403 / 483
第十六章 遊戯に翻弄される魔塔主と弟子と騎士と聖女
401.あの日の真実
しおりを挟む
ウンディーネの言うことが正しいのなら、予想されることは一つだけだ。
レイヴンの母親は命を落としたが、別の存在に生まれ変わった。
それは人間として生まれ変わったのではなく、別の生命体になったってことだ。
「まさか……」
「私の昔の名はカナリー。レイヴン、あなたの母親です」
「え……おかあ、さん?」
レイヴンは固まって動けない。俺は腕に力を込めて体温を伝えてやる。
言葉が続かないレイヴンの代わりに、俺が話を促す。
「つまり、あんたは命を落としたあと精霊王に救われたってことか?」
「そうです。私はレイヴンをエルフたちの追っ手から逃すために洞窟の中へ隠しました。その時の私には何もできることがなくて……必死に逃げまどって追っ手を引き付けるくらいしかできなかったのです」
「そんな……じゃあ、あなたは……」
ウンディーネは悲し気に微笑んでから少し俯く。
話しづらいだろうが、記憶が蘇った今はレイヴンも知る必要がある話だ。
「私は追い詰められてしまって……崖の上から身を投げたのですが、落ちた先に美しい水が満ちていたのです。そこで先代のウンディーネ様に出会いました」
「精霊王がねぇ。なんというか、不思議な話だな」
「ええ。私のことを不憫に思ってくださって、いつか息子に出会う時があれば力を貸してやりなさいと精霊の力と命を分けてくださったのです」
レイヴンは黙って耳を傾けていたが、衝撃を受けているのか身体を小刻みに震わせている。
俺がぽんぽんと頭を撫でてやると、レイヴンは甘えるように俺へすり寄ってきた。
「テオと一緒に聞いて良かったかもしれない。お母さんの最後を聞いて胸が張り裂けそうだけど、こうして再び会うことができるだなんて……」
「これも先代のおかげです。そして正式に先代から力を全て受け継ぎ、精霊王ウンディーネとなりました」
「なるほどな。じゃあ、あんたはレイヴンの母親ってことなんだな。精霊だってのにどうも雰囲気が似てるとは思ったが」
レイヴンとウンディーネ。精霊とハーフエルフで種族も違うってのに、笑い方と雰囲気が親子を感じさせる。
レイヴンは母親似ってことなんだろうな。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも、こうして会うことができて嬉しいわ」
「こちらこそ、取り乱してしまってすみません。でも……今は嬉しい気持ちでいっぱいです」
「良かった。受け入れてもらえるか不安だったけれど……伝えられて安心しました。私のことは気軽にお母さんと呼んでいいのよ」
柔らかに微笑むウンディーネに対して、レイヴンは驚きから立ち直って今度はもじもじし始める。
もう一度くしゃくしゃと頭を撫でてやると、レイヴンは両手で自分の頭を押さえながら俺を見上げて睨んでくる。
「こういうときに子ども扱いしないでください! その……側にいてくれたことは感謝してますけど」
「相変わらず素直じゃねぇなァ? これでご両親公認の仲ってことか」
「でもテオドール。あなたレイヴンよりかなり年齢が上なのでは?」
「痛いところを突っ込んでくるのはさすがお母さまってか。まぁ……十一歳差だからなァ」
素直に言ったってのに、ウンディーネは驚いてやがる。
指輪からずっと俺たちを見てたのかと思ってたが……違うのか?
