を支えにして立っているのがやっとみたいだ。
さすがのディーも鎧がひび割れてところどころ壊れてる。
聖女サマもさっきの一撃で次は難しそうか。
「ちまいのはまだいけるな?」
「まほう? つかえる」
「レイヴンも、もう少しいけるな」
「俺は師匠の弟子ですよ。まだまだいけます」
んなこと言って、シルフィードが無理しないでとかなでなでしてるじゃねぇか。
次の一手はどうするかと俺が策を練る前に、いきなり飛び出したディーが残る力を振り絞っていきなり突撃し始める。
「おい、焦るな!」
俺が止める間もなく、ディーの捨て身の攻撃はブツブツ言ってたハーゲンティの胸に突き刺さる。
ビキビキと更に宝石がひび割れる音が聞こえ、ハーゲンティはカクンと項垂れた。
「やったか!」
「……っ、避けろっ!」
俺が言うのと同時にハーゲンティの腕がディーの鎧を貫通してディーの腹を貫いた。
それでもディーは大剣を押し込んでやがる。
アイツはこれくらいじゃくたばらねぇはずだが、捨て身で突撃しやがって……!
「ディーちゃん!」
聖女サマがすぐに回復魔法を唱えだす。
ディーは血反吐を吐きながら、最後の力で剣を引き抜く。
「だ、団長っ!」
ウルガーも素早く疾走でディーの元へ駆け寄り身体を支え、更に二人を補助するようにシルフィードが風で二人を包み込んで移動させる。
「まだだ、クソ!」
俺が追撃で雷の槍を投げ、分割で数を増やす。
無数の雷を帯びた槍でヤツの身体を狙い撃ちして時間を稼ぐが、とてつもなく嫌な予感がする。
ディーの回復の時間を稼ぎながら、ちまいのにも目線で追撃を促す。
「こおり!」
素直に理解したちまいのが放った無詠唱魔法の氷の粒が当たっているが、ハーゲンティは動かない。
すると、突然低く掠れた笑い声が辺りに響き出す。
「ククク……クハハ……もう、良い。肉体を捨て、あの方を――」
ぞわりと総毛だつ。
俺の勘が、全身で危険を訴えかけてくる。
更に追撃の魔法を放とうとした瞬間、ハーゲンティが突然炎に包まれる。
「今すぐ離れろ!」
俺はレイヴンとちまいのを抱え、精霊王たちは騎士たちと聖女を抱えハーゲンティから距離を取る。
すると、轟音と共に天井が吹き飛んで俺たちも爆風に巻き込まれて身体が吹き飛ばされる。
バラバラと天井が崩れ落ちてくるが、ウンディーネが結界を張って破片を防いでくれたらしい。
辺りが瓦礫と塵で靄がかかり、視界が塞がれる。
しかし同時に身体に骨が軋むほどの圧がかかり、突っ伏したまま動けなくなった。
首だけ動かして何とか状況を確認すると、ハーゲンティの身体は今までの奴らと同じように跡形もなく消えている。
「うぅ……一体、何が……」
「っクソ。アイツ、最後にやらかしやがった」
レイヴンの呟きに、俺も最悪の予想を返す。
身体へのしかかる重圧に逆らい、視線だけで上を見遣った。
屋敷の外が露わになり空が見えているのだが、空がバリバリという音を立てて避けていく。
裂け目の先に、この周辺をまるごと飲み込むような黒く禍々しい手のようなものが蠢いているのが見えた。
呼吸をすることを許さないような圧力が、身体中を支配する。
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