467 / 483
番外編SS
飲んだくれの師匠と魔女っ子の弟子<ハロウィンSS 3>
しおりを挟む
まさか話しかけられると思ってなかったから、妙に緊張する。
彼は俺の方をじっと見つめてくる。
「これは失礼。折角の祭りなのに一人でいる貴方が気になって」
「少し疲れてしまったので休んでいました。素敵な扮装ですね」
身長も高いみたいだし、普段は貴族のご令嬢をお相手している偉い人なのかもしれない。
俺はそこまで貴族事情に詳しくないから、どなたなのかまでは推測できない。
もしかしたら王族の可能性もあるし、慎重に対応しておいた方がいいかもな。
「褒めていただけるとは光栄です。ここでお会いしたのも何かの縁。少し踊りませんか?」
「踊ったことはないんですけど、じゃあ少しだけ」
果物をベンチの上へ置くと、差し出された手を取って立ち上がる。
祭りの日だし、エスコートを断るのは失礼だよな。
女性じゃなくて申し訳ないけど、許してもらおう。
噴水の側まで連れてこられると、明るい音楽に合わせて踊り始める。
みんな好き勝手に踊っているから、舞踏会で踊るような緊張するものじゃないけど相手の足を踏んでしまいそうだから慎重に合わせて踊る。
「お上手ですね」
「これでも一応、踊れるもので」
くるりと身体を回される。
彼は踊り慣れているみたいで、俺は適当に合わせるだけで踊れている感じがする。
少し楽しくなってきて、何度かステップを踏んでいるとうっかりぐらついてしまった。
「わっ!」
すぐさま腕が伸ばされて、片手で身体を支えられた。
転ぶと思ったのに、綺麗に背中を逸らした状態で留まっているから踊りの一部みたいだ。
「あ、ありがとうございます……」
「いいえ、お気になさらず」
クスと笑う声が聞こえてきて、気恥ずかしくなる。
知らない男性に迷惑をかけてしまうところだった。
暫く踊っていると一曲終わったみたいで、一度音楽が鳴りやんだ。
「先ほどは失礼しました」
丁寧にお詫びを伝えると、彼は一度緩く首を振ってからフッと息を吐いて俺の身体を更に抱き寄せた。
踊りは終わったはずなのになぜか俺と密着しているので、どうしていいのか分からなくなって身体が固まる。
「ウチの可愛い魔女っ子は、鈍感で可愛らしいな」
あっと声をあげる間もなく、顎を捕えられ上向きにされると唇を奪われた。
洋酒の香りがふわりと鼻孔を擽る。
「んむぅ!」
「たまにはこういうのも悪くないだろ?」
仮面の奥の赤い瞳が楽し気に細められた。
ここまでされると、流石に誰なのか気が付く。
「なんで貴族のフリをするんですか。そんなに見た目変えられたら分からないじゃないですか!」
「これくらいで騙されるようじゃ、レイちゃんもまだまだだな」
「普段の粗暴な態度を隠してた癖に。なんで俺の居場所が分かったんですか、テオ」
「分かるに決まってるだろ。俺を誰だと思ってるんだよ」
祭りに来るつもりなら、すぐに起きてくれればいいのに。
俺のいる場所にはいつでもすぐに飛んでくるっていうのは、嘘じゃないらしい。
「俺を騙して楽しかったですか? ホント性格悪い」
「ただ普通に見つけても面白くないと思ったが、声を弄った訳じゃないのに気づかないんだもんなァ」
「テオが貴族だっていうこと、常に忘れてるもので」
「いつもこんな堅苦しいことできる訳ねぇだろ。でも、レイちゃんにとって刺激的なら時々してやろうか?」
言い方まで腹が立つ。
ぷいっと顔を背けたのに、テオは俺のことを放してくれない。
それどころか、祭りだから誰も見ていないとか言ってずっとベタベタしながらキスしてくる。
この人、絶対にただの酔っ払いだ。
さっき俺がカッコイイと思って見惚れてしまった事実は、心の奥底に封じ込めようと誓った。
彼は俺の方をじっと見つめてくる。
「これは失礼。折角の祭りなのに一人でいる貴方が気になって」
「少し疲れてしまったので休んでいました。素敵な扮装ですね」
身長も高いみたいだし、普段は貴族のご令嬢をお相手している偉い人なのかもしれない。
俺はそこまで貴族事情に詳しくないから、どなたなのかまでは推測できない。
もしかしたら王族の可能性もあるし、慎重に対応しておいた方がいいかもな。
「褒めていただけるとは光栄です。ここでお会いしたのも何かの縁。少し踊りませんか?」
「踊ったことはないんですけど、じゃあ少しだけ」
果物をベンチの上へ置くと、差し出された手を取って立ち上がる。
祭りの日だし、エスコートを断るのは失礼だよな。
女性じゃなくて申し訳ないけど、許してもらおう。
噴水の側まで連れてこられると、明るい音楽に合わせて踊り始める。
みんな好き勝手に踊っているから、舞踏会で踊るような緊張するものじゃないけど相手の足を踏んでしまいそうだから慎重に合わせて踊る。
「お上手ですね」
「これでも一応、踊れるもので」
くるりと身体を回される。
彼は踊り慣れているみたいで、俺は適当に合わせるだけで踊れている感じがする。
少し楽しくなってきて、何度かステップを踏んでいるとうっかりぐらついてしまった。
「わっ!」
すぐさま腕が伸ばされて、片手で身体を支えられた。
転ぶと思ったのに、綺麗に背中を逸らした状態で留まっているから踊りの一部みたいだ。
「あ、ありがとうございます……」
「いいえ、お気になさらず」
クスと笑う声が聞こえてきて、気恥ずかしくなる。
知らない男性に迷惑をかけてしまうところだった。
暫く踊っていると一曲終わったみたいで、一度音楽が鳴りやんだ。
「先ほどは失礼しました」
丁寧にお詫びを伝えると、彼は一度緩く首を振ってからフッと息を吐いて俺の身体を更に抱き寄せた。
踊りは終わったはずなのになぜか俺と密着しているので、どうしていいのか分からなくなって身体が固まる。
「ウチの可愛い魔女っ子は、鈍感で可愛らしいな」
あっと声をあげる間もなく、顎を捕えられ上向きにされると唇を奪われた。
洋酒の香りがふわりと鼻孔を擽る。
「んむぅ!」
「たまにはこういうのも悪くないだろ?」
仮面の奥の赤い瞳が楽し気に細められた。
ここまでされると、流石に誰なのか気が付く。
「なんで貴族のフリをするんですか。そんなに見た目変えられたら分からないじゃないですか!」
「これくらいで騙されるようじゃ、レイちゃんもまだまだだな」
「普段の粗暴な態度を隠してた癖に。なんで俺の居場所が分かったんですか、テオ」
「分かるに決まってるだろ。俺を誰だと思ってるんだよ」
祭りに来るつもりなら、すぐに起きてくれればいいのに。
俺のいる場所にはいつでもすぐに飛んでくるっていうのは、嘘じゃないらしい。
「俺を騙して楽しかったですか? ホント性格悪い」
「ただ普通に見つけても面白くないと思ったが、声を弄った訳じゃないのに気づかないんだもんなァ」
「テオが貴族だっていうこと、常に忘れてるもので」
「いつもこんな堅苦しいことできる訳ねぇだろ。でも、レイちゃんにとって刺激的なら時々してやろうか?」
言い方まで腹が立つ。
ぷいっと顔を背けたのに、テオは俺のことを放してくれない。
それどころか、祭りだから誰も見ていないとか言ってずっとベタベタしながらキスしてくる。
この人、絶対にただの酔っ払いだ。
さっき俺がカッコイイと思って見惚れてしまった事実は、心の奥底に封じ込めようと誓った。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
手紙
ドラマチカ
BL
忘れらない思い出。高校で知り合って親友になった益子と郡山。一年、二年と共に過ごし、いつの間にか郡山に恋心を抱いていた益子。カッコよく、優しい郡山と一緒にいればいるほど好きになっていく。きっと郡山も同じ気持ちなのだろうと感じながらも、告白をする勇気もなく日々が過ぎていく。
そうこうしているうちに三年になり、高校生活も終わりが見えてきた。ずっと一緒にいたいと思いながら気持ちを伝えることができない益子。そして、誰よりも益子を大切に想っている郡山。二人の想いは思い出とともに記憶の中に残り続けている……。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
俺は魔法使いの息子らしい。
高穂もか
BL
吉村時生、高校一年生。
ある日、自分の父親と親友の父親のキスシーンを見てしまい、平穏な日常が瓦解する。
「時生くん、君は本当はぼくと勇二さんの子供なんだ」
と、親友の父から衝撃の告白。
なんと、二人は魔法使いでカップルで、魔法で子供(俺)を作ったらしい。
母ちゃん同士もカップルで、親父と母ちゃんは偽装結婚だったとか。
「でさ、魔法で生まれた子供は、絶対に魔法使いになるんだよ」
と、のほほんと言う父親。しかも、魔法の存在を知ったが最後、魔法の修業が義務付けられるらしい。
でも、魔法学園つったって、俺は魔法なんて使えたことないわけで。
同じ境遇の親友のイノリと、時生は「全寮制魔法学園」に転校することとなる。
「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」
腹黒美形×強気平凡の幼馴染BLです♡
※とても素敵な表紙は、小槻みしろさんに頂きました(*^^*)
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
暁にもう一度
伊簑木サイ
ファンタジー
成り上がり貧乏辺境領主の後継者ソランは、金策のため、「第二王子を王太子になるよう説得できた者に望みの褒美をとらす」という王の頼みごとを引き受けた。
ところが、王子は女嫌いということで、女とばれないよう、性別を隠して仕えることになる。
ソランと、国のために死に場所を探している王子の、「死なせない」と「巻き込みたくない」から始まった主従愛は、いつしか絶対に失いたくない相手へと変わっていく。
けれど、絆を深めるほどに、古に世界に掛けられた呪いに、前世の二人が関わっていたと判明していき……。
『暁に、もう一度、あなたと』。数千年を越えて果たされる、愛と祈りの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる