【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
365 / 483
第十四章 準備万端な魔塔主と常に努力する弟子

363.当てが外れた師匠と優しく励ます弟子

しおりを挟む
 俺はレイヴンと離れていて寂しくなった師匠を演じながら、レイヴンの手を取って軽く握る。
 警戒していないレイヴンは、俺の言葉を静かに待っているようだ。

「俺もレイヴンのことをたくさん褒めてやるから。レイヴンも俺にご褒美をくれないか?」
「ご褒美ですか? 俺ができそうなことであれば。テオは上に立つものとして、いつも俺たちを導いてくれていますから。導き方が多少乱暴でも、尊敬すべき魔塔主様ですよ」

 レイヴンが優しく微笑みかけてくれると、さすがに少し罪悪感が湧く気もするが全部嘘って訳でもねぇし。
 ここは一気に畳みかけて、優しくしてもらうに限る。
 
「ありがとな。俺もレイヴンが補佐官だからこそ安心できるってもんだ。それに……レイヴンが俺を褒めながらキスしてくれたら元気が出そうだ」
「俺のことを頼りにしてくれるのは嬉しいんですが……キス?」
「ああ。ダメか?」

 あくまで弱っている風を装って、レイヴンに強請るような視線を向ける。
 普段なら突っぱねてくるはずだが、どうやら俺が本当に弱気だと思ってくれたみたいだな。
 レイヴンは俺から視線を外して逡巡したあと、分かりましたと言ってきた。

「仕方ありませんね。俺だって……いえ、今はテオを励まさないと」

 レイヴンは頷いてからカップのコーヒーを手に取ってグッと飲み干すと、俺の方へ改めて身体を向けてきた。
 俺が握った手の上に、レイヴンは優しく手を重ねてくる。

「テオ、俺があなたの側で力になります。だから、背負い過ぎないでください。俺にもあなたの重荷を背負わせて欲しいんです」

 レイヴンが真剣に俺を励ましてくるせいで、完全に毒気を抜かれちまった。
 黒の瞳に捉えられると、逃さない圧迫感ではなくふわりと包み込まれるような気がする。
 レイヴンは左手を俺の頬に添えて、優しいキスを唇へ落としてきた。

「テオは凄いです。不可能を可能にしてしまう実力を持っています。でも、それはテオが真摯に魔法と向き合っているからですよね。誰も知らなくても、俺は知ってるんですから。安心してくださいね」

 レイヴンが微笑みながら、細い指で俺の頬を撫でる。
 労わるような動きは、俺が思っていた展開とは全く違うものだが……たまにはこういうのも悪くない。
 ただ、真面目に褒められると妙に気恥ずかしいもんだ。
 
 レイヴンは俺の僅かな表情の変化にもすぐ気づいたのか、クスっと笑って更にちゅっと啄むように口付けてくる。
 このままだと、レイヴンの真っ直ぐな優しさに俺の方が押し負けそうだな。
 いつもの如くぎゃあぎゃあ言わせてから押し倒した方が分かりやすかったんだろうが、こうも生真面目にこられると正直やりづらい。

「参ったな……レイちゃんには敵わねぇ。俺が悪かった」
「え? 何がですか?」

 レイヴンがきょとんとした顔で俺をじっと見つめてくる。
 本当は激しく可愛がりたかったってのに、こんな純粋に励まされたんじゃいくら俺でも無下にはできない。

「いや、コッチの話だ。レイ、もう少し頼む」
「よく分かりませんが……分かりました。テオがそういうなら」

 俺からレイヴンへ顔を近づけると、レイヴンも俺を引き寄せるように俺の首へ両手を回してきた。
 鼻先を掠めるように、時々触れてくる柔らかい唇が擽ったい。
 レイヴンも気恥ずかしそうにしながら、俺のためにキスを続けてくれるみたいだ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】元ヤクザの俺が推しの家政夫になってしまった件

深淵歩く猫
BL
元ヤクザの黛 慎矢(まゆずみ しんや)はハウスキーパーとして働く36歳。 ある日黛が務める家政婦事務所に、とある芸能事務所から依頼が来たのだが―― その内容がとても信じられないもので… bloveさんにも投稿しております。 完結しました。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

蜂蜜とストーカー~本の虫である僕の結婚相手は元迷惑ファンだった~

清田いい鳥
BL
読書大好きユハニくん。魔術学園に入り、気の置けない友達ができ、ここまではとても順調だった。 しかし魔獣騎乗の授業で、まさかの高所恐怖症が発覚。歩くどころか乗るのも無理。何もかも無理。危うく落馬しかけたところをカーティス先輩に助けられたものの、このオレンジ頭がなんかしつこい。手紙はもう引き出しに入らない。花でお部屋が花畑に。けど、触れられても嫌じゃないのはなぜだろう。 プレゼント攻撃のことはさておき、先輩的には普通にアプローチしてたつもりが、なんか思ってたんと違う感じになって着地するまでのお話です。 『体育会系の魔法使い』のおまけ小説。付録です。サイドストーリーです。クリック者全員大サービスで(充分伝わっとるわ)。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

処理中です...