391 / 483
第十六章 遊戯に翻弄される魔塔主と弟子と騎士と聖女
389.旋風
しおりを挟む
ディーは剣の柄をしっかりと握ったまま、空中で何度も剣を回転させていく。
普通のヤツが同じことをすると隙だらけだが、ディーの場合は回転速度と剣のデカさもあってすぐにディーの側に近寄れないほどの風の固まりができてくる。
その風は土埃を巻き上げ、筒状に変化し辺りを飲み込んでいく。
「な……なんですかアレ!」
「ウルガーは見たことなかったか。まあ、普段からやってたら辺りの地形が変わっちまうからなァ?」
「しかも、魔法の詠唱時間より早くないですか? 自ら巨大な風を生み出すだなんて……ディートリッヒ様すごいです!」
驚くウルガーは構わねぇが、ディーを褒めるレイヴンは気に入らねぇ。
俺ならもっと早くできるってのによ。
まあ、ただのゴリ押しでやっちまうのはディーらしいが。
「ディーちゃん、ちょっと張り切りすぎじゃないかしら。周りに何もなかったからいいけれど、訓練所に大量の剣が置いてあったら剣ごと巻き込むわよね?」
「アイツがあの技を使うときは、大体先陣で切り込んでいって馬の上でやり始めるからな。分かってる奴らは結界の中へ避難してくるって訳だ」
「確かに。あの風の中へ巻き込まれたらバラバラになっちゃいますよ! そんなに張り切らなくても聖女様への愛は伝わると思うんですけど、団長だからなー」
コッチの心配なんて知りもしないで、ディーは動きを止めずに円を描き続ける。
ゼパルは少し踏み込もうとして、結局踏み込めずに様子見してやがるな。
まるで技が完成するのを待ち構えてるみてぇだ。
ディーも警戒しながら風の固まりを大きく育てていく。
ディーの背丈も軽く超えたところで、剣をゆっくりと手元へと戻した。
「あまり大きくてもこの辺りを破壊してしまうからな。俺の愛する人に何かあっては大変だ」
「ディーちゃん、私なら大丈夫。叩きつけてやりましょう!」
「はい。おまかせを。旋風!」
ディーは聖女サマの応援を背中へ向けて、集めていた筒状の風を言葉と共に解き放つ。
風はうねり、轟音と共にゼパルへ一直線に向かっていく。
「オオ……」
ゼパルは……風を剣で受けようとでもしてんのか?
風の渦に引っ張られながら、それでも抵抗してやがる。
見た目以上に身体が重いのか、重力を発生させて逆らってんのか知らねぇが……なかなか吹き飛ばねぇ。
「全力ではないにしろ、簡単に巻き込まれてくれないとは。さすが魔族」
「関心してる場合じゃねぇだろうが! さっさと追撃かまして……」
「……そう吠えなくとも、どうやら納得したみたいだ」
俺の問いかけに珍しく冷静に答えやがる。ったく、勝算があるってのか?
仕方なく腕を組み直して様子を見守ってやると、風に抵抗していたゼパルの剣は弾き飛ばされて身体が浮き始めた。
「ミゴトダ。アイノチカラ、ミセテモラッタ」
一言だけを残して、鎧は風の中へ巻き込まれた。
揉みくちゃになるのかと思ったが、あっさりと気配が消える。
しばらくして風は吹きやみ、天へ舞い上がった輝く何かがストンとディーの手のひらに収まった。
「物足りなかったが……無事に終わったようだな。聖女様、数々のご無礼をお許しください」
ディーは銀の宝石を何故か聖女サマへ捧げるように差し出して、地へ片膝をつく。
相変わらず堅苦しくて面倒なヤツだな。
「気にしないで。私も楽しかったわ。それに発案者はテオドールよ。貴方が気に病む必要はないわ」
「余計なことしてないで、終わったならさっさと行くぞ。コイツといい、魔族のヤツらは何がしたいんだかさっぱり分からねぇ。まとめてかかってこいってんだよ」
「師匠……さては自分が暴れたりないからイライラしてますね? 本当にこの人は……」
レイヴンが急に説教してきたが、あながち間違っちゃいねえから言い返せねえ。
コッチは色々真面目に考えたってのに、子どものお遊びみたいなことばかりやらされてイライラしてんだ。
さっさとぶちのめして、くだらない児戯は終わらせねぇとな。
普通のヤツが同じことをすると隙だらけだが、ディーの場合は回転速度と剣のデカさもあってすぐにディーの側に近寄れないほどの風の固まりができてくる。
その風は土埃を巻き上げ、筒状に変化し辺りを飲み込んでいく。
「な……なんですかアレ!」
「ウルガーは見たことなかったか。まあ、普段からやってたら辺りの地形が変わっちまうからなァ?」
「しかも、魔法の詠唱時間より早くないですか? 自ら巨大な風を生み出すだなんて……ディートリッヒ様すごいです!」
驚くウルガーは構わねぇが、ディーを褒めるレイヴンは気に入らねぇ。
俺ならもっと早くできるってのによ。
まあ、ただのゴリ押しでやっちまうのはディーらしいが。
「ディーちゃん、ちょっと張り切りすぎじゃないかしら。周りに何もなかったからいいけれど、訓練所に大量の剣が置いてあったら剣ごと巻き込むわよね?」
「アイツがあの技を使うときは、大体先陣で切り込んでいって馬の上でやり始めるからな。分かってる奴らは結界の中へ避難してくるって訳だ」
「確かに。あの風の中へ巻き込まれたらバラバラになっちゃいますよ! そんなに張り切らなくても聖女様への愛は伝わると思うんですけど、団長だからなー」
コッチの心配なんて知りもしないで、ディーは動きを止めずに円を描き続ける。
ゼパルは少し踏み込もうとして、結局踏み込めずに様子見してやがるな。
まるで技が完成するのを待ち構えてるみてぇだ。
ディーも警戒しながら風の固まりを大きく育てていく。
ディーの背丈も軽く超えたところで、剣をゆっくりと手元へと戻した。
「あまり大きくてもこの辺りを破壊してしまうからな。俺の愛する人に何かあっては大変だ」
「ディーちゃん、私なら大丈夫。叩きつけてやりましょう!」
「はい。おまかせを。旋風!」
ディーは聖女サマの応援を背中へ向けて、集めていた筒状の風を言葉と共に解き放つ。
風はうねり、轟音と共にゼパルへ一直線に向かっていく。
「オオ……」
ゼパルは……風を剣で受けようとでもしてんのか?
風の渦に引っ張られながら、それでも抵抗してやがる。
見た目以上に身体が重いのか、重力を発生させて逆らってんのか知らねぇが……なかなか吹き飛ばねぇ。
「全力ではないにしろ、簡単に巻き込まれてくれないとは。さすが魔族」
「関心してる場合じゃねぇだろうが! さっさと追撃かまして……」
「……そう吠えなくとも、どうやら納得したみたいだ」
俺の問いかけに珍しく冷静に答えやがる。ったく、勝算があるってのか?
仕方なく腕を組み直して様子を見守ってやると、風に抵抗していたゼパルの剣は弾き飛ばされて身体が浮き始めた。
「ミゴトダ。アイノチカラ、ミセテモラッタ」
一言だけを残して、鎧は風の中へ巻き込まれた。
揉みくちゃになるのかと思ったが、あっさりと気配が消える。
しばらくして風は吹きやみ、天へ舞い上がった輝く何かがストンとディーの手のひらに収まった。
「物足りなかったが……無事に終わったようだな。聖女様、数々のご無礼をお許しください」
ディーは銀の宝石を何故か聖女サマへ捧げるように差し出して、地へ片膝をつく。
相変わらず堅苦しくて面倒なヤツだな。
「気にしないで。私も楽しかったわ。それに発案者はテオドールよ。貴方が気に病む必要はないわ」
「余計なことしてないで、終わったならさっさと行くぞ。コイツといい、魔族のヤツらは何がしたいんだかさっぱり分からねぇ。まとめてかかってこいってんだよ」
「師匠……さては自分が暴れたりないからイライラしてますね? 本当にこの人は……」
レイヴンが急に説教してきたが、あながち間違っちゃいねえから言い返せねえ。
コッチは色々真面目に考えたってのに、子どものお遊びみたいなことばかりやらされてイライラしてんだ。
さっさとぶちのめして、くだらない児戯は終わらせねぇとな。
10
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件
深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。
ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが――
その内容がとても信じられないもので…
bloveさんにも投稿しております。
完結しました。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる