【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

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第十五章 自信満々な魔塔主と更に強くなった弟子

375.聖女と補佐官と気に食わない魔塔主

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 俺が防音結界を張ってやると、レイヴンが頷いて口を開く。
 レイヴンを見て察したのか、聖女サマも少し真剣な表情をレイヴンへ向けた。

「聖女様、俺は精霊の力が使えます。ですが、このことは陛下にも伝えていません。ですから……」

 レイヴンが言いかけたところで、聖女は微笑して首を振る。
 コイツはこれでも聖女サマだ。訳アリのヤツなんて今までも腐るほど見てきただろうし何となく事情があることは分かるんだろうな。

「レイヴンちゃん、全て私にまで言わなくてもいいわ。大丈夫。私も一生隠さねばならない秘密を背負った身。何があっても決して口外しないし、レイヴンちゃんはレイヴンちゃんよ」
「聖女様……ありがとうございます」

 レイヴンが緊張した表情から安心した表情に変わったのを見て、聖女サマもニッコリと微笑む。
 わざとらしい顔だが、コイツが言ってることは間違っちゃいねぇし自分の生い立ちも考えりゃ自然なことか。
 
「まあ、国民が野郎でおっさんだって知ったら聖女様だーなんて呼べねぇよな」
「うるっさいわね。テオドールは黙ってなさい。私はレイヴンちゃんと話しをしているのよ」
「ピーピーうるせぇんだよ。それより話が終わったなら結界を解くぞ」

 パチンと指を鳴らして、結界を解く。
 レイヴンの憂いも済んだし、後はコイツがどうするかだ。
 そういや俺たちと一緒に来る気満々な聖女サマだが、見るからに軽装備なんだよな。
 表立って戦闘はしないにしても、多少装備を整えた方がいいはずだ。
 
「で、聖女サマは戦う準備ができてんのか? 回復係にしても、万全にしておいた方がいいぞ。今回は残念ながら少し真面目にしなきゃいけねぇからよ」
「ええ。一度神殿に戻って、必要な物は持ってくるわ。相手が魔族というのは聞いているし、魔族と女神様は相対する存在でもある。あちらには別の神がついているでしょうし、私としても見逃す訳にはいかないのよ」
「僕たちは回復魔法が使えませんし、戦闘以外で急ぎ手当てをするか手持ちの回復薬に頼るしかありません。魔族が何を仕掛けてくるのかは分かりませんが、戦闘の際に聖女様がいて下されば心強いです」

 レイヴンも申し訳なさそうな顔はしてるが、正直回復手段が増えるのはいいことだな。
 どういう形できても速攻で終わらせるつもりではいたが、薬を持参するにも数に限りがある。
 ヤツらが何を考えているかは分からねぇが、もてる手段は多い方がいい。

「まさか陛下が許可を出すとは思わなかったがな。確かに魔族は俺らが全力を出し切らず愉しませない方向になるのは望んでねぇだろうし。じゃなければ、さっさとこの国に攻め込んできてるだろうよ」
「邪悪で愉悦を求める存在。その割には高貴ぶったりするから面倒なのよね。それに……いえ、何でもないわ」

 聖女が急に顔を曇らせるのは気になるだろうが。
 もしかして、何か心当たりがあるから一緒に行くって言いだしたのか?

「言いかけてやめんなよ。気になるだろうが」
「ごめんなさい、でも私も正確に何かが見えた訳じゃないの。だから、それを確かめるためにも行くわ」
「ありがとうございます、聖女様。ですが、聖女様に何かあれば国の損失です。くれぐれもご無理されませんよう……」

 レイヴンが言いかけたところで、聖女は俺を押しのけてレイヴンをぎゅうーっと抱きしめ始めた。
 コイツ……俺が珍しく真面目に言ってやったら図に乗りやがって。

「おい、何してんだよババア! レイヴンに触るんじゃねぇ!」
「うるっさいわね、心が狭い男は嫌われるわよ? だって、レイヴンちゃんが健気で可愛いのだから仕方ないでしょう?」

 無理やり引き剥すと、漸くレイヴンから離れやがった。
 全く、油断も隙もねぇなコイツ。ディーとは別の意味でムカつく野郎だな。

「師匠……俺たちもそろそろ準備に行きましょう。聖女様、申し訳ありません。また後程」
「ええ。レイヴンちゃん……コイツに深入りしすぎないようにね」

 最後に意味深な言い回しをしやがって。
 戦力だと割り切るしかねぇが、ディーとババアが組むのもウゼェんだよな。
 この二人が揃うと説教臭くなるし、レイヴンのことをやたら構ってきやがるから苛ついてしょうがねぇ。
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