【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
383 / 483
第十六章 遊戯に翻弄される魔塔主と弟子と騎士と聖女

381.一難去ってまた一難

しおりを挟む
 聖女サマは警戒態勢を崩さず、光の球をウァラクへ向けたまま転がされた光るモノを拾い上げる。
 まあ、この流れだとこれがたぶん宝石ってヤツなんだろうな。

「これは?」
「話、聞いてなかった? これが宝石だよ! 負けを認めてあげるから、その玉を何とかしてよ。僕の可愛い髪がチリチリになっちゃう」
「焦がしたのは貴方だって一緒でしょう? 全く、髪の毛は乙女の命と一緒なの」
「だからって……さっき人が変わったみたいに怖かったし。あーあ、もうちょっと遊びたかったけど仕方ないよね。僕はもう帰ろ。元々暇つぶしで来ただけだし。じゃあね」

 言いたいことだけを言って、ウァラクは溶けるように姿を消した。
 魔族ってのは飽きるとすぐいなくなっちまうのか? よく分かんねぇな。
 聖女サマは杖を一振りして全ての魔法を解除すると、自然と集まった俺らの前で緑の宝石を見せてくる。
 思ったより大きめの代物みたいだな。聖女サマの手のひら大ってところか?

「これが宝石なのね。どうやって使うのかも分からないけれど、無事に手に入れられて良かったわ」
「聖女様、大丈夫でしたか?」

 レイヴンが心配そうに駆け寄ると、聖女サマは嬉しそうにニコリと微笑みやがる。
 髪と服を手で軽く整えながら、大丈夫よとレイヴンにまた近づこうとするからすかさず一歩踏み込んで邪魔してやった。

「コイツなら大丈夫だろ。中身は野郎だ」
「ちょっと! 信用してくれているのなら、もっと素直に言いなさい。これだからテオドールって嫌よね」
「全くだ。大声で聖女様の機密事項を叫ぶなど、魔塔主とあろう者がすることではないだろう?」
「あー……団長の声の方がデカイですからね? 分かってますか団長」

 ったく、相変わらず緊張感のない奴らだな。
 まあ、これくらいの方が俺もやりやすいから構わねぇが。
 ディーが更に大声で喚きながら文句を言おうとするのと同時くらいに、どこからか声が聞こえてくる。

「ねえ、誰か。ちょっと二階のお部屋まで来てくれない? 私の話し相手になってほしいの」

 その声は艶めいた高い声だ。声的には女っぽいか?
 これが美人なお姉ちゃんだったら、喜んで話に行くんだがなァ。
 俺の心の声を察知したのか、隣のレイヴンが凄い顔して俺のことをにらんでくる。

「……師匠、まんまと敵の罠に入り込むようなことはしないでくださいね」
「いくら俺でも時と場所は考えるに決まってんだろ。だが、無視する訳にもいかねぇし誰かが誘いにのってやる必要があるな」

 俺がレイヴンの頭を撫でてなだめると、小さく安堵の息を漏らしたことが分かる。
 美人の罠だったらノってやってもいいが、レイヴンは嫌がりそうなんだよな。
 俺の迷いを読み取ったのか、空気を読んだらしいウルガーが仕方ありませんねと呟いた。

「団長は力押しの相手が来るまで出番を取っておいたほうがいいでしょうし、ここは俺が行きますよ。ご指名はないみたいですし、それなら俺が無難じゃないかと」
「そうね。ウルガーちゃんなら相手が何を言ってきたとしてもきっと惑わされずに解決してくれると思うわ」
「確かに、一理あるな。俺は駆け引きという小細工は不得手だ。ウルガーならば魔族の甘言かんげんに惑わされることなく、使命を果たしてくれるだろう」

 大げさに祭り上げられちまったのは予想外だったみてぇだが、ディーの言ってることも間違っちゃいねぇからな。
 ウルガーはかったるそうに首の裏を手のひらで擦りながら、行ってきますと言い残して二階へ続く階段を上り始めた。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...