「テオドール、私たちは指輪を通してあなたたちを感じることができますが……それも私たちが意識して強い魔力を感じる時のみ。覗き見をしている訳ではありませんよ?」
「そうか。なら、いいんだけどよ。夜のことまで覗かれたんじゃ、さすがにな」
「ちょっと! テオ、余計なことを……」
「夜って……テオドール。あなた、まさか……」
あ、さすがに母ちゃんはそこまで心は広くねぇな。
どうしようかと思ったが、誤魔化しても仕方ねぇしなぁ。
レイヴンの母親は命を落としたが、別の存在に生まれ変わった。
それは人間として生まれ変わったのではなく、別の生命体になったってことだ。
「まさか……」
「私の昔の名はカナリー。レイヴン、あなたの母親です」
「え……おかあ、さん?」
レイヴンは固まって動けない。俺は腕に力を込めて体温を伝えてやる。
言葉が続かないレイヴンの代わりに、俺が話を促す。
「つまり、あんたは命を落としたあと精霊王に救われたってことか?」
「そうです。私はレイヴンをエルフたちの追っ手から逃すために洞窟の中へ隠しました。その時の私には何もできることがなくて……必死に逃げまどって追っ手を引き付けるくらいしかできなかったのです」
「そんな……じゃあ、あなたは……」
ウンディーネは悲し気に微笑んでから少し俯く。
話しづらいだろうが、記憶が蘇った今はレイヴンも知る必要がある話だ。
「私は追い詰められてしまって……崖の上から身を投げたのですが、落ちた先に美しい水が満ちていたのです。そこで先代のウンディーネ様に出会いました」
「精霊王がねぇ。なんというか、不思議な話だな」
「ええ。私のことを不憫に思ってくださって、いつか息子に出会う時があれば力を貸してやりなさいと精霊の力と命を分けてくださったのです」
レイヴンは黙って耳を傾けていたが、衝撃を受けているのか身体を小刻みに震わせている。
俺がぽんぽんと頭を撫でてやると、レイヴンは甘えるように俺へすり寄ってきた。
「テオと一緒に聞いて良かったかもしれない。お母さんの最後を聞いて胸が張り裂けそうだけど、こうして再び会うことができるだなんて……」
「これも先代のおかげです。そして正式に先代から力を全て受け継ぎ、精霊王ウンディーネとなりました」
「なるほどな。じゃあ、あんたはレイヴンの母親ってことなんだな。精霊だってのにどうも雰囲気が似てるとは思ったが」
レイヴンとウンディーネ。精霊とハーフエルフで種族も違うってのに、笑い方と雰囲気が親子を感じさせる。
レイヴンは母親似ってことなんだろうな。
「驚かせてしまってごめんなさい。でも、こうして会うことができて嬉しいわ」
「こちらこそ、取り乱してしまってすみません。でも……今は嬉しい気持ちでいっぱいです」
「良かった。受け入れてもらえるか不安だったけれど……伝えられて安心しました。私のことは気軽にお母さんと呼んでいいのよ」
柔らかに微笑むウンディーネに対して、レイヴンは驚きから立ち直って今度はもじもじし始める。
もう一度くしゃくしゃと頭を撫でてやると、レイヴンは両手で自分の頭を押さえながら俺を見上げて睨んでくる。
「こういうときに子ども扱いしないでください! その……側にいてくれたことは感謝してますけど」
「相変わらず素直じゃねぇなァ? これでご両親公認の仲ってことか」
「でもテオドール。あなたレイヴンよりかなり年齢が上なのでは?」
「痛いところを突っ込んでくるのはさすがお母さまってか。まぁ……十一歳差だからなァ」
素直に言ったってのに、ウンディーネは驚いてやがる。
指輪からずっと俺たちを見てたのかと思ってたが……違うのか?
「テオドール、私たちは指輪を通してあなたたちを感じることができますが……それも私たちが意識して強い魔力を感じる時のみ。覗き見をしている訳ではありませんよ?」
「そうか。なら、いいんだけどよ。夜のことまで覗かれたんじゃ、さすがにな」
「ちょっと! テオ、余計なことを……」
「夜って……テオドール。あなた、まさか……」
あ、さすがに母ちゃんはそこまで心は広くねぇな。
どうしようかと思ったが、誤魔化しても仕方ねぇしなぁ。
10
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

僕のおじさんは☓☓でした
林 業
BL
両親が死んだ。
引取ってくれる親戚がいないということで、施設に入る直前だったとき、絶縁状態だった母の兄に引き取られた。
彼には一緒に住んでいる人がいると言う。
それでもという条件で一緒にすむことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる