386 / 483
第十六章 遊戯に翻弄される魔塔主と弟子と騎士と聖女
384.駆け引き勝負<ウルガー視点>
しおりを挟む
フルさんが求めていることに答えて満足させればいいはずだが、それがまだ分からない。
確実に言えることは、この甘い言葉に乗ってしまうことではないということくらいか。
別に命を取られたりはしない……よな? でも、相手は何をしてくるか分からない。
血生臭いことは嫌いだと言っていたが、俺の命を奪うことくらい簡単なことだろう。
俺がフルさんに向ける表情は笑んだままでも、背中には一筋の汗が流れていく。
「どうしたの? もっと甘えてくれていいのよ?」
「そうだな……では甘えまして。お互いのことを知るために質問し合いましょうか。それで、俺のことを本当に気に入ってくれたら……フルさんの気持ちをください」
「あら、大胆ね。いいわ。じゃあ、私から質問。ウルちゃんは好きな子はいるかしら」
「ええ、います。では俺も質問しますね」
俺がさっさと先に進めようとすると、フルさんは少し驚いた表情へ変わる。
それから、楽しそうに笑って見せた。
「返事があっさりしていると思ったけれど、返答としてはいるかいないかだものね」
「はい。なので、俺の番です。フルさんはこの質問のやり取りをあと二つしたら、満足してくれますか?」
「あら、せっかちさんね。私はもっと楽しみたいのに。満足するかどうかはあなた次第ね。じゃあ、私の番かしら。ウルちゃんの好きな子ってどんな子?」
正直この状況を長引かせたくないってのに、そう簡単にはのってきてくれないらしい。
でも、いつまでも問答を続ける気はさらさらない。俺は一刻も早くこの時間を終わらせるために、賭けに出た。
「せっかちだってよく言われます。俺が好きな子は俺に対して好意的な子ですね。では二つ目。フルさんが好きなのはフルさん自身ですよね? 俺のことなんてどうでもいい。違いますか?」
俺が言い切ると、フルさんは瞬きしてからクスクスと楽しそうに笑い始めた。
そして、俺を舐めまわすように見てからゾッとするような冷たい笑みを浮かべる。
「ふぅん。お遊びに付き合う気はないということ? 貴方、怖がりの癖に大胆なのね。私が機嫌を損ねるとは思わないの? それともさっさとこの先へ進みたいのかしら」
「ええ。申し訳ないですが、一刻も早く宝石をいただきたいので。でも、こういう刺激的な展開もお嫌いじゃないでしょう?」
「嫌いではないし、私は私のことが一番好き。それはあっているわ。じゃあ、私の番ね。私には勝てないと分かっているのに仕掛けてきたのはなぜ?」
先ほどとは違い、独特の空気で俺を威嚇してきているのが分かる。
相変わらず背中には汗が流れているが、のらりくらりと適当な態度を取ればただ時間を引き延ばされるだけだ。
こういう輩は短期決戦で何とかするしかない。
「それは……俺が無理でも仲間が何とかしてくれるからです。ですが、ここは俺が何とかすると言ってしまいましたし……では最後に。これでフルさんを楽しませたことになりますよね?」
俺が無理やり押し通すと、フルさんはスウっと目を細めてからニイと妖艶に微笑んだ。
口元に指をあてて、どうしようかしら……と意味深に呟いてくる。
「うふふ……ハーゲンティが付き合えっていうから来たけれど、人間にそこまで興味がなくって。でも、貴方との会話は楽しかったわ」
フルさんは威嚇を解いて微笑みながら胸元へ手を差し入れると、赤い宝石を取り出して俺へ宝石を手渡してくれた。
「ありがとうございます。これであっていたのか全く自信はありませんでしたが、満足していただけたのですか?」
「そうね。私の誘いに乗らない子は初めてだったけれど、貴方とお話するのは悪くなかった。ね、ウルガーちゃん」
「ですよね……その鏡で見てたっていうなら、俺たちの話も聞こえてますよね。つい偽名を名乗ってしまったことは謝ります」
偽名を名乗ったのも特に意味はなかったが、それすらフルさんを楽しませる方向へ働いたようで内心ホッとする。
俺がゆっくりと席を立つと、フルさんはクスクスという笑い声だけを残しスーッと溶けるように姿を消してしまった。
確実に言えることは、この甘い言葉に乗ってしまうことではないということくらいか。
別に命を取られたりはしない……よな? でも、相手は何をしてくるか分からない。
血生臭いことは嫌いだと言っていたが、俺の命を奪うことくらい簡単なことだろう。
俺がフルさんに向ける表情は笑んだままでも、背中には一筋の汗が流れていく。
「どうしたの? もっと甘えてくれていいのよ?」
「そうだな……では甘えまして。お互いのことを知るために質問し合いましょうか。それで、俺のことを本当に気に入ってくれたら……フルさんの気持ちをください」
「あら、大胆ね。いいわ。じゃあ、私から質問。ウルちゃんは好きな子はいるかしら」
「ええ、います。では俺も質問しますね」
俺がさっさと先に進めようとすると、フルさんは少し驚いた表情へ変わる。
それから、楽しそうに笑って見せた。
「返事があっさりしていると思ったけれど、返答としてはいるかいないかだものね」
「はい。なので、俺の番です。フルさんはこの質問のやり取りをあと二つしたら、満足してくれますか?」
「あら、せっかちさんね。私はもっと楽しみたいのに。満足するかどうかはあなた次第ね。じゃあ、私の番かしら。ウルちゃんの好きな子ってどんな子?」
正直この状況を長引かせたくないってのに、そう簡単にはのってきてくれないらしい。
でも、いつまでも問答を続ける気はさらさらない。俺は一刻も早くこの時間を終わらせるために、賭けに出た。
「せっかちだってよく言われます。俺が好きな子は俺に対して好意的な子ですね。では二つ目。フルさんが好きなのはフルさん自身ですよね? 俺のことなんてどうでもいい。違いますか?」
俺が言い切ると、フルさんは瞬きしてからクスクスと楽しそうに笑い始めた。
そして、俺を舐めまわすように見てからゾッとするような冷たい笑みを浮かべる。
「ふぅん。お遊びに付き合う気はないということ? 貴方、怖がりの癖に大胆なのね。私が機嫌を損ねるとは思わないの? それともさっさとこの先へ進みたいのかしら」
「ええ。申し訳ないですが、一刻も早く宝石をいただきたいので。でも、こういう刺激的な展開もお嫌いじゃないでしょう?」
「嫌いではないし、私は私のことが一番好き。それはあっているわ。じゃあ、私の番ね。私には勝てないと分かっているのに仕掛けてきたのはなぜ?」
先ほどとは違い、独特の空気で俺を威嚇してきているのが分かる。
相変わらず背中には汗が流れているが、のらりくらりと適当な態度を取ればただ時間を引き延ばされるだけだ。
こういう輩は短期決戦で何とかするしかない。
「それは……俺が無理でも仲間が何とかしてくれるからです。ですが、ここは俺が何とかすると言ってしまいましたし……では最後に。これでフルさんを楽しませたことになりますよね?」
俺が無理やり押し通すと、フルさんはスウっと目を細めてからニイと妖艶に微笑んだ。
口元に指をあてて、どうしようかしら……と意味深に呟いてくる。
「うふふ……ハーゲンティが付き合えっていうから来たけれど、人間にそこまで興味がなくって。でも、貴方との会話は楽しかったわ」
フルさんは威嚇を解いて微笑みながら胸元へ手を差し入れると、赤い宝石を取り出して俺へ宝石を手渡してくれた。
「ありがとうございます。これであっていたのか全く自信はありませんでしたが、満足していただけたのですか?」
「そうね。私の誘いに乗らない子は初めてだったけれど、貴方とお話するのは悪くなかった。ね、ウルガーちゃん」
「ですよね……その鏡で見てたっていうなら、俺たちの話も聞こえてますよね。つい偽名を名乗ってしまったことは謝ります」
偽名を名乗ったのも特に意味はなかったが、それすらフルさんを楽しませる方向へ働いたようで内心ホッとする。
俺がゆっくりと席を立つと、フルさんはクスクスという笑い声だけを残しスーッと溶けるように姿を消してしまった。
10
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜
ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。
恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。
※猫と話せる店主等、特殊設定あり
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる