【第二部開始】風変わりな魔塔主と弟子

めーぷる

文字の大きさ
上 下
358 / 483
第十三章 魔塔に残った魔塔主と修行する弟子

356.剣を持て

しおりを挟む
 俺が素早く訓練場まで連れて来てやったってのに、ディーは移動テレポートで酔ったと言いながら暫くふらふらしていた。
 ったく、情けねぇな。

「いつまで休んでんだよ。俺の魔法はタダじゃねぇってのに。顔青くしやがって」
「煩い。魔法使いとは違って、地に足が着かないというのは気分が悪いんだ」
「馬だって足は地に着かねぇし、お前がひ弱なだけだろ。俺は酔ったからって、手加減しないからな」
「手加減などされては困る。いくらテオが規格外でも剣での勝負なら俺に分があるからな」

 言い方が腹立つな。
 俺だってバカ正直に剣で勝負を挑む気なんてさらさらない。
 ディーの剣を同じく剣で受けてたまるかってんだ。

「さっきも言ったが、俺はこぶしでいく。スカっとしたいだけだしな」
「それは訓練ではなくただの憂さ晴らしだな。気持ちは分からんでもないが、昔は共に剣を交えたというのに。まさか俺とやり合う自信がないのか?」

 ディーの野郎、やたらと挑発してきて何様のつもりなんだ?
 スカっとするどころかイラっとするだけなんだがなァ。

「騎士団長様ともあろうお方が、性格悪ぃな。か弱い魔法使いを煽ってくるとはなァ?」
「どの面下げて言っている。それだけガタイの良い魔法使いなら問題ないだろう。いいから構えろ」

 なんでここまで剣を持たせたいんだか。
 ガキの頃は剣術も習っていたから握れなくはねぇが、だからといって剣一筋のディーと比べれば分が悪いだろうな。
 無意味に人を煽るヤツじゃねぇから、何かしらの意図があるのかもしれねぇが。
 それにしても脳筋の考えてることは意味不明だ。

「面倒臭すぎるだろ。何をさせたいのか知らねぇが、さっさと終わらせるぞ」

 訓練用の剣を手に取って、仕方なく構える。
 俺が構えたのを見ると、ディーも満足げに頷いて剣を構えてくる。
 これで俺がボコられたら、後で魔法も使って徹底的に潰してやるか。

「こうやって手合わせするのはいつ以来だろうな」
「さあな。戦争が終わってからはやりあった記憶がねぇし、ウン十年ぶりとかじゃねぇの?」
「そうか。テオは真面目に訓練していたならば騎士として活躍できる実力はあったはずだからな」
「何年前の話をしてるんだよ、気持ち悪ぃな。お貴族様の決まり事で剣術も習ってただけだ。元々そこまで剣に興味なんてねぇよ」

 ディーの家は代々騎士団長を輩出してるが、バダンテール家は騎士だろうがなんだろうが優秀で国の中枢へ食い込めればそれでいいという教えだったよな。

 俺の父親に当たる前当主は、プライドの高いヤツだった。
 自分の跡取りは何事も完璧にこなして当然で、出来損ないは一族の恥だと言い放つような人物だ。
 それが家のため厳しく接していると言えば聞こえはいいが、アイツは自分のできないことを全て跡取りへ押し付けて威張るだけのクズ男だしな。
 自分は甘い汁を吸い続け汚いことは下々の者にやらせて荒稼ぎし贅沢三昧、気に食わないことがあれば弱者に暴力を振るってた。

 ヤツの息子として、父親らしい愛情をかけてもらった記憶はない。
 ある意味貴族らしいっちゃ貴族らしいかもしれねぇが、いけ好かない人物なのは間違いねぇ。
 正直、思い出しても仕方ない記憶だ。
 
 昔の話はさておき、元々金の流れで裏から国を支配する家だから本来は習い事系も全て嗜み程度でいいはずだったんだけどな。
 まあ、今の俺にとっては関係ねぇからどうでもいい話だ。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

すずらん通り商店街の日常 〜悠介と柊一郎〜

ドラマチカ
BL
恋愛に疲れ果てた自称社畜でイケメンの犬飼柊一郎が、ある時ふと見つけた「すずらん通り商店街」の一角にある犬山古書店。そこに住む綺麗で賢い黒猫と、その家族である一見すると儚げ美形店主、犬山悠介。 恋に臆病な犬山悠介と、初めて恋をした犬飼柊一郎の物語。 ※猫と話せる店主等、特殊設定あり

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。 ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。 「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」 と、親友の父から衝撃の告白。 なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。 母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。 「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」 と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。 でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。 同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。 「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」 「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」 腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡ ※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

暁にもう一度

伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。 ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。 ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。 けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。 『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...